第三話 石化
「灰色の……足……?」
「これは、一種の病気なんだ。キュラ、ちょっといいか?」
「うん。」
おじさんはその灰色の足を軽く手で叩く。
それと同時にコンコンと硬い音が響く。
「これは、肉体硬化、いわゆる石化だな。魔穴って知ってるか?」
「えぇ、最近各地で発生している異常現象でしたっけ。」
「まぁ、空間に穴があいて普段なら存在しない魔物とかが大量にでてくる現象ってことだ。これはそれが原因だ。」
「過去に……それが起きたんですか?」
「あぁ、この近くに……発生したんだ……娘がいた場所に。」
「――!?」
「その時に出た魔物はただ一体、鳥型に長い尻尾を持ったやつだ。娘は可愛いと思ったらしく、ついついそれに近づいてしまったんだ。」
「それが……原因で……」
「あぁ、不用意に近づいた結果、足に攻撃をされてしまったんだ。キュラはそれに驚いて帰ったようだが、家に着いたころには足の一部が灰色になっていたんだ。」
「石化攻撃……」
人の状態異常にはいろいろあるが、石化は相当やっかいだ。
他の火傷などは体が動かせるし、軽いものなら低級状態異常回復薬でも飲めば時間がかかるものの治るだろう。
麻痺なども時間がかかるものの、動くことはできる。
凍結は動けないが、自然に動けるようになる。
だが、石化は動くこともできず自然回復もしない。
かかりにくいが、一人でいるときにかかってしまうと大変な事になるだろう。
「でも……状態異常回復薬を使ったら治ると思うんですけど……」
「それが……だめだったんだ。」
「え!?」
「状態異常回復薬をありったけ買ったんだ、低級から上級、さらには……貯金の大半を使って最高級まで買った……伝説級は買えなかったが……」
「でも、まだこの状態ってことは……」
「お前の予想通りだ。全く……治らなかった……」
「なんでなんですか……?」
「わからない……考えられるのは呪いの類か……それとも闇魔法の類かだ。」
闇魔法なら……治療方法が思いつかない。
「聖水を買うという手段はあったんだが、もう金が無くなってな。それに教会の聖水が必ず効果があるとは限らないし……」
「よっぽど酷いんですね……」
「しかも……じわじわと石化している場所が増えているんだ…」
「てことは早く手を打たないと!」
「だから……お前に頼みたいんだ、なんなら冒険者ギルドを通してもいい。」
「いや、僕はまだ冒険者になってないので……」
冒険者になるための最初の登録は王都とか大きな所のでしかできないため、この町の冒険者ギルドを使う事ができない。
「あと……崩壊草がなぜ必要なんですか?」
「崩壊草の効果は知っているか?」
「えっと、すりつぶして液体にすると少量の岩を崩す効果があるんでした……っけ……ってまさか!」
「そのまさかだ、この足を……砕くしかないんだ、体中に広がって命にかかわる前に。」
「でも……娘さんは……」
「キュラは了承している。運が良ければ石化が溶けるだけかもしれないからな。だが……やるなら早めにやらないといけないんだ。足の先だけだったものが、二か月で膝まできているんだ。」
「てことは……このまま手を打たなかった場合のこり余命は……」
「……一年ちょっとぐらいだろう。だから、崩壊草を取ってきてほしいんだ。」
「市場などには出回らないんですか?」
「レアっていったが、普通の草と見た目はそう変わらないから見落としやすいし、効果もそこまで強くないから……出回らないんだ……だから……とってきてくれ!」
「……分かりました……受けさせてもらいます。」
さすがにこれを見た後だと放っておく事はできない。
こういうのを無視し続けると……自分の良心というか人間性が少しずつ壊れていく気がする。
いじめられていたからだろうか。
いじめられるけどだれも助けてくれない、その後人を信用できなくなり助けにきてくれた人を払いのける。
それを繰り返す負のスパイラルから僕は出る事ができたが、まだ……片足を突っ込んでいるのだろうか。
人を助けてあげることで……何かを紛らわそうとしているのだろうか。
自分自身でも良くわからない。
なんでだろう……
だが、考えるだけ無駄な気がしてくる。
とりあえず、今は少女を助ける事だけだ。
「ありがとう……でも一つ気をつけてくれ。教えるダンジョンは最近行方不明者が多発しているところだ。何かが起きているのかもしれないが、注意してくれ。」
「警告ありがとうございます。できる限り早く……持ってきます。」
「お兄さんが持ってきてくれるの?」
「あぁ、そうだよ。ちょっと待っててね。」
「ありがと……う……」
少しだけ体を起こしたキュラが急に足を押さえる。
大丈夫か!?
顔が歪んでものすごく痛そうだ。
「すまない……定期的にキュラに痛みが襲ってくるんだ。」
「それは……」
「石化が進行する時の合図だ。この痛みが襲った時には石化していく範囲が増えていくんだ。」
「ひ……ひどい……」
「しかも……痛みで気絶することもできないらしい……」
さすがに……酷過ぎる……
「そう言えば忘れていたな。俺はマルクス。本当に……頼む。」
「了解だ。」
重苦しくなった部屋から出る。
そのままシュナのいるところへむかう。
次は夜……




