第二話 交渉
「これは……見た目からしてすごそうだな……」
「もちろんだ!最高級の物を王都から貰って来たもんだ!しかも昔の国王からの贈り物らしいからな!持ってみるか?」
言われるがまま、軽い装飾のついた木の箱から輝くツルハシを持ち上げる。
「お……意外とずっしりくるな……」
普通の人なら持つ事も大変だと思えるような重み。
これは……相当頑丈だろう。
「これは確か、アダマンタイトを使ってある銘付きの道具だ。」
「え!?銘付きの道具!?」
銘付きの武器や防具は聞いたことがあるが、道具はめったにみない。
お守り型のものならあると聞いたことがあるがツルハシ型とは……
「名前はどういう物なんですか?」
「あー……どっかにメモしてあったんだけど無くしてしまったから覚えていないんざ!まぁ、表面がなにかすごいもので覆われているのは確かだったけどな。」
「何とももったいない……」
ここまでの性能は必要ないかもしれないけど……個人的にものすごく欲しくなる。
この手にしっくりくる感覚……一度でいいから使ってみたい……
「ちなみにお値段は?」
「聖金貨は確かだからな……」
「聖金貨!? 」
頭の中に聞いた事のある聖金貨のイメージが思い浮かぶ。
薄く輝く青みのかかった透明な貨幣で、とてもずっしりとしていると聞いた。
しかも、違法に作られないように魔法がかかっていて壊すこともできないらしい。
相場は詳しくは覚えていないが確か、金貨千枚から一万枚……さらには十万枚ぐらいだったかもしれない。
「これは……さすがに買えないな。」
「う~ん……安くしておくぞ、なんなら借金でもいい。倉庫の端っこで眠ってるだけだし、奴隷に掘らせるような時代だからだれも買わないんだよなぁ……メンテナンスがいらないとはいえ大きいからスペースを取るからなぁ。」
お店のおじさんが大変そうな顔をしながら売り込みをしてくる。
買いたいのは山々なんだけどお金がどう考えても足りないよ……
「なら……依頼を受けてくれれば金貨1枚までまけてやる!」
「何!?」
驚愕の提案に驚きの声が出る。
金貨一枚までまけるって……何事だよ!?
「とりあえず、こっちに来てくれないか?ここじゃ話せない事なんだ。」
「……怖いけどわかった。シュナ、行こう。」
「わらわが空気みたいで悲しかったのじゃ……」
隅っこでいじいじしていたシュナを連れて、おじさんについていき店の奥の部屋へ入る。
そのまま、応接間のような場所に置かれた大きなイスに、シュナと共に腰掛ける。
「で?依頼ってなんですか?」
「ちょっと大変な事になっていてな、有名人のお前ならできるかなと思ってな。」
「こんなところまで僕の名前が……」
町中では僕のあだ名が跳躍の赫黒という物で流れてしまっている。
なんかかっこいい気がするけど……なんか嫌だ……
「で、頼みたい事はあるものを持ってきてもらいたいという事だ。」
「えっと……なにか相当高価な物なんですか?」
「とてつもなく高価ってわけじゃないがレア物には変わりがないがな。」
なんだかとてつもなく嫌な予感しかしない。
あんな高価な物を一気に安くするんだから相当難しいものだろう。
「とってきてほしいものは、崩壊草だ。」
「崩壊草?聞いたことがあるような無いような……」
「少しレアな物なんだが、近くにあるダンジョンに潜ればとることができる。ボスの部屋に生えている事が多いそうだが。」
「それが何のために必要なんですか?」
「……見てから後悔しても知らないが、真実を知るか?見なくてもいいけど、見た方が分かりやすいだろうからな。」
「シュナ、どうする?」
「わらわは遠慮しておくのじゃ。あまり、わらわが見ない方がいいようなものじゃろうし。お主に見てきてもらってよいじゃろうか。」
「分かった。じゃぁ僕が行きます。」
「そうか……ついてこい。」
「シュナ、これを持っていてくれ。」
「了解じゃ!」
一気に重苦しくなった空気を振りはらうように、シュナに買おうとして持っていた物を渡して立ち上がり、おじさんについていく。
そのまま、二つほど扉を開けて出たところはお店の裏口。
裏口と道を挟んだところにあった扉を再び押しあけて中に入る。
そこは、ごく普通の一般家庭の家だ。
「こっちだ。」
共に階段を上り二階へむかう。
いくつかある扉のうちの可愛くデコレーションされた看板のかかっている扉をおじさんが開けて中に手招きしてくる。
そのまま、中に入ると目に大きなベットが飛び込んでくる。
「キュラ、起きてるか?」
「お父さん?」
おじさんの呼びかけに反応するようにベットがごそごそと動く。
そのまま、黒髪長髪の女の子がベットから体を起こす。
シュナと同じぐらいの年だろうか。
「えっと……どういうことでしょうか……」
「お父さん、お客さん?」
「いや、キュラの病気を治すための薬を取ってきてもらう人さ。」
勝手に話が進んでいくのに着いていけない。
「おっと、説明を忘れていたな。この子は俺の娘のキュラだ。」
「よろしくです。」
上半身だけで丁寧にお辞儀をしてくる。
つい、反射でこちらも返してしまう。
「で、僕は一体何をすればいいのでしょうか……」
「崩壊草を取ってきてほしいといったのはこの子のためだ。キュラ、ちょっといいか?」
「……うん、いいよ。」
おじさんが布団の端っこを掴み、ゆっくりと持ちあげていく。
上がって行きながらキュラの足が見えてくる。
「……え!?」
キュラの足は……灰色だった。
次は三時……




