第十五話 獣人
「いや……いや……!痛いのは嫌!」
男の子が急に腕の中で暴れ出す。
ちょっと、あぶない!
「落ちついて!落ちついて!ここはそんな所じゃないわよ!」
「えっと……どうすれば……」
「あたふたしている暇があったら何か対策を考えて!」
だんだん強く暴れる子を少し強引に押さえつける。
「痛いのは……痛いのは……嫌……」
少しずつ意識が明瞭になっていくように、動きも弱まっていく。
少し……落ちついたわね。
「大丈夫?何があったか少しずつ話して?」
優しい声でなだめるように話しかける。
なんとなく予想はつくけど……
「殺さなきゃ……殺さなきゃ……痛いのは嫌!」
明瞭になった目がこちらを凝視し、突然魔法陣を展開させはじめる。
ちょ、あぶない!
「偉大なる風を作り出す、五大神よ、巨大なる力の一部を貸し与え、万物を打ち抜く玉を作り出せ!『風玉』」
久しぶりに聞く詠唱と共に魔法陣が作動し、顔に向かって風の玉が飛んでくる。
獣人の弱点……
それは、魔法を使うのに詠唱が必要だということだ。
詠唱は人によって長さや言葉なども違うが、この短さはなかなかのものわね。
人でも、詠唱を使う事はできる。
起動などに時間がかかるものの、威力や精度などが向上するという効果もある。
一部の魔法は、詠唱が必須なものもあると聞く。
とりあえず、詠唱を聞きながら魔法陣から出る魔法の効果範囲を確認し、そこに体が存在しないようにする。
風の玉が体のぎりぎりを通る感覚がする。
とりあえず、口をふさいで詠唱ができない状態に持ちこむ。
これでいいかな……




