第九話 帰還
もきゅもきゅとスライムグミを食べている少女と一匹の謎の狼とともに歩いているという謎の状況。
つい家に招待すると言ってしまったがどうおばあちゃんに言い訳をしようか。
最悪の場合ロリコンみたいになってしまう。
ロリコンは……いやだ。
「お主、なんか悩み事があるような顔をしているようじゃがどうしたんじゃ?相談に乗ろうか?」
「いや、なんでもない。」
と言うよりお前のせいだ。といって怒らせるような事はしない。
いろいろ言い訳を考えている時、道端からスライムが3体出てきた。
集団で戦うのはいくらなんでもキツイ。
一人で一体のスライムを倒しているあいだに他のスライムの攻撃が来て、それを受け止めている間にほかのスライムが攻撃してきて……という無限ループになってしまう。
だが、今は二人と一匹がいる。
「シュナ!お前とウルフで右側の二体をやれ!一体は僕がやる!」
「わかったぞ!”ポチ”右へ!」
「ガウ!」
盛大にずっこけた。
何だその名前は。
犬にしか付けないぞそんな名前。
「どうしたんじゃ?地面にキスをしておるぞ。ファーストキスはわらわの為に残しておけ!」
「転んだだけだ!お前のネーミングセンスに対して!そしてお前にファーストキスをやると誰が言った!」
「否定しないという事は可能性があるということじゃな。」
バカかこいつは。
別に悪くはないがロリコンにはなりたくない。
「そんなことよりも戦闘し集中しろ。」
「いや……お主のせいじゃが。」
「そこはスルーして!お願いだから!」
冗談はここまでにして改めて敵に向かう.。
刀を構えて突進する。
水平切りからの斜め下からの切り上げ。
二連撃を使って一気に攻め込む。
運が良かったのか一撃で倒せてスライムグミを落とした。
シュナに加勢しようと思ったがその必要ないようだ。
魔法陣がスライムの体内に生成されて発動する。
3メートルという相当の距離があるけど発動している。
規格外という事で納得しているがそれにしてもすごいことだ。
「とりゃぁ!」
可愛らしい声で魔法を発動させる。
あいかわらず詠唱はなしだ。
魔法陣を見て魔法を判別しようと思ったがスライムの体内で生成されたために見れなかった。
(グシャァ)
気持ち悪い音を立てながらスライムが崩れ落ちる。
見事にバラバラになっている。
何を使ったのだろうか……
む、むごい。
スライムグミは残らなかったようだ。
あそこまでバラバラにすればもうそんなものまで残らないだろう。
「なんじゃ……つまらんのう……スライムグミがまた出れば食べたかったのじゃが……」
相変わらずお腹がすいているようだ。
さすがに放置しておくことは出来ない。
かわいそうだ。
「ほいっ。これでも食べて我慢しろ。」
さきほどとれたばかりのスライムグミを投げて渡す。
「おぉ、また出たのか!すごいのぉ。」
満面の笑みを浮かべてかぶり付く。
ほほえましい光景である。
それはさておきポチの様子を見る。
……こちらも心配ないようだ。
「ガウぅ!ガウガウゥ!」
手の鉤爪でスライムをえぐって貪り食べている。
汚い食事光景だ。
(グシャリ)
ついに崩れ落ちてしまった。
スライムグミはやはり残らなかったようだ。
でももうポチには今日はもう食料を与えなくてもいいだろう。
「張り合いのない相手だったのう……早くすすみたいのう……」
「分かったからとっとと行くぞ。」
また道を進みだす。
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道中で何体かのスライムやオークが出てきたが、あっけなく倒す事が出来た。
スライムは全部僕が倒すことになった。
シュナ曰くスライムグミを落とす確率が一番高いのは僕だからだそうだ。
ドロップしたスライムグミはすべてシュナにあげた。
「やっぱり美味しいのぉ。病みつきになりそうだ。」
もう8個ぐらい食べただろう。
食欲旺盛な事で。
「あんまり食べ過ぎると飯が入らなくなるぞー」
「大丈夫だ。問題ない。」
「知らないぞぉ~」
「グミとご飯は別腹じゃ!」
「そこはご飯とデザートは別腹じゃないのか。」
「なにを言っておる!ご飯とデザートとグミは別腹だ!」
「増えた!!」
ノリツッコミをしながら歩いていたら町が見えてきた。
「おぉこれがお主が住んでいる町かぁ!」
「はしゃぐのもいいがほどほどにしろよ。」
楽しそうな所はいいが、いくつか問題がある。
これだけは見過ごせない。
「ポチはどうするのか?町に魔物を連れてったら騒動になるぞ。」
「そうか、それなら。お疲れ様。もう帰っていいぞ。」
「ガウゥ!」
ポチの足元に魔法陣が生成される。
一瞬光り輝いたかと思ったらポチも魔法陣も消えていた。
「お前……ポチって使い魔だったのか……」
”使い魔”
魔物をテイミング、つまり仲良くなることで自分の配下にすることができるというものだ。
一度配下にしたモンスターは、呼び出したりまた元の場所に返したりすることができる。
魔物は基本敵対する事が多いためテイミングが可能な事はとてつもなく少ない。
また、成功することもとてつもなく少ないため使い魔をもっている人はほぼいないに等しい。
「ふっふーんすごいだろぉ。これでわらわにまた惚れただろぅ。」
「ないな。」
「相変わらずそっけないのぉ」
少しふてくされたように言われた。
なんというか駄々をこねる幼い子みたいだ。
「まぁいいぞ。いつかこの目的を達してやろうとも。さぁ町に行こうぞ!」
「待て。」
まだ一つだけ問題が残っている。
「お前と僕が歩いてるのを見られたらどんな噂されるか……ましてやロリコンってあだ名がついたらもう……」
「なんじゃと!まだわらわを子供扱いするのか!」
「でも見た目があるだろ!」
しょうがないので魔法袋から大き目の顔を覆える服を取り出す。
ローブというものらしい。
シュナ自身が小さいからちょうどよいだろう。
というか似合いそう。
さすらいの少女という所だろうか。
「なんじゃその服は。」
「お前はこの服を家まで来て行け。」
「いやじゃ!そんな暑苦しそうな服いやじゃ!」
「なら飯はなしだな。」
「しょうがない。着てやろう。」
しぶしぶながら着て貰った。
そのまま町中を歩く。
なんどかひやっとしたことはあったが何とか乗り過ごした。
そして、家の前までなんとかたどり着く事が出来た。
し、心臓がドキドキしすぎて死ぬかと思った……
「で、ここがお主の家というわけじゃな。」
「まぁそういう事だな。」
「よし行こうじゃないか。」
「待て。」
あわてて首根っこを掴む。
「なんでじゃ!わらわは腹が減っておるのじゃ!」
「待て親に見つかると面倒だ。作戦だけ伝えるぞ。」
作戦は簡単だ。
僕が親を誤魔化すので僕の影に隠れていっしょに部屋に行ってもらうというものだ。
そのあとはじっくりと親を説得しよう。
「了解じゃ。」
「じゃあ行こうか。」
扉をあける。
「ただいまー」
「おかえりー」
いつも通りの会話。
「ちょっとやる事あるから飯の前に部屋に行ってるね。」
「早くもどってきなさいよ~」
(行くぞ!)
ハンドサインで伝える。
小走りで部屋に走り込む。
「ふぅぅぅ。何とかなった……」
「これで大丈夫なのかのぅ……」
「まぁ何とかするから。ちょっとここで待ってて。」
シュナを部屋で待機させて居間に戻る。
「イツキ。ちょっといいかい?」
「あ、ちょうどよかった。僕も話が。」
ナイスタイミングだ。
「まぁばあちゃんから特に言う事はないけれどねぇ……一つ言うなら……思春期とはいえ女の子を部屋に連れ込んで変な事をするのはやめなさいよぉ……」
土下座をするしかなかった。
「すみませんでした!!!」
おばあちゃんはなんでもお見通しのようだ。




