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旅先で死ぬとは何事だ! 5

 蒼司は少女と交代して窃盗犯を拘束する。

 どちらかと言えば可憐、それでいて凜とした少女の声に蒼司は従わずにはいられなかった。

 立ちあがった少女の姿を見ると、背丈は葵より少し低く、顔立ちも幼い。ただ、胸元で自己主張しているものには葵は真っ青になるだろう。

 そして、その容姿の中で最も目を引くのは、腰まで届く長い髪と、青い瞳だ。

 流れるような長い銀髪はプラチナシルバーの輝きを持ち、エメラルドブルーの瞳は澄み切った海のようだ。

 その人外的な美貌に蒼司は見惚れてしまっていた。

 その瞬間を見逃さす窃盗犯は逃げ出そうとするが、蒼司は危ういところで意識を戻し拘束する力を強めた。



 代わって気付いたが、窃盗犯の力はそれほど強くなかった。

 それでも小柄な少女ではキツいはずだ。しかし、少女は先程まで何事も無いような表情で窃盗犯を拘束していたのだ。

 ―――この子は何者なのだろうか?

 もう一度、少女の顔を見るが、全く表情が読み取れない。

 「さっきはありがとうな、ケガとかは無い?」

 そう声をかけてみるが、少女は「お礼は必要ないわ」と言うだけで表情は変わらない。

 その無愛想と容姿が相俟(あいま)って、蒼司は『実は人間では無いのでは?』という冗談のような疑問を本当に抱いてしまうくらいだ。

 それ程までに蒼司はその少女に引きつけられてしまっていた。 

 それもそのはず、彼女との出会いが蒼司の運命を大きく動かすことになるのだから―――。



 しばらくすると警官が窃盗犯の身柄を引き取りに来た。どうやら輝亮が連絡してくれていたようだ。

 「ありがとうございます!」

 女性はカバンを受け取ると、蒼司達に礼を言う。

 「いや、お礼ならあの子に……」

 あの子、窃盗犯を捕らえた少女は警官達と何やら話をしている。事情の説明でもしているのだろうか。

 話が終わると、警官は少女に敬礼をした。それを見て蒼司の疑問に何となく答えが出た。

 あの敬礼は一般市民に向けるには固すぎる気がする。恐らく、少女は警察の関係者なのだろう。普通の少女なら緊張してとても冷静ではいられないだろう。

 しかし、彼女は一切表情を変えず、警官と対等な態度で話しているように見えた。逆に警官の方が緊張しているような気がしたくらいだ。いや、実際に緊張していたのだろう、そのせいで態度が固くなっていたのだとすると納得がいく。

 彼女がそれだけの実力者であるというのなら、窃盗犯を捕らえることなど朝飯前だろう。

 ―――でも、なんでこんな女の子が?

 疑問には答えが出たが、それと同時に疑念も出てきた。



 「これ、あなた達の誰かの物でしょう?」

 少女は犯人から取り戻した輝亮の財布を差し出す。

 「おお!俺の財布だ!よかったぁ……」

 輝亮は財布を受け取ると、すぐにズボンのポケットに突っ込んだ。

 「あの男は引っ手繰りの常習犯よ。そんな所に入れていたら盗ってくださいと言っているようなもの」

 輝亮は財布を取り出して別にポケットに入れたり出したりした後、「次からは気を付けるよ」と言ってズボンのポケットに戻した。

 「少し変だな」

 「どういうこと?」

 蒼司の呟きを聞いた少女が問う。

 「常習犯にしては間抜けすぎると思って……」

 「確かにそうね。人通りの多い一本道は逃走するのが困難、いつもは人通りの少ない路地に抜けられる場所でしていたはず」

 それを聞いて蒼司はある結論に至った。

 


 「なぁ、あんたもしかして借金でもあったのか?」

 蒼司が声をかけると、窃盗犯はこちらを向いて答える。

 「だったら……何だよ……」

 「いや、ただあんたの顔が気になっただけだ。何か追い詰められているような顔だったから」

 「………」

 窃盗犯は無言で返すと、警官達に連行されていった。

 「君、前に泥棒でもしたことがあるの?」

 突然、少女が真顔で質問してきたので、蒼司はとんでもないと首を振った。

 「俺じゃなくて……、知り合いがな」

 それは嘘だ。その人物達との関係は知り合いどころではない。

 「そう」

 少女はそれ以上聞いてはこなかった。

 


 犯人が連行され、周りに集まっていた野次馬達は居なくなっていた。

 カバンを取られた女性も既に帰っている。

 「そろそろ帰ろうぜ、今日は色々あり過ぎてもう疲れた」

 輝亮はベンチに腰掛けてぐったりしている。確かに今日は厄日かというくらい輝亮は酷い目に合っていた。こんな有り様になるのも仕方が無い。

 「じゃぁ行くか……、そうだ!さっきは本当にありがとうな」

 蒼司は少女に礼を言うと、輝亮と勇樹と供に帰ろうとする。

 「ちょっと待って」

 そこを少女が呼び止めた。

 「君、こういう事件に良く首を突っ込むタイプ?」

 「いや、そういうわけじゃないけど……巻き込まれることはたまにあるかな……」

 蒼司も好きで首を突っ込んでいるわけではない、そういう事件に()いやすい体質なのだ。

 「そうならいいけど……。一つだけ忠告してあげる、夜は出歩かないことね」

 「ああ、肝に銘じるよ」

 そう言って蒼司は少女と別れた。



 

 

 

 


 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

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