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旅先で死ぬとは何事だ! 4

 「今思うと本当に情けない話だよねぇ……。いやぁ輝亮がダメダメなのは知っていたけどさ、あそこまでくると最低だね、もう人間じゃないね、もう他人のフリをしたいくらいだよ」

 「……ぐ…ぅぅ……」

 勇樹の容赦のない言葉で輝亮はがくりと項垂れたまま動かなくなってしまった。

 「勇樹、それくらいにしてやれ」

 「はいはい、輝亮ぃ元気だしなよー」

 そう言って勇樹は輝亮の背中を叩く。

 ―――いや、そこまで落ち込ませたのはお前だろ……。

 ………原因は輝亮にあるのだけど。



 辺りも暗くなり、街には色とりどりのイルミネーションが輝いていた。

 「テルもこの有り様だし、そろそろホテルに戻ろうか」

 三人がホテルに向かって歩いていると、後ろから男が走ってきた。

 「どけぇっ!」

 「うわっ!?」

 男に押され、輝亮が転倒した。

 「いってぇ……、ああっ!何なんだよもう!!」

 「今日は踏んだり蹴ったりだな、大丈夫か?」

 蒼司は右手を差し出し、輝亮はそれを掴んで立ち上がった。

 「ぶつかっておいて謝りもしないなんて最低だねぇ」

 走り去っていく男を見て勇樹が呟いた。

 『どけぇっ!』って言っている時点で謝る気は無いことは明確だ。

 それより蒼司は男の表情が気になっていた。

 何か慌てているような表情、後ろめたい事がある時の顔だ。

 ―――もしかして!?

 蒼司が何かに気づくと同時に、長い髪の女性が息を切らせて走ってきた。

 「あの!黒い上着を着た男を見ませんでしたか!?」

 「ああ…その男ならさっき俺にぶつかってきたぜ」

 輝亮が肩を押さえながら答える。倒れた時にぶつけたのだろう。

 「本当ですか!私、カバンを引っ手繰(たく)られたんです!!」

 


 それを聞いて蒼司は心の中で「やっぱり!」とつぶやいていた。

 やはりあの男の顔は犯罪を犯す時の、追い詰められた表情だった。

 「ああぁっ!!」

 急に輝亮が叫んだ。

 「無い!俺の財布がねぇ!!」

 驚くべきことに、黒ジャンパーの男はただ輝亮にぶつかったのではなく、同時に財布を抜き取っていたのだ。

 あの男が走り去ってからまだ数分も経っていない、それにこの先は一直線、追いつけないこともない。

 「テル、この人を頼む。勇樹、追いかけるぞ!」

 「俺もいくぞ!」

 「ダメだよ輝亮、ケガ人は大人しくしておかないと。それに女の子と二人きりになれるんだよ、よかったじゃないか」

 輝亮は納得しきれてはいなかったようだが、「わかった」と言って女性とベンチの方へ歩いて行った。

 蒼司と勇樹はそれを確認し、男を追いかけて駆けだした。



 暗くはなったが人通りはまだ多く、途中でぶつかりそうになりながらも疾走すると、黒いジャンパーの姿が見えた。

 「あいつか!」

 蒼司は黒ジャンパーが一本道を抜ける前に捕まえようとスパートをかける。

 すると男はそれに気付いたのか、こちらを一度見ると、追いつかれまいと速度を上げた。

 「待てぇ!!」

 蒼司が声あげるが、待てと言われて待つような泥棒がいるわけもなく、男は逃走を続ける。

 また人通りが多くなり、男は何度か人にぶつかりながら走っていた。

 「そこのガキ、どけっ!!」

 男が走る先に一人の少女が立っていた。このままでは先程の輝亮のように押し飛ばされてしまう。

 「危ない!!」 

 蒼司が声を上げるが、少女は気付いていないのかその場から動かなかった。

 男は止まることは無く、そのまま少女にぶつかる。その光景が蒼司の中に浮かんだ。

 


 「止まれぇ!!」

 蒼司が叫ぶが男は少女に向かって突進する。

 そして、人が道路に叩きつけられる音が響いた。

 倒れたのは少女ではなく、男の方だった。

 「がっ!あああ!!」

 そして、少女は倒れた男の上に乗り、腕を背に回して拘束したのだった。

 「はぁっはぁ……、君、すごいんだね……」 

 蒼司は息を切らせながら、取り押さえ現場に近づく。

 拘束された男は何が起きたのか理解できず、驚愕の表情を浮かべていた。

 その驚愕は蒼司にもわからないでもなかった。

 


 蒼司は目の前で起きたことが一瞬信じられなかった。

 男が突進し、華奢な少女の体が硬いコンクリートに叩きつけられる光景を見せられるのだと、あの瞬間まで思っていたからだ。

 あの瞬間、少女の取った行動は信じがたいものだった。

 少女は男と接触する直前に、体を少しだけ横にずらし、男の突進をかわした。それは最初から男が迫っていることに気づいていないと出来ない行動だった。

 更にそれだけでは終わらず、少女は男の踏み出した先に左脚を出して転倒させたのだった。しかもその瞬間に男の背を押すことでより強く地面に叩きつけていた。

 


 「お、おーい蒼司ぁ……はぁはぁぁ……、捕まえたのかい?」

 引っ手繰り犯を取り押さえてからしばらくして、勇樹が息を切らせて歩いてきた。

 「ああ、この子が捕まえてくれたんだよ」

 「この女の子が?へぇ……」

 勇樹は引っ手繰り犯を拘束する少女を見る。

 「ぐっ!離せ!どうなってるんだ!!」

 「あまり暴れない方がいい、余計痛いだけだから」

 引っ手繰り犯は力ずくで拘束を解こうとしているが、どういうわけか少女の細い腕はびくともせず拘束し続けている。

 「すごいなぁ……。結局、犯人を捕まえたのはこの子で、蒼司は役立たずだったってことか」

 「役立たずってなぁ……途中でバテて『僕にかまわず先に行け』とか言ってたのは誰だったかな?」

 「うーん……誰だろうねぇ」

 「そこの二人、漫才をしている暇があったら代わってくれないかしら?」

 蒼司と勇樹がお互いの不甲斐無さを責め合っていると、少女が口を(はさ)んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

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