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旅先で死ぬとは何事だ! 1

 「おい蒼司、もう着くぞ」

 「ん……んぅ……あと二十分だけ……」

 「おいおい、もう着くんだって……て!二十分とかなげぇよ!!」

 「あはは!蒼司らしいねぇ……、ほら!起きろっ!」

 バコッ!

 「痛っ!」

 「起きたね」

 「勇樹は容赦ないなぁ……」

 蒼司を丸めた雑誌で殴った少年の名前は『金盛勇樹』(かなもり・ゆうき)、蒼司の友人の一人だ。

 中性的な整った容姿で割とモテそうなのだが、性格が災いしてそんなことはなかった。

 「俺は優しく起こしてやろうとしたんだぜ……、あれか?この旅行が楽しみすぎて眠れなかったんだろ?」

 「んなわけねぇよ、テルじゃあるまいし」

 「俺はちゃんと眠れたぜ!」

 「眼の下にクマができてるけど?」

 「言うなよ!」

 ―――勇樹はこういうところにも容赦ないな。

 勇樹に突っ込まれた若干リーゼントな髪型の少年は『黄志田輝亮』(きしだ・てるあき)、同じく蒼司の友人だが、幼稚園からの腐れ縁で、中学で知り合った勇樹より付き合いが長い。

 蒼司は彼を『テル』と呼んでいる。

 三人はバイトで貯めたお金で日本の回りに浮かぶ海上都市の一つ、観光で人気な《フロンティア》に遊びに行くのだ。

 フロンティアを旅行先に決めたのは輝亮だ。理由は『可愛い女の子がたくさんいるから』だそうだ。

 きっとナンパでもするつもりだろうが、旅先でそんなバカを披露されては俺の方が恥ずかしい。



 「よし、着いたぞ!」

 輝亮が真っ先に電車から降りた。

 ―――やっぱり一番楽しみにしてたのはお前じゃないか!

 三人が降りると同時に、他の乗客も一斉に降りていく。海上都市内の中央線に乗るとしても、一旦ここで乗り換えないといけないからだ。

 海上都市は本土と一つの橋で繋がっていて、その橋をモノレールが走っている。

 海上都市と本土を繋ぐ交通手段はモノレールだけで、モノレールに事故が起きると海上都市に閉じ込められてしまうことになる。

 もしそんなことになれば旅行どころではないが、そんなことは考えるだけ無意味だ。実際、このモノレールは一度も大きな事故を起こしたことがないのだから。

 「おおっ!」

 「広いな!」

 輝亮と勇樹がバカみたいにはしゃいでいるが、仕方が無い。駅内はドーム状でとても広く、野球でもできそうだ。

 「とりあえず、ホテルに荷物置きに行くぞ」

 時刻は午後一時、チェックインのまで後三十分あるので今から行けば間に合う。

 まだ海上都市に着いたばかりだが、この二人の田舎者丸出しのバカテンションに付き合わされると疲れてくる。



 「この部屋、思ったより狭いな……」

 「ドームは広かったのになぁ」

 「輝亮、ちゃんと事前に確認しておけよ……まぁ、三人部屋ならこんなものじゃないかな」

 ホテルの部屋に入った三人は、それぞれのベッドに腰掛ける。

 ぐー!

 輝亮の腹から間抜けな音が鳴った。

 そういえば昼食はまだだった。

 「おーい蒼司、ちょっとコンビニで弁当でも買ってきてくれ」

 「僕の分も頼むよ!」

 二人は当たり前にように蒼司をパシリに使おうとする。

 「俺はお前らのパシりじゃねぇぞ!でも……こんなこともあろうかと……」

 そう言って蒼司は荷物の中からあるモノを取りだす。

 「まさか!それはっ!?」

 輝亮は蒼司が取りだしたモノが何か察したようだ。

 「ふっふっふっ……ひかえよろう!!」

 笑みを浮かべながら蒼司が包みを解くと、現れたのはお弁当箱だった。

 「それって!?」

 勇樹もそれが意味することを理解したようだ。

 そして、蒼司は弁当箱の(ふた)を取った!

 「そうだ、この弁当は(あおい)が作ったんだ!お前ら、頭が高いぞ!」

 この言葉を聞いた二人が「ははー」と(ひざまづ)いた。



 蒼司の妹『葵』(あおい)は二つ違いで、今年から中学三年生になる。

 家は、蒼司と葵と叔父との三人家族で、両親は七年前に大きな借金を残して失踪している。

 その後は叔父さんが親代わりとなって育ててくれた。

 叔父さんは夜遅くまで帰ってこないので、家事は蒼司と葵が担当している。

 最初は叔父さんが全部やってくれようとしていたが、これ以上の苦労をかけると過労死しかねないので葵と相談して決めたのだった。

 兄夫婦に借金と子供を押しつられたというのに、なんて健気な人なんだろう……。所謂(いわゆる)、不幸体質とでもいうものなのだろうか。

 そんな不幸の中でも叔父さんが頑張れるのは葵の料理のおかげだろう。これは本人もそう言っているので間違いないはずだ。

 蒼司も長年の家事で大抵の料理は作れるのだが、それでも葵が作る方が十倍くらいおいしい。

 本来、葵の手料理を食べることができるのは蒼司と叔父さんと葵の未来の旦那さんしか存在しないのだ。

 それを今、輝亮と勇樹に見せびらかしているのだ。

 「大人しく俺の言うことを聞くなら、分けてやってもいいんだぜ?」

 二人はゴクリと喉を鳴らし、しばらく間をおくと……。

 「「何でも聞くから、葵ちゃんのお弁当をください!!」

 見事にシンクロした返事だった。

 「よろしい!」

 蒼司は箸でミートボールを摘まむと、二人の口に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

本編開始!



細かい設定は活動報告の裏話で公開していきます。



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