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 『まさか……、ビーストタイプを相手にすることになるとは……』

 『想定済みのことでしょう?』

 『いやぁ……やっぱりグロいなぁって』

 『そろそろ慣れた方がいいわ。それに獣人型を相手にするのは初めてじゃないはずよ』

 それでも獣人型(ビーストタイプ)の変身シーンを直視するのはキツイ。特に昆虫タイプが。

 変身した桑田は二本腕二本脚と人間の特徴を残してはいるが、皮膚は強固な緑色の外骨格に変わっている。特に目を引くのは両手の甲から生えた巨大な刃だ。

 本物のカマキリの鎌は刃ではなく棘のついた腕で、獲物をしっかりと捕まえるためのものだ。だが、このカマキリ怪人の鎌は刃渡り六十センチほどの刃だ。

 見るまでもなく、桑田の最大の攻撃力は両手の鎌だ。あれで斬られれば制服の防刃性は意味を成さないだろう。

 「近接戦は不利だな……、だったら!」

 俺は桑田から距離を取り、腰のホルダーから拳銃を引き抜いて、桑田に発砲する。

 この拳銃は対改造人間用ではないが、桑田の様な昆虫タイプであれば、関節を狙えば大きなダメージを期待できる。

 「シッ!」

 だが、銃弾は桑田に届く瞬間、左手の鎌で両断された。

 昆虫タイプの敏捷性は獣人型の中でも極めて高く、まともに攻撃しても当たらないのがほとんどだ。

 だから最速最小限の動作で攻撃したはずだったのだが、桑田には通用しなかった。

 「少年、なかなか良い動きをするな。しかし、距離を取ればいいとは限らないのだよ」

 そう言って桑田は両鎌を体の前でクロスする。

 『もしかして……、速く逃げて!』

 言わんとする事を察し、強化された脚力を使って跳ぶが、その時にはもう斬られていた。

 「うっ!?」

 バランスを崩した俺は硬い地面に叩きつけられた。

 恐ろしいことに斬られたのは俺だけではなく、その後ろの壁まで斬り裂いていた。

 


 『大丈夫?』

 『い……てぇ……大丈夫なわけあるか……』

 俺は斬られた腹を押さえながら立ち上がった。

 「ほう、これで死なないとは、君は化け物だな」

 「そんな(ナリ)のあんたには言われたくないな」

 胴体を貫通する程の斬撃を受けても生きている俺も十二分に化け物だろうが、見た目だけで判断すれば桑田の方がよっぽど化け物だ。

 「ふむ、遠隔やはり威力は落ちるようだな、君にはあまり効いていないようだ……」

 「いや、ばっちり効いたよ。ただ俺の回復力の方が勝っただけだ」

 先程の攻撃で斬られた腹の傷は既に塞がっている。

 「恐ろしい治癒能力だ、これは直接、首を落とすしか無さそうだ。はぁぁっ!!」

 桑田は接近し、右の鎌を振り降ろす。

 鎌を避け、右横腹に拳を叩きつける。

 「ぐうっ!!」

 桑田は声を漏らすが、怯まずに斬り裂こうとする。

 俺は左の鎌をギリギリまで引きつけてから避け、振り下ろされた右の鎌の腹に拳を叩きつけた。

 通常、刃物は刃の無い腹の部分に受ける衝撃に弱い。

 だが、桑田の鎌は()れて床を切り裂いただけで、折れることは無かった。

 「鎌を折ろうというのは良いが、悪いね、私の鎌は特別製でね、腹の部分まで防御に使えるくらいなのだよ!」

 桑田が鎌を振り上げた。

 バックステップでそれを避けるが、桑田が遠隔の斬撃を放ち、左肩を斬り裂いた。

 そして追い打ちに両手の鎌で俺を両断せんと振り下ろす。

 俺はそれを受け止めようと両腕を伸ばす。

 「ぐっ……」

 右の鎌が俺の左肩を深く斬った。

 左の鎌は俺の右手が掴んでいた。

 「なんと!白刃取りとは驚いたな。だが、このままでは肩から腕を斬り落とされてしまうぞ」

 「いや、その心配はないな……」

 その言葉は劣勢の中で出た虚勢ではなかった。



 『凜、リミッターの解除を頼む!』

 『了解、右腕リミッター解除!』

 「おおおおっ!!」

 蒼司は鎌を掴む右手に力を込める。

 「鎌を砕く気か、無駄な足掻(あが)きはよしたまえ」

 桑田は右腕の力を強め、より深く肩を斬っていく。

 「ぐっ!この……砕けろぉっ!!」

 ここで鎌からピシッ!と音が鳴る。

 これには桑田も焦ったようで、一瞬だけ力が弱まった。

 「砕けっ!リミットブレイクッ!!」

 バキンッ!!

 「何っ!?」

 大きな破砕音と供にその刃は真っ二つに折れた。

 「馬鹿な!高が強化型(ブースタータイプ)に私の鎌が折られただと!!」

 桑田が離れようとするが、蒼司は右腕を掴む。

 さらに、右手の鎌が蒼司の肩に刺さっているため、完全に動きを封じられている。

 「これで終わりだカマキリ男!!」

 桑田の顔面に右ストレートを放つ。

 「ぐあぁっ!!」

 桑田は殴られた衝撃で飛び、何度もバウンドしながら転がって動かなくなった。

 気絶した桑田にグレイが駆け寄る。

 「そこのデカイ人、お前との決着はまだ付いてなかったよな。今から続きをやるか?」

 「いや……やめておこう、アンタには勝てる気がしない」

 「そうか」

 俺はグレイに近付くと、手錠を取りだした。

 「改造人間用の手錠だ、暴れられると困るからな」

 「もう抵抗はしないさ」

 グレイは静かに両腕を差し出す。

 グレイに手錠を掛け、一息つく。

 「ここからは警察の仕事だな」



 倉庫から出て、夜の冷たい空気を吸い込む。

 「ふぃー、今日も何とかなったな……」

 ここに来てからは、毎日が命がけだ。

 ――そういば、あの夜も空気が冷たかったな……。

 あの日、初めてこの海上都市に来た日、一人の少女と出会い、一言だけ忠告をされた。

 だが、俺はそれを無視した。

 そして死んだ。



 そう、全てはあの日から始まったんだ。

 あの日は終わりの日で、始まりの日。

 俺の平凡な日常が終わりを告げて、闘いの日々が始まった日だ。

 



 

 

 

 

 

 


 



 


 


 

 

 

 

 

 

 

次回から本編です!

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