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大日本リーグ-大連戦記-  作者: 沼田政信
プレーオフ
184/188

3安打の熱戦 真のエース吉野

[ホーム]大連

8星渡(4-0)

5大上(2-0)-立石(0-0)-森茂

6棚橋(2-0)

9林(3-1)

3パウロ(3-0)-柳中平

4近堂(3-0)

7水内(3-1)

2清水(3-0)

1吉野(3-0)


[ビジター]京城

4辻

8朴慎一

7高添

5羅久聖

3バンカー

6羅慧聖

9赤沼

2山根

1高橋


京 000 000 000 0 ●高橋

大 000 000 10- 1 ○吉野(9)


 死闘の果てに敗れたのは昨日が今日に変わった時であった。そして今日の試合、場合によっては大連の今季最後の試合となるかも知れないという剣が峰に立たされている。ここで登場するのはエース吉野大吾。そして今日で決めたい京城は高橋豊が先発。第1戦と同じ顔合わせで、ともに中4日でシリーズ2戦目となる。また、大連のスタメンは昨日と同じく近堂と水内が加わっている。京城は前の試合で決勝のタイムリーヒットを放った赤沼がライトのポジションに入っている。大仕事を成し遂げた若武者の勢いをチームに呼び込む策である。


 エース吉野。この言葉が使われ始めたのは確か5年ほど前からである。それまでのエースだった天沼智久(現大連投手コーチ)が衰えるのとクロスフェードするように成績を伸ばしており、そのシーズンは吉野がそれまでのキャリアハイだった12勝、一方天沼は故障もあり4勝に終わった。


 天沼は「来年も多少はやれると思っているが、後継者も出来たしそろそろ指導者の勉強をする時」と、この年限りで引退を表明。エースの座を禅譲された。吉野大吾、24歳の秋である。大学時代は吉野・長谷部建(現チチハル)・呂相民(現台北)でビッグ3と呼ばれていた才能は順当な成長を見せていた。


 しかしそれからの4年は、この12勝が壁として立ちふさがっていた。順に10勝、8勝、11勝、9勝。安定して毎年規定投球回数に達しており、先発投手として一定の役割をこなしているのは事実である。しかしエースとしては物足りない数字でもある。いい投手だがエースには弱いと言うのが吉野の評価だった。


 奉天の星村愁輔、新京の久慈一正といった同世代でありながらすでにタイトルを獲得しているエースたちと比べると力の差はあった。ただそれはあくまで他球団の話、大連には自分を脅かす選手はいない、このままでも十分チームに貢献している。こういった意識の甘さが吉野の脳内に存在していた。


 吉野の意識が明確に変化したのは今年になってからである。先発ローテーションに昨年までいなかった選手の名前が大量に流入してきた。さらに4年連続で指名されていた開幕投手の座を昨年までチームにいなかった瑞穂に奪われたのが決定的となった。


 危機感が彼の実力を研ぎ澄まし、今季の覚醒につながったと本人は自覚している。急激に実力が伸びたというより、精神的なものが大きかったようで、今季はよりふてぶてしく、堂々としたピッチングを見せるようになった。容姿に投球内容が追いついたなどと書かれた記事もあったが、要は30にしてようやく立ち上がったという事なのだろう。


 試合はやはり投手戦となった。吉野もさることながら高橋もかなりの実力派。5回までは両チームにヒットどころか一人のランナーすら出なかったという凄まじい投げ合いが繰り広げられた。初ヒットは京城の山根だったが、高橋の送りバントが小フライになったものを吉野がダイレクトキャッチ、すかさず一塁に送球してダブルプレーとした。吉野は9人目の野手としてのセンスも高い。


 そして大連の初ヒットは7回であった。この回の先頭打者である星渡はショートゴロに倒れたが、続く大上の代打立石が四球を選ぶ。これで完全試合は途切れた。立石には代走森茂が送られた。棚橋は平凡なショートへのゴロだったが、ダブルプレーを焦りすぎた羅慧聖が弾いてしまいオールセーフ。本来はこのようなミスをする選手ではないのだが、これが大舞台特有のプレッシャーか。そして打席に立ったのは4番林である。


 今季の大連における投の立役者が吉野なら、打の立役者は間違いなく林であろう。20年以上の華麗なるキャリアに唯一欠けているものがこの大日本シリーズ制覇という栄光である。今季の成績は素晴らしいがこの年齢ではいつまでもつか分からない。これが最後のチャンスとなってもおかしくない。それだけに勝利への渇望は他の誰よりも強い。この打席、林の執念が高橋を飲み込んだようであった。ボールを2球続けての3球目、スライダーが甘く入ったところを狙い打ち、センター前に抜けるタイムリーヒットとなった。


 1対0とついに均衡を破った。そして今日の吉野は今季最高の出来だった。8回は4番羅久聖から始まる難しい打順だったが難なく三者凡退。そして9回、まず赤沼の代打杉田をスライダーで三振に切ってワンナウト。山根はストレート主体で早々と追い込み、高めのボール球を振らせて平凡なセカンドフライ。そして高橋の代打はコリス。最後にやっかいな相手が現れたがまるで動じず、ストレートとスライダーの2球で追い込み、とどめは大きく曲がるカーブで元メジャーリーガーのバットに空を切らせた。1安打完封という最高のピッチングで大連が勝利を手にした。


 とにかく今日は吉野に尽きる。今季の躍進を象徴するような安定感抜群の素晴らしいピッチングで京城打線を27人で抑えた。劉監督も「ご覧の通り完璧。エースとして最高のの仕事だった」と絶賛。これで大連の2勝3敗と命はつながった。明後日からは京城で試合が行われる。それでも1敗すれば終わりという事実に変わりはないのだから、次の試合も必ず勝利しないといけない。先発は大連が松浦、京城が勝間田と思われる。

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