激突延長戦 2つの時を越えて
[ホーム]大連
8星渡(7-1)
5大上(4-0)-1小松原-比山-立石(1-0)-趙雅憲-黄直哉-アンジェロ(1-0)-池田-宮畑(1-1)
6棚橋(7-2)
9林(6-2)
3パウロ(5-1)
4近堂(4-1)-ノーリー(3-1)
7水内(6-4)
2金重男(2-0)-清水(2-0)
1赤坂(2-0)-野藤-平野-ドラグノフ(3-1)-5
[ビジター]京城
4辻
8朴慎一
7高添
5羅久聖
3バンカー
6羅慧聖
9砂子
2山根
1市原
京 001 000 200 - 000 01 4 市原-土門-西坂-安部-○孔僚
大 010 100 001 - 000 00 3 赤坂(6-1)-野藤(1/3-2)-平野(2/3)-小松原(1)-比山(1)-趙雅憲(2)-黄直哉(1)-●池田(2-1)
前日無様な大敗を喫した大連。今日はスタメンを変えてきた。先発はルーキー赤坂なのでキャッチャーには金重男を据える。内野手は柳中平を外してファーストパウロ、セカンド近堂、サード大上という今シーズン最終盤に見せた攻撃力重視のフォーメーションに。そしてシーズンでは打率1割台と低迷したもののポストシーズンでは代打で結果を残している水内をレフトスタメンに抜擢した。攻めの意識を全面に出した起用で昨日の悪い流れを断ち切りたいところだ。
京城の先発投手は市原荒二である。この男は野球選手としての才能がありすぎてフルに発揮するには人間の肉体ではついていけないという悲劇を背負った投手である。ルーキーの1年目にして17勝を挙げて防御率1点台という強烈な活躍を見せたが翌年は出番なし、復帰したのは3年目の秋になってからだった。4年目は半分リハビリといった感じのピッチングだったがそれでも防御率3点台前半をマーク。5年目はルーキーイヤーを髣髴とさせる躍動を見せた。しかしそれが肘の負担となりまた2年ほどリハビリ生活に戻る。
7年目の夏に復帰した市原を、道原監督はリリーフとして起用する。おっかなびっくりの起用だったがさすがの実力を見せた。翌年はストッパーに登用された。しかし9年目の春にまたも負傷。この故障から去年の夏にようやく復活してきた。リリーフではなく先発として、場合によっては登板を回避するなどかなり慎重な起用。11年目の今、自慢だった最速159キロのストレートは投げられなくなったが、投球技術は増したので悪いなりにも抑えられるようになった。今の状態がいつまで続くかは本人にもわからない。
さて、試合は大連が2回に先制した。一死後、パウロのレフト前ヒットと近堂の四球で一二塁とすると、スタメンに抜擢された水内がそれに応えるレフト前タイムリー。しかしその直後の3回表、京城の頼れるキャッチャー山根がレフトポール際にソロホームランを放ちすかさず同点に追いつく。勢いに乗ると手がつけられなくなる大連だけに、そういった芽は早めに取り除く必要があるとこのチームのベテランは理解している。
続いて試合が動いたのは4回、大連はこの回先頭のパウロが四球、近堂がレフト前ヒット、水内がショート内野安打で満塁のチャンスを作る。ここでバッターは昨年まで京城に在籍していた金重男。この重厚な男がいつになく慎重だった。市原は変化球のコントロールにやや難があるのでうまく見極めて四球を選んだ。押し出しとなって大連が2対1と勝ち越す。次のバッターはピッチャーの赤坂だが三振。そして星渡となったが、開き直ったかのような市原の速球攻めに屈してサードフライに倒れ追撃は出来なかった。
7回、好投の赤坂に代えて野藤をマウンドに送ったが、これが誤算だった。先頭の羅久聖、バンカーに連打を浴びてノーアウト一二塁のピンチ。羅慧聖はセンターフライに打ち取ったが、ここで砂子の代打としてコリスが登場。一方大連は野藤を続投させた。
この勝負は京城の勝ちだった。コリスは小さく曲がるスライダーを見事に捕らえて火の噴くような強烈なライナーを放ち、ライトフェンス直撃の2点タイムリーヒットとなった。これで京城が逆転。しかし大連は2番手の平野が山根と市原の代打杉田を連続三振に切ってこれ以上の失点は許さなかった。
こうなるともう京城のペース。7回からは自慢の勝ちパターン継投策で逃げ切りを図った。しかし9回、真打となる安部隼人に大連が襲い掛かった。一死後、水内が今日3安打目となるレフト前ヒットで出塁。代打清水は送りバント、途中からサードに入ったドラグノフはセカンドゴロでツーアウト三塁とする。
ここで今日の試合は今のところ無安打の星渡。しかし劉監督は彼の実力と実績を信頼していた。安部の2球目、内角中央付近に入ったストレートを振りぬくと、打球は羅兄弟の間を抜けてゆっくりとレフト前に転がっていった。これで水内がホームイン。9回二死の土壇場で同点に追いつく。
試合は延長戦となった。今季は通常のシーズンに延長戦はなしというルールだったがポストシーズンとなると話は別。引き分けはなく、決着がつくまで何回まででも戦い続ける。大連にとっては今季初の延長戦となる。久々の事だが選手たちは体力気力ともに尽きることなく、ジリジリとエキサイトした試合展開がこの後も続く。
10回から大連はロングリリーフに定評のある趙雅憲を起用。趙は期待に応えて2回を無失点に抑えた。京城は安部を引っ張る。10回は林にヒットを打たれたが失点はなし。そして11回からはとっておきの投手、孔僚をマウンドに送った。この孔は本来先発なので当分は投げられる。1点が重くなる展開、ファンも固唾を飲んで見守った。
決着がついたのは14回。前の回からマウンドに登っていた池田武治はこの回も快調にツーアウトまで取ったが、シリーズ好調の羅慧聖に左中間を破られる2ベースヒットを浴びてしまう。ここで代打赤沼智人が出される。赤沼は2日前に20歳の誕生日を迎えたばかりの若武者である。
3球で2ストライクに追い込まれたがここからファールで粘るなどしてフルカウントまで持ち込む。勝負の11球目、外角へのストレートを綺麗に流した。打球はサードを守る長身のドラグノフがジャンプしても届かなかった。レフト線上に落ちるタイムリーヒットでついに京城が大連を突き放した。
14回裏、何としても追いつきたい大連は孔に最後の抵抗を試みる。この回の先頭打者は星渡。これで今日7回目の打席となる。結果はショートゴロだったが9球を投げさせた。続いて池田の代打宮畑が、初球のストレートをいきなり強振してセンター前に抜けるヒット。棚橋はシンカーを流し打ち、ライト前に落ちるかという打球だったがタイムリーを打った赤沼がダイビングキャッチ。敵ながら天晴れの好守でツーアウトとなる。
ここで4番の林。試合後のインタビューに言うところの「これでアウトなら終わりとか、ヒットを打ったらどうとか、何も頭に浮かばなかった」という無の境地で打席に向かった。孔は最大の相手を打席に迎え、自分の技量の全てを出し尽くすかのようなピッチングを見せた。「多彩な変化球も磨きぬかれたコントロールも今日この時のためのもの」という想いが孔の頭を支配していたという。
フルカウントからの8球目、変化球の中でもっとも得意と言うストライクからボールになるカーブを林は完全に捕らえた。打球はフェンス直撃でランナー一三塁とした。続くパウロは敬遠で満塁勝負とする。打席にはノーリー。ベンチにはシーズン中代打でよく起用された古池がいたが、古池はストレートに強いタイプなので変化球が巧みな孔相手には荷が重いと考え、そのままノーリーを打席に向かわせた。
ノーリーはベテランらしく極めて慎重だった。追い込まれてからも慌てず、ヒットにできないストライクの球はカットしていった。身を切るような勝負が続いた。そしてフルカウントからの15球目、小さく曲がるシンカーをノーリーは引っ張る。打球は三遊間を襲うライナーとなった。ランナーは全員スタートを切っており、これが抜ければサヨナラ勝ちとなる。しかしサード羅久聖が一閃、打球を横っ飛びで抑えた。三塁塁審の葛俣芳樹がアウトをコールして試合終了。時計は0時2分を指していた。
試合後インタビューに応じた劉監督は、昂った心を落ち着かせるように大きく息を吐いた後で「長い試合だった。何とか勝ちたかったが、京城の勝利への執着心が上だった」としぼり出した。打線に関しては「(前日1対8で大敗した)悪い流れを変えるためには攻めろというメッセージが必要だった」と組み替えた意図を話し「その点においては特に水内が良くやってくれた」と成果を強調した。14回、池田を続投させた事について「池田はストレートもよく切れていたのでいけると考えたが、このような結果になったのは私の采配ミス」と池田をかばった。
これでシリーズ成績は1勝3敗と後がなくなった。大連が最大の栄冠を手にするには3連勝しか道がない。明日は吉野VS高橋のエース対決が予想される。前回の対戦では惜しくも敗れた吉野だが、今回は必ず勝たないといけない。もはや「惜しい」は存在しない。デッドオアアライブ、今季の大連投手陣を支えた右腕にチームの命運すべてを託す。




