不毛な会話
ああ、昼休みというものは退屈だ。足が折れていて動けない時は特にそうだ。
そうは思わないか? 親友。
「だから何度も謝ったし、お礼も言ったでしょ。性格悪いなぁ」
いやいや、僕は別に謝罪や感謝が欲しいわけではないさ。ただ退屈だと言っているだけでね。
しかし君の顔を見たおかげで一つ面白いことを思い出したよ。
僕の親友に君とよく似た女性がいるんだけど、その子は高校生にもなって左右の確認もせずに道路に飛び出して、車に轢かれそうになる奴なんだ。
アホだろう、笑えるだろう。
「私もその人のこと知ってる。そのとき助けてくれた奴が存外面倒くさい奴で、今そいつにからまれて困ってる人のことでしょう。」
へぇ、それはうっとうしい奴もいたものだ。顔が見てみたいな。
きっと鼻筋の通った二重まぶたの美男子に違いない。
「毎朝洗面所で見てるでしょ。さっきから何が言いたいのよ。あんたがそんな面倒くさい言い回しをするときは、大体何か裏があるでしょう」
人聞きの悪いことを言う、最初に言っただろう。僕は退屈しているんだ。
僕の足がへし折れたことに関して、君が少しでも責任を感じているなら、君は僕を楽しませようと努力すべきではないかな。
「あんた足が折れてなくても、自分の席で私と話してるだけでしょうに。要は何か面白い話をしろってこと?」
面白い行動でもいいよ。
いや、すまない。今のは失言だった。
君は常にやること成すこと面白いもんな。毎日が吉本新喜劇だ。
「開放骨折にしてやろうか。まぁ、いいや。私のとっておきの話をしてしんぜよう。不毛な話だけど、構わないかな?」
暇をつぶせるなら、愉快な話だろうが不快な話だろうが、なんでもいいよ。
しかしとっておきだなんて銘打っていいのかい?
君がアホなことは重々承知しているけど、その上で僕を失望させるような話をしたら、君との関係を考え直さざるを得ない。
「え、今何気に絶交の危機? 何気ない日常会話にとんでもない罠が!」
いいから早く。
このままじゃ暇すぎて次元跳躍しそうだ。
「難儀な体質してるね。では親友を二次元に飛ばさないためにも、とっておきの話をはっじめるよー」
いえーい、パチパチパチ。
「昔々、あるところに一人の女神がおりました」
おお、昔話形式なのか。
「女神はとても美しく、その美貌はクレオパトラが泣きながらフライング土下座するほどでした」
それは相当に美しかったのだろうな。
でも君ならきっと対抗できる。首から上を挿げ替えさえすれば。
「全とっ換えじゃねーか、黙って聞いてろ。そんな女神を他の神様が放っておくはずはありません。三人の神様が女神に求婚しました」
「一人目は豊作の神。彼は女神と結婚できるなら、女神の領地に永遠の豊作をもたらすと約束しました」
「二人目は美貌の神。彼は女神と結婚できるなら、女神の領地に存在するもの全てに完全なる美を与えると約束しました」
「三人目は富の神。彼は女神と結婚できるなら、女神に莫大な富を与えることを約束しました」
太っ腹な連中だな。
それで、女神は誰を選んだんだ?
「んふふー、誰だと思う?」
そうだな、多分二番目の美の神だろう。
それだけ美しい女神なら、自分の領地にも美しくあってほしいと思うだろうしな。
「ブブー。大、不正解。いけませんなー、全然女心がわかっていませんなー。」
ほっとけ。
そこまで言うなら、ちゃんとしたオチがあるんだろうな。
「もちろんですよ。女神はね、誰も選ばなかったの」
はぁ? 何で?
「最初に言ったでしょ、不毛な話だって。三人とも禿げてたからよ」
……。
「……」
謝れ。
「ごめんなさい」