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第5話 強がりじゃない

「そいつを罰柱へ連れていけ」


 壺商人の荷車が出ていくと、ガルドはリクを指さした。


「待てよ。金はもう、あんたが払っただろ」


「金の話は終わった。次に商品を壊させないための罰だ」


 監視役がリクの腕をつかむ。

 俺は二人の間へ入った。


「子供に持てない壺を運ばせたのが悪いんだろ」


「どけ」


 脚に力を込めた。

 それでも身体が横へ動き、リクの前が空いてしまう。


「リクに触るな!」


「止まれ」


 伸ばした手まで止まった。

 ガルドが近づき、俺の顔をのぞき込む。


「主人の命令に逆らうな」


「だったら最初から、全部命令すればいい」


「何?」


「立て。歩け。運べ。黙れ。俺が自分からお前に従ったことなんて、一度もない」


 ガルドは、俺の火を手に灯した。


「身体も、火も、俺のものだ」


「それでも俺は、お前を主人だとは思わない」


 あいつの笑いが消えた。

 俺の後ろから、アオが口を開く。


「ユウキの言うとおりだ」


 ガルドの目がアオへ動く。


「仕事の損は主人の損なんだろ。持てない壺を運ばせたのは、お前の監視役だ」


 アオが、割れた壺を指した。


「だったら、失敗したのはお前だ」


 中庭が静かになった。

 目をそらしていた奴隷たちまで、ガルドを見ている。


「誰に教わった?」


 あいつはミナを見た。

 アオが間に立つ。


「今の話には関係ない」


「口答えする奴隷が、二人になったようだな」


「アオは関係ない!」


 俺が叫ぶと、ガルドはゆっくり俺に向き直った。


「なら、お前がこいつを黙らせろ」


「断る」


「命令だ」


 身体が動いた。

 アオの胸ぐらへ、俺の手が伸びる。


「逃げろ、アオ!」


 逃げない。

 俺の手につかまれたまま、アオは俺を見ていた。


「お前の手は、震えてる」


「だから、逃げろって……!」


 殴りたくない。

 こいつは、俺のために火を取り返そうとしてくれたんだ。


「身体を動かされても、お前まであいつのものになったわけじゃない」


 アオの声は、いつもどおりだった。

 ガルドは俺たちを見比べ、つまらなそうに鼻を鳴らす。


「もういい」


 俺の指が緩んだ。

 アオが小さく息を吐く。


「そこまで一緒にいたいなら、願いをかなえてやる」


 ガルドが、鉱山への売却を告げた。

 三日後。俺とアオ、二人まとめて。


 買い取りの札は、もうただの脅しじゃなかった。


「アオは関係ない!」


 抗議しても、ガルドは狭い坑道へ入れる子供が必要なのだと言った。

 つかみかかろうとした俺の腕を「止まれ」で止め、用は済んだと背を向ける。


 その背中を、アオが呼び止めた。


「三日後……ユウキを自由にするのは、お前だ」


 俺は、アオを見た。


 ガルドは笑った。

 三十枚の商品を、なぜ自分から捨てなければならないのかと。


「そのうえ、お前は全財産を俺に差し出す」


 その一言で、笑いが止まった。


 アオは、ここから逃げると言ったんじゃない。

 俺たちを売る男に、自分から契約を終わらせると言い切った。


「……三日後まで、その強がりが続くといいな」


「強がりじゃない」


 アオはガルドを見上げた。


「決まっていることを言っただけだ」


 ガルドはしばらくアオを見ていたが、やがて監視役を振り返った。


「こいつらを仕事へ戻せ」


 俺の身体が、木箱へ向いた。

 監視役が、リクをミナの方へ押しやった。

 ミナはその腕を取り、再びガルドの目につく前に作業場へ連れていった。



「おい」


 隣で荷を運ぶアオへ、俺は声を落とした。


「何だ?」


「何だじゃないだろ。三日後、どうするんだよ」


「ここを出る」


「それは聞いた!」


 監視役が振り返り、俺は慌てて口を閉じた。

 アオが、足もとの箱を指す。


「止まるな。見てる」


 歩きながら、もう一度聞いた。


「本当に、方法があるんだな?」


「まだ全部は決まってない」


 危うく木箱を落としかけた。


「決まってないのに、あんなこと言ったのか!?」


「できないことは言ってない」


「その違いが分からないんだよ!」


 アオは門を見ていた。

 ドグが荷車を通し、腰の鍵束を鳴らしている。


「協力者が必要だ」


「ベルンさんか?」


「その前に、一人」


 俺もドグを見た。

 あの巨体なら、門の一つくらい壊せるかもしれない。


「あいつに、逃がしてくれって頼むのか?」


「頼む前に、教えることがある」


 アオが俺の方へ向き直った。


「自分が自由だと知らない奴が、ここにいるかもしれない」


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