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まゆこは24歳。ゆかりは17歳。
まゆこはある日から犬憑きになった。
犬憑きには自治体から補助金が出る。
まゆこは仕事を辞めて、学生時代の少しの貯金と自治体の補助金で暮らしていくことにした。
補助金を得る代わりに、夢日記をつけることが義務付けられている。
まゆこは日記をつけ始めた。
まゆこは犬憑きになってから、毎夜同じ夢を見る。
犬になっている夢。
犬になって、街を歩いている夢だ。
街には誰もいない。
路地を曲がると風が気持ちいい広場に出た。
犬になったまゆこはこの街の全てを知っている。
その街は犬のための街だった。
ゆかりはまゆこと同じ村に住む女の子。
まゆこが犬憑きになったという噂を聞いて親友になりたいと、まゆこの家にやってきた。
まゆこをスケッチしたり、まゆこの夢日記を勝手に読んだりする。
代々の犬憑きの日記の写しも持っている。
犬憑きにハマっている。
ある日、ゆかりとまゆこが過去の犬憑きの日記を読んでいると、
どの犬憑きも「同じ街」を歩き回っていることに気がついた。
街の道、あちこちにあるモニュメントなど、どの日記も、まゆこの夢の中の街も、位置が一致している。
日記をもとに、つぎはぎで街の地図を書いてみた。それはどこにも存在しない街だった。
まゆこは犬憑きの症状が進むと、うまく言葉を話せなくなってきた。
その代わり、夢の中の街のことがどんどん理解できるようになってきた。
この街は一種の暗号なのだ。
通る道、現れるモニュメント、景色、それらは犬の認識をもつゆみこだけが分かる暗号だった。
その街はいわば一つの記憶の神殿であった。
暗号はそれぞれ、実在の書籍を表していた。
その街は誰かの読書リストだったのだ。




