後編
それからも、少しずつ未来を変えていくマルス達。
そんな中、かねてから考えていた友人との仲直りを決行することにした。
それは、マルスがズルだと決めつけてしまった、チャンバラ友達ーーエンツォとのことだ。
しかし、仲直り当日、マルスは裏切りを受けてしまう。
マルスの事を良く思わない派閥に、エンツォがマルスの行動スケジュールを教えていたからだ。
未来のマルスは数年後に友人エンツォの裏切りを知り、友達など親しい人間を作らなくなっていた。
サークルは将来裏切る予定のエンツォを気に掛けるようにと、マルスに言い聞かせる。
マルスは気が向かなかったが、人は間違えるもので、間違いを許す寛容さも王としての器に必要なものだと言われ、渋々エンツォの動向に気を配った。
幽体であるサークルの協力も得て、エンツォの情報を収集していく。
すると、エンツォが家族から過度な期待を受け、嫌なことまですすんでやっているのを見抜いた。
それは、エンツォの母親が彼の出産の際になくなった事が原因だった。
エンツォは父親に嫌われていると思いこみ、愛を得るために、暴走することが度々あった。
実際の父親は、エンツォの事を疎んじてはいなかったが、言葉足らずのために伝わってはいなかった。それに加え、王子と敵対する派閥でもなかったのだが、それもエンツォには伝わっていなかった。
さらに、父親と息子の仲がぎくしゃくしているため、その家の使用人たちの雰囲気も悪く、エンツォに味方はいなかった。
そこでマルスは、彼の家族が互いに話し合う場をもうけ、エンツォと父親とのわだかまりを解消することによって、エンツォの未来を変えた。
本来の未来ではエンツォは、マルスと敵対する派閥として動き、怪しい動きをしたという理由で、マルスの護衛によって切り殺されていた。
家族とのわだかまりをなくしてくれたマルスと仲直りした、エンツォは自分が仕える王を定める。
彼は、マルスの一番の友人になると誓い、それからも近くで支え続けることを約束した。
サークルと出会ってから1年が経過した。
未来を変えるために必要な行動はあと二つだった。
王になるものは時として非情な決断を下す事になる。
実際に、少数を見捨てて、多数を取らなければならない状況になる前に、サークルはそのことを伝えた。
これからの将来で、いくつかの国と小競り合いが起こる予定だ。
そのどれもが実際は大したことはないが、たまに犠牲が出る事もある。
そういった時に、同時に他で問題が起きれば、割り当てられる人材の数は限られる。
過酷な事が実際に起こる前に、サークルはマルスに王の仕事を見学するように進めたのだった。
この世界では生きている王は、いつも責任をもって仕事をこなしている。
良い結果も悪い結果も、全て自分が背負うと言う覚悟で、物事にあたっていた。
機を見計らったかのように事件が起きる。
まったく同じ時期に東と西から援軍の要請がくる。
国の正反対で戦う兵士達が、小さな国との小競り合いや狂暴な生物の大繁殖に苦戦していた。
どちらかに戦力を分ける必要があったため、王は最善だと信じて、決断を下すのだった。
その姿を見たマルスは自分が未来で行うことの重さを知った。
これで、遠くない将来のいつか、ふいに重要な決断をせまられた時に、マルスが狼狽える事はなくなり、その時間を無駄にすることもなくなったのだった。
王は民を不安にさせてはならない。
民を元気づけるような存在でなければならない。
王の仕事を見学してから、マルスはよりいっそう自分の立場を意識するようになった。
そんな中、事件が起こる。
親しい友人達と国の美術館を見学した際、マルス達が立てこもり事件に巻き込まれたのだ。
人質にされたマルス達は、窮地に陥る。
犯人たちの怒号と彼らの持つ武器の存在。
それらを見て不安がる子供達を、マルスは励ました。
王としての威厳と余裕を見せられるように、マルスは全力で頼もしい王の姿を演じる。
それが成功してか、友人達は落ち着きを取り戻した。
しかし、トラブルは思わぬ方向からやってくる。
子供嫌いな犯人が、マルスの友人たちに手を上げ始めたのだ。
人質をとって外と交渉している彼等だが、状況は彼等の思うようには動かなかったらしい。
それで苛立ちが募り、ストレスを発散しようとしたのだ。
マルスは子供達をかばうが、代わりに犯人に危害を加えられそうになる。
しかし、すぐに騎士たちが突入するはずだとはったりを口にした。
魔道具で外に状況を詳しく伝えているため、中の様子は筒抜けだと。
本当はそんな事はしていなかったが、嘘で時間を稼ぐ必要があった、
それらしい品物を見せたマルスに、犯人たちが驚いた。
小さな手から道具を奪った彼らはすぐにそれらを壊す。
マルスの行動に苛立ったが、彼らはどうする事もできなかった。
王子を殺してしまうと、さすがに自分達の要求が通らなくなると分かっていたからだ。
そのため、他の子供達に暴力を振るおうとしたが、そんな事をすればマルスが自分を自分で殺すと伝えて、逆に脅し返した。
マルスは護身用に隠し持っていたナイフで、自分の喉元につきつけてみせたのだ。
奇妙な膠着が続いたが、それは長くはない。
そのうちに、優秀な騎士たちが内部に突入して、マルス達が救出されたからだ。
マルスの雄姿を見た子供たちは、将来彼の手足となるような、重要な忠臣とっていく。
サークルの助言とマルスの成長で、未来は確実に変化していた。
それを表すように、ある日を境にサークルの姿が徐々に消え始めた。
サークルは相変わらず小言を言ったり、王子としてあるべき姿というものを説明していた。
いつもと変わらないその姿に、マルスは少し苛立った。
しかし、サークルは自分の変化を穏やかな心境で受け入れていると言った。
多くの人がなくなる未来のままより、マルスが頼もしく成長した未来になる方が絶対にいいはずだからと。
マルスはずっと前から不思議だったことを聞いた。
どうして自分にこんなにも親切にしてくれるのかと。
サークルは、未来で暴君になり、荒れたマルスから助けられたと言う。
それは気まぐれのようなものだったが、サークルにとっては大切な出来事だった。
育児放棄され、森の中で育ったサークルは野生動物の群れにいた。
やがて人に発見され、人間社会にとけこむ努力をさせられ、それが叶えば他の人達には喜ばれた。
しかしサークルは、動物たちと一緒にいる方が幸せだった。
人間も嫌いではないが、動物といると悲しそうな目をされるのが嫌だったのだ。
そんな彼に獣の世話をさせてくれたのがマルスだった。
マルスが王になった後、ただの下働きだったサークルの配属先が変わった。
だから恩を返したいと思っていたのだった。
サークルは知らないことだったが、それは人間不信に陥っていたマルスの、小さな思いやりだった。動物は人より信じられるという彼の気持ちと、自分と同じように人に囲まれたくないと思っている人間への、些細な親切心だった。
ぴんとこないという幼いマルスに、それでいいのだとサークルは言う。
やがてサークルが完全に消える日がやってきた。
マルスは寂しく思ったが、サークルは微笑んだ。
やがて、サークルが消えていくのを見て、マルスは完全に未来が変わったことを知る。




