羽目を外すとは情けない
隣国への外遊は、無事に終わるはずだった。
式典も、会談も、宴も。
王子として求められる役割は、すべてきちんと果たした。
だから。
その夜くらい、少しだけ気が緩んでも――仕方がなかったのかもしれない。
気づいたとき、朝だった。
窓から差し込む光。
見知らぬ天井。
そして。
隣に、女性が眠っていた。
「……」
王子は天井を見つめたまま、静かに息を吐いた。
やってしまった。
酒は強い方だ。
普段、ここまで酔うことはない。
だが昨夜は、祝いの酒が何度も注がれ、断るのも外交のうちではない。
結果がこれだ。
「羽目を外すとは……情けない」
自分で呟き、額を押さえる。
そのとき。
「……もう起きてるの?」
隣の女性が、くすっと笑った。
王子はゆっくり顔を向けた。
長い髪。
少し眠そうな目。
どこか見覚えがある気がした。
「申し訳ありません」
王子はすぐに頭を下げた。
「昨夜のことは、私の不徳の致すところです」
「真面目ね」
女性は肩をすくめた。
「別に、私も飲んでたし」
「それでも」
王子は真剣な顔で言った。
「責任は取ります」
「責任?」
女性は面白そうに笑った。
「結婚とか?」
王子は少し考えた。
「もしあなたが望むなら」
「本気?」
「本気です」
女性はしばらく王子を見ていた。
そして、ふっと笑った。
「変な人」
「よく言われます」
「普通、逃げるのよ」
「逃げません」
王子は静かに言った。
「一緒に夜を過ごした人を、大切にしない男にはなりたくない」
女性は少し驚いた顔をした。
そして。
「……やっぱり変」
そう言って笑った。
その日の午後。
王子は帰国の準備をしていた。
外遊は終わり。
王宮に戻れば、また忙しい日々が始まる。
そのとき、護衛が慌てて駆け込んできた。
「殿下!」
「どうしました」
「帝国の姫君がこちらへ」
王子は一瞬、思考が止まった。
「……姫?」
「はい。政略結婚のためのご挨拶だそうです」
胸が嫌な音を立てた。
まさか、と思った。
そして。
扉が開いた。
「久しぶりね」
そこに立っていたのは。
朝、同じベッドで目覚めた――あの女性だった。
王子は固まった。
「……あなたは」
姫は腕を組んで言った。
「言ったでしょ?」
「?」
「普通、逃げるのよって」
少しだけ意地悪な笑顔。
「逃げない王子様だったみたいだけど」
そして、少しだけ頬を赤くして言った。
「責任、取ってくれるんでしょ?」
王子はゆっくり息を吐いた。
そして深く頭を下げた。
「もちろんです」
顔を上げる。
今度は、まっすぐに。
「あなたを、一生大切にします」
姫は少しだけ照れてから、そっぽを向いた。
「……当たり前じゃない」
でも、その声は。
どこか嬉しそうだった。




