表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で効率厨やったら、なぜかギルドが静かになった件   作者: 木芋 平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

第9話 評価は、だいたい後から追いつく

 評価というものは、不思議な性質を持っている。


 起きた瞬間には誰も気づかないくせに、少し時間が経つと「前からそうだった」顔で定着する。


 ギルドでの空気が、また少し変わったのは、勉強会の張り紙が消えてから二日後だった。


 まず、怪我人が減った。


 劇的ではない。数がゼロになったわけでもない。だが「致命傷になる前に戻ってくる」冒険者が増えた。血まみれで担ぎ込まれる代わりに、自分の足で歩いてくる。


 受付の奥で、治療師が小さく首を傾げているのを見た。


「……今日は、軽いのばかりだな」


 それを聞いたリリアが、書類を整理しながら答える。


「そうですね。不思議です」


 不思議でもなんでもない。


 《最適化》は、因果を淡々と示している。


 ——現場対応改善。


 ——搬送時間短縮。


 ——初動判断向上。


 だが、誰も「応急処置のおかげ」とは言わない。


 言わないからこそ、いい。


 俺は、依頼掲示板の前で立ち止まった。今日は簡単な依頼を一つだけ受けるつもりだった。人目につきすぎないやつを。


 《倉庫の荷運び》


 いい。実にいい。


 力仕事だが、危険は少ない。誰でもできるが、誰もやりたがらない。こういう仕事は、評価も噂も生まれにくい。


 依頼書を剥がしていると、背後から声がした。


「……アルト」


 振り返ると、昨日、倉庫裏で小声の相談をしていた冒険者の一人だった。


「少し、いいか」


「手短に」


 そう言うと、彼は少しだけ安心した顔をした。


「昨日……仲間が、怪我したんだ」


 胸の奥が、少しだけ締まる。


「大丈夫でしたか」


「ああ。魔法で治った。ただ……」


 彼は、言葉を選ぶように続けた。


「縛って、待った。教わった通りに。そしたら……」


 そこで、言葉が止まる。


「……間に合った」


 それだけで、十分だった。


「誰にも、言ってない」


 彼は、慌てて付け足す。


「言うな、とは言いません」


 俺は、静かに言った。


「でも、広めなくていいです」


 彼は、少し驚いた顔をした。


「いいのか?」


「必要な人には、勝手に伝わります」


 それが、一番壊れにくい。


 男は、深く頷いた。


「……あんた、変わってるな」


「よく言われます」


 それは、前世からだ。


 倉庫の荷運びは、淡々と終わった。効率よく配置し、無駄な動線を減らす。それだけで、半日の作業が三時間で終わる。


 依頼主の商人が、目を丸くした。


「早いな……」


「人を動かす順番を変えただけです」


「……また来てくれ」


 断った。


 目立つと、余計な仕事が増える。


 ギルドに戻る途中、騎士団の詰所の前を通りかかった。


 中から、聞き覚えのある声がする。


「……あの止血のやり方だが」


 バルド団長だ。


「自主的にやってる連中がいる。禁止はしない。だが、命令にもするな」


 誰かが答える。


「それでは、統制が——」


「統制は、事故が起きてからでいい」


 一瞬、沈黙。


「今は、様子を見る」


 それ以上、聞く必要はなかった。


 評価は、もう動き始めている。


 俺が何かしたからではない。


 俺が「何もしなかった部分」が、勝手に働いている。


 夜。


 宿の部屋で、ベッドに腰を下ろし、天井を見上げた。


 疲れている。だが、前世のそれとは違う疲れだ。


 身体は動く。呼吸も深い。眠れそうだ。


 《最適化》が、今日の総評を出す。


 ——直接介入:最小。


 ——間接効果:中。


 ——評価伝播:遅延中。


 悪くない。


 むしろ、理想に近い。


 俺は、目を閉じた。


 この世界は、相変わらず非効率だ。


 だが、非効率の中にも、学習はある。


 それに気づける人間が、少しずつ増えている。


 評価は、後から追いつく。


 だから今は、静かにしていればいい。


 そう思いながら、俺は久しぶりに、何も考えずに眠りについた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ