表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で効率厨やったら、なぜかギルドが静かになった件   作者: 木芋 平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

第12話 責任は、音もなく落ちてくる

 問題が起きるときというのは、だいたい静かだ。


 怒鳴り声もなければ、悲鳴もない。誰かが走ってくることもない。ただ、空気が一段重くなって、あとから「あれが始まりだった」と言われるだけだ。


 その日、ギルドに入った瞬間、嫌な感触があった。


 忙しい。だが、慌ただしくない。皆、動いているのに、目線が合わない。書類を持つ手が、ほんの少しだけ強張っている。


 《最適化》が、短く警告を出す。


 ——不整合。


 ——責任処理中。


 俺は、壁際に寄り、状況を眺めた。非公式相談役にできる最善は、まず“邪魔をしない”ことだ。


 ほどなくして、リリアがこちらに気づいた。いつものように声をかけてこない。代わりに、視線だけで「後で」と合図する。


 ……後で、が一番厄介だ。


 少しして、二階から人が降りてきた。


 副長のハーゼンだ。表情は変わらないが、歩調が速い。その後ろに、若い冒険者が一人ついている。


 顔色が悪い。


 まだ二十代前半だろう。装備は整っているが、使い込まれてはいない。新人か、中堅に差しかかる頃だ。


 胸の奥が、少しだけ冷える。


 《最適化》が、断片を拾う。


 ——地方依頼。


 ——応急対応。


 ——判断ミス。


 やがて、応接室の扉が閉まった。


 音は、小さかった。


 それが、余計に嫌だった。


    ◇


 呼ばれたのは、三十分後だった。


 応接室には、ハーゼンと、もう一人。エドガーがいた。彼がいる時点で、事態は“整理”の段階に入っている。


 そして、椅子に座っている若い冒険者。


 俯いている。


「アルト」


 ハーゼンが、短く呼んだ。


「状況の共有だ。意見は求めない」


 それは、配慮であり、予防線でもある。


「地方の討伐依頼で、判断ミスがあった」


 ハーゼンは、淡々と話す。


「負傷者が出た。命に別状はない」


 それだけで済んだなら、ここに俺はいない。


「現場で、応急対応が行われた」


 視線が、若い冒険者に向く。


「……魔法は、使いませんでした」


 彼の声は、震えていた。


「仲間の魔力が少なくて……待てば、間に合うと思ったんです」


 《最適化》が、即座に補足する。


 ——判断根拠:不足。


 ——状況評価:甘い。


 ——教訓:不完全理解。


 ハーゼンが、書類を一枚机に置いた。


「結果、出血が増えた。搬送が遅れた」


 沈黙。


 エドガーが、静かに口を開いた。


「君は、誰に教わった?」


 若い冒険者は、唇を噛みしめた。


「……誰にも」


 嘘ではない。だが、真実でもない。


「噂を、聞きました」


 その言葉が、胸に落ちた。


「ギルドで……応急処置が役に立つって」


 部屋の空気が、さらに重くなる。


 ハーゼンが、俺を見た。


「君の名前は、出ていない」


 分かっている。


「だが、“考え方”は、回っている」


 それも、分かっていた。


 俺は、黙っていた。ここで言葉を挟めば、焦点がずれる。


「結論を言う」


 ハーゼンは、書類を閉じた。


「今回の責任は、現場判断をした冒険者本人にある」


 若い冒険者の肩が、わずかに震えた。


「処分は、依頼ランクの一時停止。再教育を受けること」


 重すぎる処分ではない。だが、軽くもない。


 エドガーが、視線を落としたまま言う。


「制度上は、妥当だ」


 制度上は。


 その言葉が、刺さる。


 俺は、拳を握った。


 《最適化》が、冷静に告げる。


 ——介入不可。


 ——発言時、責任紐づき。


 ——沈黙、最善。


 分かっている。


 だが、分かっていても、気分は悪い。


「以上だ」


 ハーゼンが立ち上がる。


「アルト。今回は、意見を求めない」


 それは、優しさだった。


 若い冒険者が、立ち上がり、深く頭を下げた。


「……すみませんでした」


 誰に向けた言葉か、分からない。


 部屋を出るとき、エドガーが一瞬だけこちらを見た。


 何も言わない。


 だが、その目は、こう言っていた。


 ——これが、現実だ。


    ◇


 廊下に出ると、リリアが待っていた。


「……聞きましたか」


「はい」


 それ以上、言葉が続かない。


「彼……悪い人じゃないんです」


「知っています」


 声が、少しだけ低くなる。


「真面目で。勉強熱心で」


 それが、一番厄介だ。


「……アルトさんのせいじゃ、ありません」


 分かっている。


 だが。


「原因では、あります」


 俺は、そう答えた。


 リリアは、何も言えなかった。


 ギルドを出ると、空は曇っていた。今にも雨が降りそうな色だ。


 《最適化》が、今日の総括を出す。


 ——成功事例:継続。


 ——失敗事例:顕在化。


 ——責任分配:個人。


 ——精神負荷:高。


 音もなく、責任は落ちてくる。


 誰かの頭上に。


 それが、自分でないだけで、安心していいわけがない。


 俺は、歩きながら考えた。


 このまま、考え方だけを流し続ければ、同じことは起きる。


 止めるには、二つしかない。


 何も言わないか。


 もっと、慎重に言うか。


 どちらも、楽じゃない。


 雨が、ぽつりと落ちた。


 俺は、足を止めずに歩き続ける。


 立ち止まった瞬間、責任はもっと重くなる。


 それを、よく知っていたからだ。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ