第三話
謎空間での出来事です。
不思議な夢を見た。
暗闇の中、僕はその中心に立っていた。
上も下も黒で塗りつぶされ、足が地面についている感覚もしないし、落ちている感覚もしない不思議な空間。
ーーいや違う。
上の黒は暗雲だ。
光の歪な線が走り、うなり声を上げている。
まだ子馬にしか乗れないくらい小さい頃は、空に光の線が現れると、創造神さまがお怒りになり、この世界を消してしまおうと考えているのではないかと考えては、母の膝の上でよく泣いていた。
子供の発想力とはいえ、それが本当ならこの世界は何度、消されているのだろう。
ある時、母に光の線のことを教えて貰った。
光の線が空に現れるのは、天之神さまが人々に水の恵みを分け与えてくれる前兆ということを。
光の線が創造神さまのお怒りではなく、天之神さまの恵みの雨の前兆と分かって以来、僕は光の線が現れるのを楽しみに待つようになった。
何故、今そのことを思い出したのか分からない。不思議と、過去の出来事が目の前で繰り広げられているかのように鮮明に思い出すことができたのだ。
次に下を見た。地面ではない黒が一面に広がっていたが、突如、その景色に
ビシビシと音を立ててヒビが入った。大地震によって地面が割れたのだ。
下の黒は大地だ。何故、黒くなっているかは分からないが、目を凝らしてみると、山が割れ、草原の大地が大量の水で流されているのが見えた。
ーー僕の村も、部族ごと流されていた。
流された先には割れた大地があり、物や人はその亀裂の中に吸い込まれていく。
そうか、僕が見ているこの光景は世界の崩壊だ。
天が泣き、大地が悲鳴を上げている。
僕は天と大地の中心で世界が壊れていくのを見ていた。ただ見ていることしかできなかった。部族のみんなを助けたくても、狼にすら負けてしまうような自分に、世界崩壊を止められるわけがない。
それに僕は死んだ人間だ。死んだ人間に世界崩壊なんて関係の無いことだ。
『違う』
「え?」
『関係なくはない』
「誰……、誰かいるんですか!」
僕は声の主を探そうと周りを見回したが、声の主の姿はどこにもいない。
「どこに……」
『ここだよ。さあ、手を伸ばして』
「どこにっ、手を、伸ばせば良いんですか!」
僕は声の主に向かって叫んだ。
しかし、声の主は何の反応もしてくれない。
どこに手を伸ばせば良いのか、どうして姿を見せてくれないのか。
僕は腹の底から、心の奥から声に出して叫んでいるのにーー。
「ぃやだ……、ねえ、お願いですから、こんな冗談、止めて、ください。僕を、一人に、しないでぇ……」
掠れた声と生温いものが頬を伝う。一人が嫌だなんて自分は可笑しくなってしまった。
”人間、死ぬときは一人”
部族で教わってきたことなのに、今自分が一人でいることが怖くて怖くて堪らない。
両腕で自分の身体を抱き、震える身体を押さえようとしたが意味が無い。
嗚咽を繰り返し、下唇を噛んで声を殺す。長い時間、泣いていた気がする。
突然、頭上に光の柱が伸びてきた。
『大丈夫、君は一人ではない。さあ、手を伸ばして……天埜』
僕は顔を上げた。
今度こそ、手を伸ばした。
手を伸ばすべき方向へ、光の柱へ向かってーー。
指先が光の柱に触れた瞬間、眩い光が襲い掛かり、僕は思わず目を閉じた。




