表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第十話


 旅立ちの儀を終えた後、僕は解放された道埜と共に約束の場所へ向かった。

 約束の場所へ行くと、時埜はのんびりと空を仰ぎ、地面に座って待っていた。


「やあ、来たね」


 まるで、僕の考えが分かっていたような口ぶりだ。僕は「はい」と短く答える。

 彼はふんわり優しい笑みを浮かべてから立ち上がった。彼の衣服は濡れた後も泥で汚れた後もない。不思議に思い、首を傾げると、「雨の時を止めていたんだよ」と答えてくれた。


「これが神の使いの力ですか?」


「まあ、平たく言えばそうかな」


「僕も学べば、その力が使いこなせるようになりますか?」


 今日の試合の最中に起こった不思議な出来事。もしかしたら僕が授かった神の使いの力だったのではないか、と勘繰っている。

 だが、時埜は首を左右に振った。


「いいや、神から借りた力ーー神の使いの力は先代から受け継がれるものなんだ。だから、君が神の使いの力を使えるようになるためには、まず先代に会う必要がある」


 ”天空と大地の力”を使う先代の神の使い。どんな人物なのだろう。


「その人は、ど、こ…………っっくしゅん!」


 我慢できずにくしゃみをすると、時埜はどこからともなく真っ白なタオルを出して僕の髪を優しく拭いた。


「大丈夫? 不老の身体にはなっても不死ではないから、病気はするし、怪我だって負うから、身体には気を付けてね」


「怪我……、あの、神の使いになると身体の怪我の治りは早くなったりするんですか?」


「え、いいや。そんなことはない。普通の人間と同じくらいの回復力しかないよ」


「けど、昨晩まで起き上がれないくらい痛かったのに、朝起きたら人の手を借りないと動けなかったし、今は誰の手を借りなくても歩けるし痛みだってありませんよ」


「ああ、それはね」


 時埜は手を伸ばし、僕の額を指先で突いた。ーーー瞬間、全身に痛みが走った。


「…………っが! いっだあああああぁぁぁぁぁぁ!」


 喉から叫び、その場に倒れかけたが、後ろから道埜に支えられ泥の地面に横たわる事はなかった。だが痛い。痛くて痛くて涙が流れるほどだ。声が上手く発せず、ハクハクと口を開閉する僕に道埜は呆れた風に時埜を見遣った。


「急に戻すな。加減を知れ」


「あぁ、ごめん。けど、これ以上、痛みを止めていると、余計に無茶をして怪我を悪化させてしまうと思ったんだ」


 時埜は申し訳なさそうに眉を下げ、説明する。


「私の力は”時間・空間の力”。君の身体の時間を止めて、感覚だけでも健康体としていられるようにしたんだ。君が、どんな選択をしても困らないようにね」


 時埜は気付いていた。僕が無茶をすることを。その妨げとなる”痛み”を止めてくれていた。


「あり、が…………ざい、ま……」


 途切れ途切れなお礼になってしまったが、時埜は「別に良いよ」と言ってくれた。彼の優しさに心が温かくなる。


「さあ、怪我を見せてごらん。治療をしよう」


 差し伸ばされる時埜の手。

 その時に気が付いた。

 世界崩壊の夢の中で、僕に声を掛けて手を伸ばしてくれたのは時埜だ。姿形は見えなかったけど、目の前に差し出された手の平を見て確信した。

 僕の運命はあの時から全て決まっていた。時埜の手を振り払う事なんてできるわけがない。

 僕が、遊牧の民ーー八雲を名乗ることはもう二度とない。

 僕は時埜に手を伸ばそうとするも、肩の激痛によって阻まれる。だが、今この手を取らなければと焦り、震える手を伸ばそうとすると、手首を掴まれ、こちらの意思関係なく手を伸ばさせられた。


「……っだあああああああああ!」


 絶叫する僕をよそに、道埜は平然とした顔で「手を繋ぎたかったんじゃないのか?」と聞いてくる。僕の症状を分かっていないのだろうか。わざとか、天然か。道埜を睨みながら逡巡する僕を見て、時埜は声を出して笑った。


「君たちが私の仲間になってくれたこと、心からの感謝と歓迎をするよ。よろしく、天埜。改めてよろしく、道埜」


 道埜は短く「ああ」と返事をし、僕も「よおしぃう」と言葉にならない声で返事をした。



次でラストです。

最後までお付き合い頂ければと思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ