第9話 いろいろな魔法
『やっぱりソラは迷い人だったのね。あの強力な呪いを解除できる人なんて初めて見たわ!』
元いた道をクロウとシロガネと一緒に戻って歩みを進める。
『当然だが、他の者にはバレないようにするのだぞ、シロガネ』
『わかっているわよ、クロウ。……それにしても呼ばれる名前があるっていいものね』
『うむ、それについては我も同意しよう』
「………………」
すぐにクロウとシロガネは仲良くなっていた。聖獣同士だからか、元々の二人の性格かは分からないけれど、ちょっとだけ羨ましい。
ちなみに僕が迷い人であることはクロウと一緒ですぐにバレてしまった。やっぱりこの万能温泉というスキルの力はあまりにも強力過ぎるらしい。シロガネからも他の人には絶対秘密にしておいた方がいいと言われた。
『そういえば、その荷物は何が入っているの?』
「これにはクロウが狩ってくれたワイルドボアのお肉に野草や水なんかが入っているんだ」
僕が背負っている森で見つけた大きな葉っぱとクロウが背負っている毛皮で作った風呂敷の中にはワイルドボアのお肉や素材、森で見つけた野草やキノコ、ヤシの実のような植物で作った水筒が入っている。
『ソラの分は私が持つわよ』
「ううん、大丈夫。これはクロウが僕のためにとってきてくれた物だから、自分で持つよ」
『ふふ、偉いわ。ワイルドボアの肉と水ね、ちょっとだけ見せてもらってもいいかしら?』
よくわからないけれど、シロガネに葉っぱと風呂敷の中を見せてあげる。
『えい!』
「すごい、冷たくなったよ!」
『ほう、シロガネは氷魔法が使えるのであるな。これならしばらくの間もちそうだ』
ワイルドボアのお肉の周りに突然透明な氷が現れた。
ワイルドボアのお肉は葉っぱに包んでいるけれど、クロウはあまり長くもたないって言っていた。これだけ冷たくしておいたら、普通よりも長くもちそうかな。元の世界でもお肉は冷蔵庫に入れないと駄目だもんね。
『あとこれからは水を気にしなくて大丈夫よ』
「うわあ、とっても綺麗だね!」
シロガネの周りに丸い水の球体がふわふわと浮いている。
まるで元の世界の動画で見た宇宙空間のお水みたいだ!
「シロガネ、このお水って飲んでも大丈夫?」
『ええ、もちろん。冷たくておいしいわよ』
「やったあ!」
ぷかぷかと浮かんでいる水の球体に口を付けてちゅうちゅうとお水を吸ってみる。冷たくておいしいけれど、それ以上に空中に浮いているお水を飲むのはとても面白かった。
宇宙空間でしかできない経験をまさか異世界でできるとは思ってもいなかったよ。
『なるほど氷魔法に加えて水魔法も使えるとはやるな』
なぜかクロウがシロガネに対抗心を燃やしている。クロウも雷魔法と火魔法が使えて十分すごいのになあ。
『あっちの方に大きな岩があったわ。今日はその下で休みましょう』
『そうだな。片側だけでも壁はあった方がいい。まあ、我がいるからどこで寝ても問題はないが』
『あら、私だっているわよ』
シロガネは上空を飛んで周囲で泊まれそうな場所を探してくれた。空から周囲を見渡せるのは羨ましい。
そのまま2人と一緒にその場所へ移動して野営の準備をする。
『早く人里に行ってソラにいろいろと買ってやりたいところだな』
「僕は全然気にしないよ」
晩ご飯はクロウの火魔法で焼いたワイルドボアのお肉と生で食べられる野草だ。
鉄板や包丁みたいな調理道具がないのはちょっと不便かもしれないけれど、僕にとってはその全部が新鮮だ。お皿とかもないから、森で見つけた大きな葉っぱをお皿にして、拾った枝を箸の代わりに使っている。
なんだかサバイバルをしているみたいでちょっと面白いかもしれない。
『それに調味料なんかもほしいところね。確か人族はいろいろと食材を料理をするのよね?』
「うん。確かにお塩があればもっとおいしくなるかな」
クロウとシロガネはお肉を生でも焼いても食べられるみたいだ。それにお肉だけじゃなくて野草も食べられるみたいだし、普通の狼さんと鳥さんとは違うらしい。
村か街を見つけたら、ワイルドボアの牙なんかの素材を売ってお金を手に入れて、必要な物を買い揃えるつもりだ。
『やっぱりすごいわね! 呪いを癒すだけじゃなくて、こんなに気持ちが良いなんて!』
『ああ、何度入ってもこの温泉というものは心地が良い。これに毎日入れるのはとても幸せだ』
「うん、みんなで入るお風呂は気持ちが良いね!」
晩ご飯を食べたあとは僕の万能温泉を出して、2人と一緒に入っている。
ちなみに2人は温泉に入る時は小さい姿になってくれた。2人とも元の身体の大きさで温泉に入ったらお湯が半分くらい溢れちゃうかもしれない。
やっぱり何度入っても温泉はとても気持ちが良いなあ。それに今日は朝から結構歩いたこともあって、だいぶ疲れていたから、疲れが一気に取れていくようだ。
今日はいろいろとあったけれど、シロガネに出会うことができた。明日はこの世界の人に会えればいいな。