第82話 2人のこと
「魔物が人にこれほど懐くとは。ソラくんと言ったか、随分とこの魔物たちに懐かれているようであるな」
「はい。クロウとシロガネは森で出会いました。それからずっと一緒です」
初めて領主様とお話をする。実際に話してみると、とても優しそうな雰囲気をしていた。
僕は村長さんの孫という設定だけれど、この村の近くの森でクロウとシロガネと出会ったことは本当だ。
「ピィ!」
「うわあ~シロガネちゃんもとっても可愛いです!」
そんな話をしていると、クロウの頭を撫でていたフィオナちゃんの肩にシロガネが乗って頭を預けた。フィオナちゃんはとっても喜んでいる。
シロガネはみんなの言葉がわかるから、自分も魔物だけれど害がないことをアピールするためにそうしたんだろうなあ。
クロウとシロガネがフィオナちゃんに懐いているように領主様や護衛の人に見せているのはわかるけれど、ちょっとだけチクッとくる。二人がほしいなんて言われたらどうしよう……。
「それでは領主様、こちらへ」
「うむ。それでは世話になった」
「皆様、おやすみなさい。クロウちゃん、シロガネちゃん、また明日!」
「ワオン!」
「ピィ!」
領主様たちが村の外に設置したテントの方へ帰っていく。どうやらなんとかなったみたいだ。
領主様たちは一日泊まって明日街へ帰るみたいだ。僕たちは一度村長さんの家に集まる。
「なんとかなったようですな」
「ええ、さすがエルダ殿でした。これならソラくんの力の秘密は守られると思います」
『うむ。これならばたとえ領主が温泉を奪いに来たとしても、この地を離れれば良いだけだ』
『ええ。ソラの力があれば、すぐに作物も育つし、その場合はいっそのこと村ごと移動してもいいかもしれないわね』
「ああ、それがいいな。ご先祖様には悪いが、この荒れた土地で頑張るよりもそっちの方がみんな幸せに暮らせるだろうよ」
「そうであるな。この地を離れたくない気持ちもあるが、今を生きている者が優先じゃ」
そうか。僕も何かあったらすぐに逃げればいいと思っていたけれど、村長さんやアリオさんたちはずっとこの村で生活してきて、このアゲク村は大切な故郷なんだ。
領主様もフィオナちゃんも悪い人には見えないし、なにもないといいなあ。
そのあとはみんなで明日のことなんかを話し合った。
「ふああ……」
『いつもより遅くまで起きていて、ソラも眠いだろう』
『そうね、明日はゆっくりと寝ていて大丈夫だよ』
「うん」
領主様たちは明日の朝に出発するけれど、その前に朝食を食べてもらう。領主様たちにはできるだけこの村を楽しんでもらうつもりだ。
だんだんまぶたが重くなってきた。僕たちの家で、いつものように大きくなったクロウとシロガネの間に挟まれて、とても温かくてすぐに眠くなってくる。
「……クロウとシロガネは領主様やフィオナちゃんと一緒に行っちゃったりしないよね?」
頭の中がボーっとしてきた中で、さっきからずっと思っていたことがつい口から出てしまう。
『いきなりどうしたというのだ?』
『……ああ、そういうこと。大丈夫よ、私達にはソラが一番大事だからね』
『ふむ、そういうことであったか。安心するといい。我らが共にいるのはソラだけである』
「よか……った……」
眠気が限界まで達して、意識がゆっくりと遠のいていく。
『寝ちゃったみたい。ふふ、私達が領主やあの女の子と一緒に行くわけがないのにね』
『だが、ソラの方から求められるというのも悪い気はせぬな』
『そうね。私達が命を救われてどれだけ感謝していて、どれだけソラと一緒にいて楽しいのか、まだ子供だからきっとわからないのよね』
『うむ。ソラと出会ってから一日一日がとても眩しく感じている。この村の者やセリシアも悪い者ではないし、人という種族も捨てたものではないな』
『ええ、私も同じよ。本当にこの出会いにはとても感謝しているわ』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お父様、この果物はとっても甘いです!」
「ほう、確かにこれはうまい。なんという果物なのだろう?」
「こちらはルミエオレンという果物で、アレンディールの森周辺に生息している果物です。とてもおいしい果物ですが、本来は栽培すること自体が難しく、実を付けるまでしばらくかかります」
「なるほど。これもあの温泉の力というわけであるか」
僕が起きて村の真ん中の方へ行くと、ちょうど領主様たちが朝食を食べ終わって、デザートのルミエオレンを食べているところだった。
ルミエオレンはリンゴとブドウが混ざったようなとても甘い果物で、みんなおいしそうに食べている。
領主様たちに楽しんでもらいたいところだけれど、あまり魅力的なものがこの村にいっぱいあると、余計に村が狙われちゃうから難しいって昨日みんなが話していたっけ。




