第78話 やってきた理由
「あの、ひとつお聞きしたいのですが、どうして私がこの村にいると……?」
「うむ、その説明がまだであったな。セリシア殿の援護のおかげもあり、襲撃者たちを倒し、負傷者をセリシア殿からいただいたポーションで治療したおかげで誰も死なずにすんだ。すぐにセリシア殿を探したいところであったのだが、襲撃者たちに関連する者の確保を優先した。幸い今回の襲撃に関する賊はそのほとんどを捕らえることができたのだ」
よかった、セリシアさんのおかげで亡くなった人は一人もいなかったみたいだ。
「その後セリシア殿の行方を捜したのだが、そこの魔物2匹と子供を連れた容姿の整ったエルフの者ということで、多くの目撃者がいた」
『ワオン……』
『ピィ……』
そっか、セリシアさんだけじゃなくて、僕たちも目立ち過ぎていたみたいだ……。セリシアさんも特徴的な耳を隠してもらっていたけれど、やっぱりどこかからバレちゃうものだったのかあ。
「そして聞き込みを続けたところ、とある商店の店主に話を聞いたところ、こちらの村で滞在しているという情報を得ることができたのだ」
「「「………………」」」
商店の店主……。僕たちは街で金属の売っている商店なんかを回ってきたけれど、セリシアさんを紹介したお店はミアさんのところだけだった気がする。
たぶんセリシアさんや村長さんも同じことを思い出しているのかも。
「どうかその者を責めないでいただきたい。我らがどうしてもセリシア殿に直接会ってお礼を伝えたいとお願いしたのだ」
「私もお願いしました。命の恩人であるセリシア様のことを探るようなことをして本当に申し訳ございません」
「わ、わかりましたので、どうか頭をあげてください!」
また領主様とフィオナちゃんが頭を下げる。
……確かにすごく偉い人からこんなふうにお願いされたら、ミアさんも困って正直に話してしまうのかもしれない。
「感謝する。それでセリシア殿、先日の礼としてまずはこちらを受け取ってほしい」
領主様がそう言うと、護衛の人の1人がひとつの箱を持ってきた。
「あの、こちらは?」
「まずこれは先日のポーション代金である。あの効力から考えて、金貨500枚を用意したのだが、これでは足りないだろうか?」
「500枚!? いえ、そんな大金は受け取れません!」
「最高級のポーションや解毒ポーション以上の効果があったようだし、その価値は十分にあった。多い分には構わないのでぜひ受け取ってもらいたい。もちろんそれとは別に娘や護衛の者を救ってもらえた分の礼はするつもりなので安心してほしい」
「え、え~と……」
セリシアさんがさらに困っている。いつも凛としているセリシアさんがこんなに困惑している姿を見るのは初めてかもしれない。
万能温泉のお湯を使ったからお金はかかってないもんね。それなのにそんな大金を受け取るのはセリシアさんでなくともちょっと心苦しいかも。
「それと、もしもその解毒ポーションが残っているのであれば、対価を払うので譲ってはくれないだろうか?」
「す、すみませんが、あれはあの際に使った分が最後でもうないのです!」
「そうであるか……。それではあの解毒ポーションをどこで手に入れたのかだけ教えてもらえないだろうか? 実はあの時に受けた娘の毒はまだ完全に取り除かれたわけではない。こちらでも最善の治療を尽くしたのだが、まだ毒の後遺症が残っていてうまく歩けないのだ」
そういえばフィオナちゃんが歩く時は隣にいる護衛の人が支えていた。
万能温泉のお湯をかけると傷や毒や呪いを治すことができるけれど、完全に治すためにはしばらくの間温泉に浸からなければいけない。
「あ、あのポーションはえっと、その……」
いけない、セリシアさんがどうしたらいいかわからなくて限界みたいだ。
「領主様、割り入ってしまい誠に申し訳ございません。突然のことでセリシア殿が困惑してるようです。ほんの少しでよろしいので、お時間をいただけないでしょうか!」
突然村長さんが領主様の前に出た。
「むっ、これは大変失礼した。突然の訪問でただでさえ礼儀を欠いていたのに浅慮であった。今日はこちらの村の門の前で野営をさせてもらいたいのだが良いだろうか?」
「は、はい、もちろんでございます」
「感謝する。それにしても、報告で聞いていた話ではこの村にこんな門や大きな畑は……いや、今は関係のない話であったな。それでは失礼する」
「わ、私が案内いたっ、いたします!」
そう言いながらアリオさんと村長さんが領主様たちを門の外へ案内してくれた。
護衛の人たちが出ていって、しばらくすると村長さんが帰って来て、村長さんの家にいるのは僕たちだけだ。
「村長、本当に助かりました!」
「儂の方こそ、なかなか話に入れずすまなかったのう」
さっきの村長さんは本当に格好よかった。
僕はセリシアさんが困っているのを見てどうしたらいいのか全然わからなかったし、クロウやシロガネが喋るわけにもいかないから、村長さんが割って入ってくれなかったら、みんな困っていたところだった。




