第77話 突然の訪問者
村の入り口の方から見張りをしていた人が息を切らせながら走ってくる。
「どうしたのじゃ?」
「はあ、はあ……。大勢の武装した部隊がこの村に近付いてきている! は、早く来てくれ!」
「なんじゃと!」
「っ! 先に行きます!」
それを聞くや否や、セリシアさんがそちらの方へ向かって駆けていく。
『……もしかすると、先日の街での件のことかしらね?』
『うむ、そうかもしれぬな』
「おそらくそうでしょうな。でなければこの辺境の村にそのような部隊のやってくる理由がなさそうじゃ」
「そんな……」
もしかして、街で領主様たちが襲われていたのをセリシアさんが助けたのがバレちゃったから? でも、悪いことをしていないのにどうして……。
『まずは行ってみましょう。私は上から様子を見て来るわね』
『ああ。少なくとも我らは小さな姿のままの方がよいであろう』
急いでセリシアさんのあとをみんなで追った。
「我らはルーデンベルク子爵の者である。門を開けよ」
村の入り口にある門の階段を急いで登っていると、男の人の声が聞こえてきた。
「セリシアさん、大丈夫?」
「はい、いきなり村へ押し入ってくるわけではないようです。ですが、やはりヤークモの街での出来事が原因で、私を探しているようです……」
僕たちが門の上に行くと、そこからは20人近く剣や槍を持った人たちが見えて、一番奥にはすごく立派な馬車もいた。
「ふむ、これはどうしたものか……」
「本当に申し訳ございません、すべて私の責任です。私の命に代えても彼らをこの村には通しません!」
そう言いながらセリシアさんは背中に背負っていた弓を構えて、門の前に立とうとする。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ、セリシア殿!」
『落ち着くがいい。まだやつらと戦うと決まったわけではないであろう』
「し、失礼しました!」
村長さんとクロウがセリシアさんを止める。2人の言う通り、いきなり襲ってきたわけじゃないし、まだ戦いになるかは分からない。
「どうした、早く門を開けよ!」
先頭にいる全身銀色の鎧を身に着けた男の人が大きな声で叫んでくる。
「ルーデンベルク子爵の遣いのお方がこのような辺境の村に何のご用でしょうか?」
門の上から長老さんが前に出て遣いの人にそう伝える。すると一番奥にいた馬車の中から男の人と女の子が出てきて、門の前に歩いてきた。そして周りにいた人や全身に鎧を着た人もその2人に向かって片膝をついている。
女の子は僕と同じくらい小さくて、横にはひとりの護衛が付き添っているけれど、いったい誰なんだろう?
「突然の訪問で驚かせてしまい、誠に失礼した。私はルーデンベルク=ハルグと申す。先日街で暴徒に襲われた際に娘を助けてくれたエルフの弓使いがこのアゲク村にいると聞いて直接礼を伝えに参ったのだ。どうか門を開けていただけないだろうか?」
「りょ、領主様でしたか! 大変失礼しました!」
『……驚いた、まさか領主本人とその娘がわざわざこんな場所まで来るとはな』
『付近に伏兵はいないみたいね。どうやらあの武装した兵は戦いに来たわけじゃなくて、領主を護衛しているだけみたい』
「そうですか。本当にほっとしました……」
シロガネは空を飛んで辺りを見回ってきてくれた。
どうやらセリシアさんが助けた領主様とそのご令嬢がセリシアさんにお礼を伝えに直接アゲク村にまでやってきたみたいだ。武装した人がいっぱいいたのは領主様を護衛するためについてきただけらしい。
戦いになることがなさそうで僕もほっとした。
場所を移動して、アゲク村で一番大きな村長さんの家にやってきた。今ここには領主様、領主様の娘、護衛の人が3人いる。アゲク村の方は村長さんとセリシアさん、そしてアリオさんと村長さんの孫という設定の僕とクロウとシロガネが少し後ろに離れて一緒にいる。
セリシアさんと村長さんだけでなく、アリオさんと僕たちがいることについて護衛の人が何か言おうとしていたけれど、領主様が構わないと言ってくれた。
「セリシア殿、この度は娘を助けてくれて感謝する」
「フィオナと申します。セリシア様、本当にありがとうございました」
そして簡単な挨拶が終わったあと、領主様とその娘さんがセリシアさんに頭を下げた。
「どうか頭をお上げください。私は当然のことをしたまでです」
セリシアさんが困ったようにしている。この世界には身分があって、領主様はすごく偉いって聞いていたけれど、あんまりそんな気はしないかもしれない。
「いや、襲撃者たちが使っていた毒は我らでは命を繋ぐことすらできなかった強力なものであった。セリシア殿がいなければ、間違いなく娘は命を落としていただろう。一人の親として改めて礼を言わせてもらいたい」
「い、いえ。あのポーションは私が作ったものではございませんので、本当に気にしないでください!」
あの子の毒を治したのが万能温泉のお湯であることはセリシアさんには秘密にしてもらっているから、さらに困っているみたいだ。




