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第7話 呪いの解除


『さすがに呪われた鳥は食えぬ。それにこんな小さな鳥を食べたところで大した腹の足しにはならないだろうな』


 こんなに可愛らしい鳥さんを食べる前提で話すのは罪悪感があるけれど、ここはそういう世界だ。僕だって、昨日はクロウが狩ってくれたイノシシさんの命を頂いたわけだし、そんなことを思うこと自体がずるいのかもしれない。


 だけど――


「クロウ、呪いってなに? どうやったら解除できるの!」


『呪いとは継続的に体を蝕んでいく魔法の一種だ。廃れた魔法のため、今この魔法を使える者がいたとは驚きだ。あるいは面倒な魔物にでも手を出してしまったようだな。呪いを解除する方法は呪いをかけた者が死ぬか、高位の回復魔法の使い手にしかできないはずだ』


 高位の回復魔法。それならもしかして……


「クロウ、この子は食べられないんだよね! 万能温泉ならこの子を助けられるかもしれないよ!」


『……ソラならそう言うと思っていたぞ。もちろんソラの好きにするといい。その鳥が暴れるようであれば、我が何とかしよう。まあ、すでにそんな力もないと思うがな』


「うん、いくよ!」


 目の前の草原に万能温泉を出現させる。


 この温泉が呪いを解除できるのかはまだわからないから、クロウの時と同じようにまずは手で温泉をすくう。


「ピィ……」


 すでにこちらを警戒する体力もないみたいで、鳴き声もだいぶ弱々しい。


 両手ですくった温泉のお湯を鳥さんのお腹の黒い紋様にかけてあげる。


「ピュイ!?」


「あっ、待って! 大丈夫、君を傷付けたりしないよ!」


 お腹にお湯をかけてあげると、禍々しい気配をしていた黒い紋様の色が少し薄れた。それと同時に鳥さんも意識を取り戻したみたいで、僕から距離を取った。


「………………」


 鳥さんはこちらの様子をうかがっている。そりゃ突然人が現れて、真っ白な湯気の出ている温泉と大きなオオカミの姿をしたクロウがいたら、こちらを警戒して当然だ。


「えっと、鳥さんの呪いはこのお湯に浸かると解除できるかもしれないんだ! えっと、クロウ。僕の言葉を鳥さんに伝えることはできる?」


 なんとか鳥さんにそのことを分かってもらいたくてジェスチャーで伝えようとしたけれど、とても難しい。もしかしたら、聖獣のクロウならこの鳥さんと話すことができるかもしれない。


『いや、どうやらこの鳥はソラの言葉を理解しているようだぞ。それにこの魔力はもしかすると……』


「えっ、そうなの! それじゃあ、僕たちは離れるから、少しずつそこのお湯をお腹にかけてみて。大丈夫そうだったら、そのままお湯に浸かってみてね」


 向こうもこちらを警戒しているみたいだし、クロウと一緒に少しだけ距離を取る。


「………………」


 僕たちに敵意がないことをわかってくれたみたいで、鳥さんは少しずつ温泉の方へ近付いて、その羽を器用に使いながら自分のお腹に温泉のお湯をかけていく。


 本当に僕の言葉はこの鳥さんに伝わっているようだ。


「ピュイ!」


 どうやら万能温泉は呪いに効果があったようで、鳥さんが笑ってくれた。そして警戒をしつつも、ゆっくりと全身を湯船に沈めていく。


「よかった、ちゃんと効果があったみたいだね」


「ピュイ、ピュイ!」


 アヒルみたいに温泉に入りつつ身体の半分くらいを浮かばせているこの鳥さんはとても気持ちが良さそうだ。


 ……うん、鳥さんはこのまましばらくの間万能温泉に浸かっていた方が良さそうだし、僕も一緒に入っちゃおうかな!




『うむ、やはりソラの温泉とやらは心地が良いな』


「うん。今日も結構歩いてきたし、だいぶ疲れたからね」


「ピュ~イ!」


 そんなわけで、草原の真っただ中へ出した温泉にクロウと鳥さんと一緒に入った。


 もちろん魔物が出てくる可能性はあるけれど、その時はクロウが気付いてくれると言っていたから、僕は安心して温泉に浸かることができる。


 お外で裸になって温泉に入るのもだいぶ慣れてきた。むしろ外だからこその解放感もあって、すごく気持ちが良いかもしれない。……いや、変な意味じゃないよ。


「ピュイ!」


「よかった、もう呪いは解けたみたいだね」


 鳥さんのお腹を見ると、黒い紋様がすっかりと消えていた。やっぱりこの温泉は怪我を癒すだけじゃなくて、呪いを解除する力もあるみたいだ。


 僕も子供の頃から病気でしょっちゅう胸が締め付けられるような痛みを味わってきたから本当に良かった。痛いのや辛いのなんてない方が良いに決まっている。


「ピュ~イ!」


「うん、元気になって良かったよ!」


 鳥さんが僕の方に抱き着いてくる。呪いが解けて、僕を信頼してくれたみたいだ。


「それにしても君は本当に可愛いね」


「ピィ!」


 今は温泉に入っているから、先ほどまでのもふもふとしたお腹は少しぺったんこになっているけれど、その銀色の羽毛はとても綺麗だ。それに顔は凛々しくもあってとても可愛らしくもある。


 元の世界では僕の健康上の問題もあって、動物を飼うことなんてできなかったけれど、小鳥さんやワンちゃんやネコちゃんを飼いたかったなあ。


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