第6話 呪い
『ソラ、森を出られたようだぞ』
「本当だ!」
簡単なお昼を食べて休憩を挟みつつ歩いていくと、ついに森の切れ目が見えた。
そこには地平線が見えるくらいの巨大な草原が広がっていた。そして草原の左奥の方には高い山々が連なっている。こんな広大な自然を見たのは日本にいたころも含めて初めてだ。
この世界は本当に自然が豊かな世界らしい。
『そちらに道があるようだ。おそらくその道を進んで行くと村や街に続いているだろう』
「へえ~クロウは目がいいんだね」
僕には見えないけれど、この草原の先には道があったみたいだ。
「どんな人たちがいるんだろうな~」
クロウが見つけてくれた道を一緒に進む。
道といっても舗装された道なんかじゃなくて、他の場所よりも少し踏み固められたくらいの道だった。そこまで人通りがあるわけじゃないみたい。
『……ソラ、楽しみにしているところを申し訳ないが、人里があったとしてもそこにいる者が善良であるとは限らない。十分に注意するのだぞ』
「うん、わかった!」
道を歩きながら、クロウと今後のことを話した。
まずクロウが聖獣であるということは秘密にする。動物とは異なって、この世界にある魔力というものを持っているらしい。魔力を使って、クロウがしていたように火を吐いたり、風を発生させたりすることができる魔物も存在するようだ。
そしてクロウのように永い時を生き、強大な魔力を得て、共通語を理解するほどの知性を持つ魔物は聖獣と呼ばれるようになるらしい。国や場所によっては崇められる対象となる聖獣だけれど、聖獣を狙う者も多くいるらしい。
大きなトラブルを起こさないためにもクロウが聖獣であることは内緒にする。村や街に入る時には初めて出会った時のように小さくなって、人前では僕と話さないようにするつもりだ。
「あとは僕のスキルのことは様子を見てからにする。話す時もまずは普通の温泉を出せるだけにした方がいいんだよね?」
『うむ。最終的にはソラの判断に任せるが、可能な限り信頼できる相手にしか話さない方が良いであろう』
僕が迷い人であること、万能温泉というスキルを持っていることは最初秘密にしておく。
クロウが言うには、この世界には悪い人たちもいっぱいいて、迷い人を狙う人も存在するらしい。迷い人は特別なスキルを有している他に、この世界とは異なる知識を持っているからだそうだ。
本当に酷い場合にはどこかに監禁されて、特別なスキルや知識なんかを搾取されるだけになってしまうらしい。僕のスキルである万能温泉はすごく便利だし、狙われる可能性がとても高いみたいだ。それに比べると日本はとても平和だったなあ。
「僕は捨てられた子供って設定だよね」
『ああ。ソラの身の安全のためにもそうしてほしい。これはソラの意思ではなく、我の願いであるから、ソラが嘘を吐くことを気にする必要はまったくないぞ』
「うん、大丈夫だよ。クロウはとっても優しいね」
迷い人であることがバレないように、僕は捨てられてひとりで旅をしていたことにする。そこで魔物であるクロウと出会って、助けてもらいながら森から出ることができた設定だ。
大好きだったお父さんとお母さんに捨てられたという嘘はちょっとだけ嫌だけれど、そうでもしないと僕みたいな子供がクロウの狩ってくれた魔物の素材を持っているのはおかしいもんね。でも僕がお父さんとお母さんが大好きなことは自分自身が一番分かっているからそれでいいや。
嘘を吐くのは相手にも少し申し訳ないけれど、それで僕たちが少しでも安全になるのなら構わない。それを気遣ってくれて優しいクロウはわざわざそう言ってたんだろうなあ。
僕もできる限りクロウに迷惑を掛けないようにしよう!
『むっ! ソラ、少し待て!』
「えっ、どうしたの!?」
道を歩いていると、クロウが何かを発見したみたいだ。
『そちらの方角に空から何かが落ちてきた。鳥のように見えたが……少し気になるから見て来てもよいか?』
「うん、もちろんだよ」
僕は全然気づかなかったけれど、鳥さんが空から落ちてきたらしい。
周囲を警戒しながら、クロウを先頭にしてそっちの方角へ進む。
「ピィィ……」
『ほう、これは珍しい。この鳥は強力な呪いを受けているぞ』
「呪い!?」
僕たちの目の前に現れたのは綺麗な銀色の羽毛を持つ50センチメートルくらいの小さな鳥さんだった。ちょっとお腹辺りがぽっちゃりしているしているけれど丸々としていてとっても可愛い。
だけどその可愛い鳥さんはとっても苦しんでいる。その大きなお腹には黒くて禍々しい気配のする紋様が浮かび上がっていた。