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スキル【万能温泉】で、もふもふ聖獣達と始める異世界辺境村おこし。  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第43話 焼き立てのパン

「グラルドさん、これってなあに?」


「こいつは麦を脱穀するための道具だな」


 翌日になって、昨日刈り取って乾燥させていた麦を束ねたものがたくさん積まれた前に3つの大きな道具が置かれている。


 上の方には細い金属の棒が何本も刺さっていた。


「だっこく?」


「脱穀ってのは麦の穂から実を落とすことだな。そこから実だけを選別してその実を挽くと小麦粉になるわけだ」


「へええ~」


 僕が見たことのある白くて小さな粉の小麦粉ができるまで、やらなきゃいけないことがあっていろいろと大変みたいだ。


「こうやって乾燥させた麦の束の穂の部分を削ぎ落すようにするんだ。そのあとは目の粗いふるいから目の細かいふるいをかけてやると実だけが残るってわけだ」


「なるほどな。よく考えられているぜ」


「さすがグラルドさんだ」


 グラルドさんが麦の束をひとつ持ってギザギザの部分に通してから引っ張ると、バラバラと小さな実がその下に落ちていった。下にはシートが敷いてあるから、あとでここに落ちた麦の実をまとめるのだろう。


 そしてその隣に用意してある3つの大きなふるいを順番に通して実だけを取り出すのかな。


 そのやり方を見て、周りに集まっている村のみんなも感心している。


『……ふむ、人が作るパンを食べたことはあるが、その元を作るのはえらく手間がかかるのだな』


『本当に面倒ね。こういったことができるから人族はすごいわよ』


 クロウとシロガネも麦から小麦粉を取り出す手順までは知らなかったみたいだ。どちらにしても、2人の元の姿だと麦は小さすぎてこういう作業をするのは無理かもしれない。


「褒めてもらったところをなんだが、これらの道具はセリシア殿に教えてもらったんだ。元々は二本の棒に挟んで穂先の実を落とす道具を考えていたんだが、こっちの方が遥かに効率が良さそうだったからな」


「セリシア殿、便利な道具を教えていただき感謝します」


「セリシアさん、ありがとう!」


「ありがとうございます!」


「とんでもないです! 私の方こそこの村に住まわせていただき、とても感謝しております!」


 村のみんながセリシアさんに向かってお礼を伝えると、セリシアさんは少し顔を赤くして照れていた。あんなにすごい魔法が使えるうえに知識までいっぱいあるんだからすごいなあ。


 それに昨日セリシアさんから聞いた話だと、これよりももっと便利な道具なんかもあるらしい。今回はさすがに時間がなかったから作れなかったけれど、少しずつ便利な道具を揃えていくみたいだ。


「さて、作業はこれだけでなく昨日収穫した後の畑を耕すことや他の作物の収穫作業も残っておる。皆で手分けをして頑張るとしよう」


「「「おう!」」」


 村長さんの号令でみんなが声を上げる。昨日は村の人全員で麦の収穫と束にまとめる作業をしたけれど、脱穀をする道具は限られているし、収穫した後の麦畑もそのままだ。


 他にもやることはいっぱいあるし、僕も僕にできることを頑張ろう!




「うわあ~とっても良い香りだね!」


「お母さん、お腹空いた~」


「もう少しだけ待っていてね、ローナ」


 僕たちの目の前にある小さな窯からはとっても香ばしい香りが周囲に漂ってくる。


 夕方になって、脱穀と製粉という麦の実を挽く作業が終わってまだほんの少しだけれど小麦粉ができた。その小麦粉に水を加えてこねてパンの生地を作る。この作業は僕とローナちゃんにもさせてもらえた。


 そしてこの生地に森で採れたルナベリーという紫色の木の実を潰したものを加えてしばらく置いておくとパン生地が膨らんできた。ルナベリーを加えるとパンを焼いた時にふっくらと膨らむらしい。


「……よし、こんなもんでどうだ?」


「「「おおお~!」」」


 アリオさんが窯から焼き上げたパンを取り出すと、こんがりと焼けて丸々と膨らんだおいしそうなパンが現れた。


 そしてその丸いパンを半分に割ると、中からは蒸気と一緒にふわふわの中身が顔を出す。


「うまく焼けているみたいだな。早速食べてみようぜ!」


 これまで村で使っていたこの窯は少し小さいこともあって、1回で村にいる全員分のパンを焼くことはできなかったから、まずはひとつのパンを半分に割ってみんなで食べることになった。


 この世界で初めて見た焼き立てのパンの香りを前にして我慢することはできず、僕は半分に割ったパンへかぶりついた。


「うん、すっごくおいしいよ!」


「うわあ~とってもおいしい!」


「ああ、これはうまいな!」


 何とも言えないほど香ばしくて、小麦の豊かな香りが鼻をくすぐりって食欲をそそる。


 一口目をかじると、外側のカリッとした薄い皮が小気味良い音を立てて、そのすぐ下からふんわりとした柔らかな生地が現れた。


 噛むたびに生地からは小麦の優しい甘さがじんわりと広がり、ルナベリーの酸味も一緒になって、焼きたてならではのパンのおいしさがこれでもかと口の中で主張してきた。


『ほう、こいつはいけるな。小さな穀物の粉がこのような味になるとは驚きだ』


『本当においしいわね。これは毎日でも食べたい味だわ』


 クロウとシロガネも仲良く半分こしたパンをおいしそうに食べている。


 お肉や野菜もおいしいけれど、この焼き立てのパンも本当においしい。


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