第33話 帰還
「ふあ~あ」
『おはよう、ソラ』
「おはよう、クロウ」
朝目が覚めると、いつものように隣には柔らかくてもふもふした毛並みのクロウがいる。
「……あれっ、シロガネは?」
だけどその反対側にいつもいるはずのシロガネがそこにはいなかった。
『ああ、エルフの者がそこで鍛錬をしているのを横で見ているようだぞ』
そうだ、昨日はエルフという種族のセリシアさんと出会ったんだ。
結局エルフの里の話や旅をしていたというセリシアさんのお話をみんなで聞いていたところで、僕が眠くなってしまったんだ。そのあと行きと同じようにアリオさんと村長さんはテントの中で寝て、その近くで僕はクロウとシロガネと一緒に寝た。
セリシアさんだけは少し離れて眠ってもらったんだ。ひとりで旅をしていたということもあって、野営の道具は一通り持っているみたいだけれど、少し申し訳なかったなあ。
アリオさんと村長さんもすでに起きていて、ちょうど朝ご飯ができたところだった。僕とクロウは少し離れたところにいるセリシアさんとシロガネを呼びにいく。
そこにはだいぶ離れた1本の木に向かって弓を構えて集中しているセリシアさんと、それを横で見守っているシロガネがいた。
ヒュンッ
「うわあ~すっごいね!」
セリシアさんの放った矢は僕にはまったく見えないくらい速く、遠くにある細い木の真ん中に命中した。とても綺麗な姿勢で弓を放つセリシアさんはすごく格好良かった。
『おはよう、クロウ、ソラ』
「クロウ師匠、おはようございます。ソラくんもおはよう」
『ああ、おはよう』
「おはよう、セリシアさん。あんなに離れている木に矢を当てるなんてすごいね!」
「ありがとう。弓は長年鍛えていますからね。集中力が身に付くし、いい鍛錬になりますよ」
「そうなんだ!」
剣を振るっていたアリオさんも格好良かったけれど、弓を引くセリシアさんもすごく格好良かった。弓も使えるし魔法も使えるなんて本当にすごい。
いいなあ、僕も剣とか弓とかを習ってみたいかもしれない。
「朝ご飯ができたから、みんなで食べようだって」
「わざわざ呼びに来てくれたのですね。どうもありがとう」
みんなで村長さんとアリオさんがいる方へ戻って、みんなで朝食を食べた。
食事はセリシアさんの分もアリオさんたちが作っているかわりにその分のお金を払っている。お互いのためにもそれがいいみたいだ。
朝ご飯を食べたあとは早速アゲク村へ向かって出発をした。
『ようやく村が見えてきたわね。予定よりも少し時間がかかってしまったわ。やっぱり昨日の夜にソラの温泉へ入れなかったからかもね』
「お疲れさま、シロガネ。今日はゆっくり休んでね!」
お昼の休憩と何度か休憩を取りつつ、シロガネの背に乗って空を飛んでようやくアゲク村が見えてきた。
セリシアさんがだいぶ疲れていたのを気遣っていたのと、昨日温泉に入ることができずに疲れが完全に取れなかったこともあって、本当に日が暮れるギリギリになってしまったみたいだ。
「おおっ、みんなが帰ってきたぞ!」
「おかえりなさい!」
「おかえり~!」
村へ到着すると、村の中にいたみんなが温かく出迎えてくれた。
たった2日ぶりになるけれど、ようやく帰ってきた気がするなあ。
『それではしばらく外で待っていてもらおう』
「はあ……はあ……。はい、どちらにせよしばらくの間は動けそうにないです……」
休憩を挟んだとはいえ、一日中走ってきたセリシアさんは疲れ切って地面に寝転がっている。村のみんなにいろいろな事情を説明するのと、少しの期間は僕の万能温泉の力についてをセリシアさんには秘密にするため、僕たちは先に村の中に入った。
「村長、あの方は……?」
「うむ、詳しいことを説明するから、村の者を全員集めてくれ」
「……というわけで、エルフのセリシア殿には悪いがしばらく村の外で暮らしてもらい、大丈夫そうなら村の中で生活をしてもらうつもりじゃ。それまではソラ殿が温泉を出すことができることは秘密にしておいてくれ」
「な、なるほど……おふたりの速さについていけるほどの実力者なのですね。それはとても心強い!」
「さすがクロウ様とシロガネ様です。わかりました、ソラくんのことは秘密にしておきます!」
村のみんなに事情を話すと、みんなは納得してくれた。やっぱりみんな村に新しい人が増えることは大歓迎らしい。
そしてみんなで相談した結果、万能温泉を僕が出し入れできることは秘密になった。セリシアさんが村の中にいる間は前まで固定していた場所から動かさないようにして、あの温泉は最近になって村に湧き出した不思議な温泉という設定にしている。
これまでのセリシアさんの様子を見ると、あの万能温泉を僕が出せることを知ったところで悪いことはしないと思うけれど、もう少し様子を見るみたいだ。
「さて、街でいろいろと購入してきたのだが、それは明日にするとしよう」
「ああ、まずはソラの温泉で疲れを癒そうぜ! さすがにもうくたくただ……」
「ええ。みんなが街へ行っているたった2日間温泉に入れなかっただけでだいぶ辛くなってしまったわ!」
「本当だよ。毎日あの温泉に入れるのは本当に最高だったと再確認したな」
僕たちが街へ行っている間村のみんなは温泉に入れなかった。すごく疲れているという理由もあるけれど、僕もたった1日だけ温泉に入らなかっただけで、すごく温泉に入りたくなっちゃった。
まずは温泉に入ろう!




