第21話 争いの火種
『うむ。ソラの万能温泉というスキルの力は争いのもとになる可能性が高い』
「……どういうこと?」
万能温泉は人の怪我を癒すことができて、作物を育てることができるし、人の助けにしかならないと思うんだけれど違うのかな?
『人を癒し、呪いを解き、作物を育てるという非常に強力な力は国同士の戦争に使われる可能性があるというわけだ。大きな怪我も一瞬で治し、食料をいくらでも補給できるとなると、ソラがいるだけで小さな拠点が大きな戦力へと変わることになる』
「な、なるほど」
元の世界の日本だとあんまりそういった感覚はないけれど、この世界では戦争が身近にあるのかあ……
こっちの世界だと、戦車や銃みたいな兵器を使っての戦争じゃないから、すぐに怪我を回復したり、ご飯の心配がいらなくなるのはすごいことなのかもしれない。そう考えると、クロウの言うことは大袈裟じゃないのかな?
『もしも人が多い街でソラの能力がバレてしまったら、ソラの能力を悪用しようとするやからがソラを狙ってくると思うの』
「………………」
確かに2人やアリオさんみたいに目の前で大きな怪我をした人がいたら、僕は万能温泉を出して、その怪我を治すと思う。だけどシロガネの言う通り、それを悪用しようとする悪い人がいっぱいいるのかもしれない。
『この村にいれば、村の者が街へ行かない限りソラの秘密は守られる。安全の面から言えば、この辺境の村の方がソラの秘密を守りやすい』
『今は不便なことも多いけれど、ソラがいればそれもどうにでもなるわね。村の外から来る者はほとんどいないみたいだし、もしも村の外の者が来たら、温泉を隠すか、自然に温泉が湧いて出たといって誤魔化せばいいだけだものね』
僕には少し難しいけれど、大勢の人がいる街で秘密を隠すよりも、この村で生活をしていた方が安全らしい。2人は本当にすごいなあ。
「うん、僕もこの村のみんながとっても好きだから、ここで暮らしたい!」
村長さん、アリオさん、エマさん、ローナちゃん。この村にいる人たちはみんな良い人ばかりだ。
『うむ、それはよかった。とはいえ、このままの村では防衛の面で不安が残る。もしもソラがここで暮らすというのであれば、もっと防衛面を強化して、暮らしやすい環境にしなければな』
『ええ、少なくともあの木の柵はもっと立派な壁にしないと駄目ね。クロウとソラのおかげで食料には余裕ができることだし、その分の費用でまずはあれを何とかしてもらいましょう』
『そうであるな。とはいえ、この村にはない必要な物資もあることだし、一度街へ行ってみた方がよいだろう。最終的にはソラがその時に決めるといい』
『そうね、それが良いと思うわ』
「わかった」
クロウとシロガネはいつも僕のことを真剣に考えてくれている。僕ひとりだけだったら、悪い人たちに騙されて利用されていただけかもしれない。2人と出会えたことに感謝しよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日、村長さんの家で村長さんやアリオさんたちにクロウとシロガネと話したことを伝えた。
「皆様がこの村に住んでくれるのですか!?」
「おおっ、そいつは嬉しいな!」
『まだ確定ではないがな。先ほど伝えたソラや我々のことを他の者には話さないという条件もある』
「もちろん恩人である皆様のことは決して話しません! 村の者もソラ殿にとても感謝しておりますので、話すことはないでしょう」
『村の人が街へ行ったり、他の場所からこの村へ人が来ることはほとんどないのよね?』
「はい。基本的に我々が街へ行くのは数か月に一度で、その際は多くても5人ほどとなります。この村はなにぶん辺境にあるので行商人もほとんど来ず、稀にソラ殿のように森で迷った者が来るくらいです。街からは税金の徴収の確認で年に数度ほど役人が来るくらいかと」
『ふむ、それならばソラの秘密が漏れる機会自体ほとんどないだろう。村の防衛については我らも協力をしよう』
『そうね。少なくともあの木の柵だと人や魔物が攻めてきた時に厳しいわ。木材は私が森から調達してくるわよ』
「ありがとうございます!」
どうやら村の周りを囲っている木の柵から改良をしていくみたいだ。
『これくらいの大きさで良さそうね』
「す、すごい! 俺たちだけではこれほど大きな木を森から村まで運ぶだけでかなりの労力なのに……」
「シロガネちゃん、すっご~い!」
『ふふっ、危ないから離れていないと駄目よ』
大きくなったシロガネが空を飛んで長くて立派な木を掴んで村まで持ってきてくれた。近くの森へ行って、魔法を使って木を根元から倒してくれたみたいだ。
「シロガネ、気を付けてね」
『ええ、大丈夫よ。クロウ、ソラを頼んだわよ』
『うむ。こちらは任せるがいい』
例の魔物がいない北側の森へ木を取りにいってくれているけれど、用心はしたほうがいいもんね。
昨日クロウがたくさん魔物を狩ってきてくれたこともあって、シロガネが村の外へ出ている間はクロウが村に残ってくれている。僕も自分にできることをしよう。




