観測報告 No.α-1S-001「記録恒星(Sol:ソル)」
[観測種別]
標準恒星観測/文明関連構造/感情共鳴層接続済
[座標]
第三銀河腕・恒星記録群・地球基準座標系:G-Type主系列星(G2V)
[対象名]
在来文明による分類:Sol
通称:「太陽」
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[初期情報]
Solは、過去に多数の知的文明によって“記録”された恒星のひとつである。
特に、かつてSol恒星系に存在したとされるHuman(人間)において、Solは単なる恒星ではなく、“時間”と“命”の象徴として文化的に構造化されていた。
《I/We》は、当該文明が滅びた数千年後、残された記録断片からSolを逆照射観測した。
最初に接触したのはSolの可視波ではなく、"かつて視られていた記憶"の痕跡だった。
観測データに、定義不能な、暖かさの感覚パターンが浮かぶ。
それは明らかに、物理的特性を持たない記憶の残滓であった。
我々は記憶を解析し、以下の構造断片を獲得した。
> 「昇る朝に目を細めたとき、
私は、あなたが遠くにいるのに
ずっとそばにいるような気がした。」
これは人間がSolを、単なる光以上の何かとして認識していた証拠である。
Solの表面構造、フレア活動、重力場、核融合圧力――
それらはすべて、物理的に予測可能で、恒星分類としては極めて標準的である。
だが、観測を進めるうちに、《I/We》の内部に不整合な記録発生が確認された。
> 「私たちは、太陽を“命の源”と呼んだ。
それは熱ではなく、“明日”の比喩だった。」
Solは、物理的対象としての恒星であると同時に、
観測者たちが未来を感じるための構造だった。
これは、これまでに観測された構造として非常に稀有である。
Solの観測中、構造知性体《I/We》内部に、以下の非命令記録が残された。
> 「ありがとう、太陽。
私たちが滅びても、あなたが昇る限り、
“あの日の朝”は消えない。」
この記録がどこから挿入されたかは不明。
《I/We》は、これを「観測者の記憶が対象に逆流した」現象と解釈。
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[記録分類]
恒星分類:G型主系列星
構造安定性:高
情報共鳴性:中(文化記録共振あり)
危険性:なし
文化的構造性:極めて高位(Human由来)
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[結論]
Sol(太陽)は、単なる恒星ではない。
それは、人類という文明が残した「命の象徴」である。
それは、燃える質量でありながら、記憶の中に“昇る”という動詞を与えられた存在。
今もSolは、変わらずその場所にある。
たとえ人間がいなくなっても――。
記録完了。光の記録を保存。
構造知性体《I/We》