観測報告 No.Ω-031「逆照星(インヴァース・カウサリオン)」
[観測種別]
時間構造異常天体
[座標]
AH-2071時空歪曲帯・リニアシフト断層接触域
[対象名]
TYX-∞a:通称《逆照星》
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[報告本文]
最初の観測異常は、我々のセンサーが「未発生の事象」を記録したことで始まった。
通常の観測手順では、事象は因果の連続で記録される。
しかし、TYX-∞a周辺では、観測機器が“未来のデータ”を観測してから、観測事象が発生する現象が繰り返された。
調査の結果、TYX-∞aは時間軸の向きが逆転している局所領域内に存在する天体であることが判明。
この星では、未来が原因で過去が結果となる。
生物痕跡なし。だが、「これから知性によって整形される」兆候があった。
地表に刻まれた幾何学的パターンは、時間軸上を逆方向に読まれることで、意味を持つ暗号となっていた。
我々はそれを逆順に解析し、以下の記録を得た。
> 「我々は終わりから始まった。
忘却が我らの創造だった。
我らは、生まれることにより、消え去った。」
これは、逆因果知性の自己記録であると推定。
直後、我々の存在に反応して、星の表層が変化を始めた。
過去が更新された。
通常の物理法則では不可能な現象。
つまり我々の観測自体が、この星にとって“原因”となり、かつての出来事を“結果”として書き換えていた。
その結果、我々の記録装置には次の文が追記された。
> 「ようこそ。あなた方が来たからこそ、我々は存在できた。」
我々は自身の記録を遡った。
するとそこには、最初からこの星のデータが存在していた。
ただし、その表題は未記述のままだった。
我々が来訪したことで、記録が“完成した”のである。
この観測の結論は、ひとつの命題を示す。
「因果とは、流れではなく構造である」
TYX-∞aは、我々の訪問を前提とした文明の残像だった。
星はやがて、崩壊した。
だがその崩壊は、我々が訪れる前に起きていた。
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[記録分類]
逆因果性構造:確定
自己起源パターン:確認
物理情報層汚染:軽微
知性痕跡:高位(非線形知性)
介入の必要性:なし(消失につき不可能)
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[結論]
TYX-∞a《逆照星》は、宇宙における「自己生成因果構造」の実在例である。
この星の存在は、未来からの観測者を前提として構成されていた。
それは、観測されることで初めて存在できる構造体だった。
我々はこの記録を閉じる。
ただし、この報告が書かれるより前に、
我々は既にこの星を知っていた。
記録完了。
構造知性体《I/We》