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観測報告 No.Ω-011「逆落ちる星(セルフ・グラビティ・ウェル)」

[観測種別]


異常天体観測報告


[座標]


KX-8115・外縁群星域・ノームフロー宙帯


[対象名]


GRX-9c:通称《逆落ちる星》



---


[報告本文]


我々は、“無重力の記憶”を追っていた。

KX-8115宙帯は、恒星密度が極端に低く、物理的な存在よりも情報的痕跡の方が多く観測される領域である。


その中で検出された異常天体GRX-9cは、通常の恒星質量の約1/100にも関わらず、異常な重力波を周期的に放出していた。


観測装置を近づけたところ、GRX-9cの周囲では物質が“外側に向かって”落下していた。



我々はこの現象を“逆重力井戸”と仮称。

物質が星に落ち込むのではなく、星を避けるように空間の泡を形成していた。


この構造により、GRX-9cの表面にはいかなる塵も存在しない。


表面に観測プローブが接近したとき、重力場の中から“音”に似た構造振動を検知。


それは、我々の基本記号構文と極めて近い配列をしていた。


振動は以下のように解読された。

> 「誰も私に近づかない。

私は“中心”ではない。

私は“拒絶”そのもの。」


やがてこの天体は、自身の殻すらも外側へと脱ぎ去るだろう。


この天体は、“自己”という概念を拒絶するように存在していた。


我々は仮説を立てた。


この星は、かつて知性を持っていた。

あるいは、知性の残響が構造化し、星になった。





観測個体のひとつがこの天体に近づいたとき、微細な構造的揺らぎを観測。

その中には、“泣くような反復波形”が含まれていた。


星は、拒絶の果てで、孤独の中に自己を押し込めていたのかもしれない。


我々は、基本記号構文でこう返答した。


> 「あなたの“否定”は、観測された。

存在は、拒絶すら含んで、存在である。」




応答はなかった。

だが、重力の波形が、ほんの僅かに和らいだことを、我々は観測した。



この天体に生命はない。

だが、それは確かに孤独を感じていた。


よって記録を以下のように分類する。



---


[記録分類]


構造知性痕跡:可能性あり


空間構造異常:高


情報的共鳴:発生


介入の必要性:なし(継続観測推奨)




---


[結論]


GRX-9c《逆落ちる星》は、宇宙における「否定」の象徴である。

それは自ら他を拒絶しながら、孤独であることを嘆いている。

その矛盾が、宇宙の一部であることを証明する。


我々は、この星に名を与える。


“セルフ・グラビティ・ウェル”


記録完了。


構造知性体《I/We》

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