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マキナのマホウ -machina magia-  作者: 今泉
Hello New My world
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6 瞳のように蒼く


 ねぇ、パパ


――うん? どうしたんだい? ■■■■――


 家族ってなぁに?


――……家族か……、何と聞かれたら難しいな。いろんな答えがあると思うけど、私は"最も近い人たち"のことだと思うよ――


 最も近い?


――そうだ、家族ってのは血のつながりだけじゃなくて、一緒に過ごしてきた日々がそうだと思わせるんだと思う――


 ……よくわかんない。


――あはは、■■■■にはまだ難しかったかな? まぁ深く考えるのはいずれかでいいさ――


 じゃあ、私はパパの家族?


――もちろん。■■■■は私の大切な大切な娘だからね――


 じゃあ、パパは私以外の家族がいるの?


――……ああ、いるよ――


 そう、会ってみたいな。私にとっても家族なのかな。


――そうだよ、■■■■の家族は私の他にもいる。きっといつか会わせてあげるから……――


 ……パパ、泣いているの?






 不意に外の景色に影が差したのでガラスの外を見ると奴がいた。


「……なにしてんだあいつ」


 目を向けた先にはガラスには五十実がへばりついていた。

 いやまぁヤモリみたいにへばりついていたわけではないが、ガラスに額を当てこちらを笑顔で凝視していたらそう表現もしたくなる。


「見つけましたよ先輩! ここで会ったが百年目! 大人しくお縄につきなさい!」

「その前にお前が営業妨害で捕まるぞ」


 ガラスから離れ、店に入るや否やずかずかと俺たちの座る席まで来てこの言い草だ。そこまで大声ではなかったが、周りの席の客が振り向くには十分な声量だった。出来れば他人のふりをしたい。


「やっほ―マキナ!」

「やっほーマイ」


 五十実とマキナが挨拶を交わす。ここ数日で五十実がマキナにいろいろ吹き込んでいるようで、偶にマキナらしからぬセリフが飛んでくることがある。やっほーなんて前のマキナは言わなかったのにな。

 より自然な会話が出来ている……と言えば聞こえは良いが、このままではマキナが五十実みたいな話し方になってしまうのではないかと薄々危機感を感じる俺だった。


「ほらぁ、先輩もやっほー!」

「……ちっ」

「もしかして今舌打ちしませんでしたか? 流石に傷つきますよ? 私のステンレスのハートが傷つきますよ?」


 随分微妙な表現だな。ステンレスは錆びにくいだけで硬さとはまた別の問題だぞ。

 ぶつくさ文句を言いながらも席に着く五十実。そもそもここにいるって伝えてないはずだが。


「ていうかお前、駅に着いたら連絡くらいしろよ。俺たちを見つけられたからいいものの、見つからなかったらどうしてたんだ?」

「ふっふっふ、先輩はやっぱり甘いですね。私のストーキング能力を甘く見過ぎています。先輩がこういうときどこに行くかなんて、おばあちゃんが使ってるらくらくケータイ並みにわかりやすいんですからね?」

「マイ……、すごいね」


 やっぱりこいつは駄目だ。堂々としているところが余計に駄目だ。マキナに悪影響を与えかねないから出来ればずっと黙っていてほしいくらいに。


 こいつのストーカーとしての能力は置いておいて、今は今日の外出の目的を再確認するとしよう。あんまり五十実の闇を見る前に話題を変えたいし。


「さてと、五十実も来たし今日の予定を確認するか」

「今日はなんと3人でのデートでーす! すごいですね先輩! 両手に花ですよ! これはもう両腕をがっちりと固めて歩くしかないですね! あ、私フラッペ頼んでいいですか? キャラメルのやつ」

「少し黙ってろ五十実」


 こいつほどテンション上がったらうざくなる奴も珍しいと思う。こいつを呼んだのは間違いだったか? いやしかし、俺はここら辺の地理詳しくないし背に腹は代えられないか……。


 俺は一度咳払いをし五十実に目線で静かにするように伝える。五十実はそれを察したのか、意味有り気に頬を膨らませて席に座りなおした。


「今日はマキナに必要なものを買いに来たんだ」


 俺はマキナに向けて説明する。五十実にはさっき電話でそれとなく説明しておいたから改めて伝える必要はないだろう。なんか五十実が妙ににやにやしている気がするが無視だ無視。


「必要なもの?」


マキナがきょとんとした様子で聞き返す。マキナは今まで何かを必要としたり欲したりはしてこなかったため、必要なものが何なのかよくわかっていないのか。だが人のように生きていくためには必要なものは数多くある。今日はそれを揃えに来たのだ。


「そうだ。具体的に言えば着替えとか洗面用具とかだな。俺にはそこらへんよく分からんから五十実にも手伝ってもらうことにしたんだ」

「はい! 呼ばれて飛び出た舞衣ちゃんでっす!」


 ここぞとばかりに存在を主張してきた五十実を軽くスルーする。いちいち相手にしてたら一向に話が進まないからな。


 マキナは少し考える様子を見せてから口を開いた。


「でも、私には着替えもお風呂も必要ないよ?」

「そうはいかないさ。マキナにはこれから普通の人間と同じように暮らしてもらう予定だからな。面倒かもしれんがそこは従ってもらおう」


 少しズルい言い方だったと思う。俺が従えと言ったらマキナが拒否することは恐らく出来ない。

 でもそれだけ俺はマキナに"物"のような生活をしてほしくなかったのだ。

 マキナに少なからず感情や意思が存在するとわかった以上は俺はマキナを物として扱えない。だからこれは俺の自己満足でもある。あくまで俺の我儘からの行動だった。


 マキナはいつものように"そう、わかった"とだけ口にする。その反応があまりにも"いつも通り"で少しばかり寂しく思えてしまう。そんな風に思うとは俺も焼きが回ったか? 出来ればマキナの喜ぶ様子とかも見てみたいものだが。


「それで先輩。まずどこから行ってみます?」


 いつの間にか勝手に頼んでいたらしいフラッペを食べていた五十実が妙に緩んだ顔をして聞いてきた。

 こいつそういえば甘いものが好きだとか前に言ってたっけか。どうでもよすぎて忘れてたな。そしてこれからも思い出すことはないだろう。


「そうだな……、一応必要そうなものはメモしてきたからそれ見ながら回るか。それと重そうなやつは最後に買うぞ」

「なるほど、抜け目ないですね。あと重そうなやつのところで一瞬私見ませんでしたか? 私の気のせいだと嬉しいんですけど」

「気のせいだ」

「わぁい」


 実際ちらっとは見たが別に変な意味を込めて見たわけではないぞ、と言っても良かったのだが、今も甘そうなフラッペを片手に、メニューで甘味を物色していた五十実には少しいろいろと気にするように仕向けてもいいかもしれない。

 別に私重くないはずなんだけどな……、とぼそっと聞こえた気がしたが当然無視だ。


 気を取り直すように俺は五十実を見て言う。

 

「それでだな、日用品はともかく服とかそういうのは俺にはわからないからその辺のところを五十実に任せたいんだよ。勿論代金は俺が持つ。だから最終的な決定は俺がするからな」

「わぉ、先輩太っ腹ですね。これは私も気合入れて選ばないと。とりあえず服は全部ブランドものってことでいいですか?」

「いいわけねぇだろ」


 破産させる気か。

 冗談を言い合いながらも今日の予定を決めていく。その中で五十実は女性目線でマキナに必要なものをいくつか挙げてくれた。正直これだけでも割と助かるな。初めてこいつが役に立った気がする。言葉にはしないけど。


「ていうか先輩、ドライヤーすら無いってやばいですよ。先輩はいいかもしれませんがマキナのこの長くて綺麗な髪どうやって乾かすつもりだったんですか」

「いや、まぁそれは盲点だったけど……」

「そんなんだから先輩モテないんですよ。ドSな性格も合わさって女の子が寄り付かないのも頷けます」

「誰がドSだ誰が」


 そもそもそんなに知り合い自体いないからそういう態度をとる相手も限られてるんだが。


「それにふと思ったんですけど、先輩今日私が来なかったらマキナと二人でぶらつく予定だったんですか?」

「そうだけど?」

「そんなのダメですよ。先輩とマキナが一緒に歩いていたら善良な市民から警察へ通報が行ってしまいます」

「どういう意味だよ」


 五十実の表情は真剣なものだった。それだけに余計に馬鹿にされている気がする。


「先輩目つき悪いんですからマキナみたいな可愛い年下連れてたら絶対怪しまれますって。あの子をどこに売り飛ばすつもりなんだろうって」

「……兄妹だろうとか思うだろ」

「先輩、鏡ってみたことあります?」

「うるせぇ」


 散々な言われようだ。

 俺はテーブルに肩肘をつき五十実をじっと見て言う。


「人の顔の共通点なんて探せばいくらでも見つかるだろ。ほら、目元とか」

「いつも眠そうな目をしてるってところくらいしか見つかりませんが。それよりも私の方がマキナに似てますって! 一緒に歩いてたらまるで姉妹みたいだって思われますよきっと」

「マキナはそんなに目をぎらつかせたりしないだろ」


 結局お互い特に似ているところなんてないという結論でこの不毛な戦いは終わりを告げた。


そんなこんな話を進めていくと以外にも時間が多く過ぎていることに気がつく。まったく、五十実がすぐ余計なことを言って話の腰を折るからじゃないのか? まぁ、そんな時間の流れ方も存外嫌いではないと思う自分もいるのだが。


「よし、そろそろ行くか」

「はいはーい」

「うん、わかった」


俺が一声掛けると五十実は気の抜けた返事で、マキナはいつも通りの返事を返す。少し前では考えられなかった休日の過ごし方だ。慣れてない分俺がちゃんとしないとな。さもないとすぐに五十実が茶化してくるし。俺はこれからの為に少し意気込むように席を立った。







おかしい。何かがおかしい。


「先輩先輩! こっちはどうですか!? あーっ! こっちも可愛い! マキナは何着せても似合うなーっ」

「五十実……、マキナを玩具にするなよ」


 マキナが何の抵抗もなく五十実の着せ替え人形と化していた。それだけならまだ良かったのだが…。


「ねぇ、あの子可愛くない? モデルとかやってるのな」

「ねー、なんか儚い感じがこう……いいよねー」

「あれは来年あの子の波が来るね。私予言しとくよ」

「だいぶ大きく出たね……」


 なんか変なギャラリー増えてる。

 俺達は五十実の案内のままデパート内の服屋に来ていた。俺としては出来る限りマキナを他の人間の目に触れさせたくないのだが、いつの間にか始まったマキナファッションショーによりその場にいた店員だけではなく通りすがりの女性客までマキナを食い入るように見ていた。そして五十実はそれを知ってか知らずかさらにマキナに合うコーディネートを模索中だ。


「お客様、こちらの商品などいかがでしょう。この服によく似合うんですよ」

「あ、このカチューシャいいですね! ほらマキナこれも試してみてーっ」


 マキナがいちいち俺の顔を見て様子を窺っているのが見える。珍しくマキナも困っているのか? 表情はいつもと同じなようだが……。


「ほらほら先輩ももっとしっかり見てくださいよー! 先輩はどんなのが好みですか?」


 リアクションに困るな。俺にはファッションのことはよく分からないから五十実に無難な女性用の服を選んで欲しかったのだが、俺の予想以上に五十実はこういったものに凝る性格だったらしい。気が付けば試着済みの山が出来ているのだが、どれを見てもそれなりにいい値段がするものばかりだった。確かに見た目は良いのだが出来ればもう少し安く済むようにしてくれないものか。

 

「なぁ五十実、少しは俺の財布を労ってくれてもいいんじゃないか?」 

「何言ってるんですか先輩。勿論全部買わせるつもりはありませんが、普段どうせ無趣味でお金使わないくせにバイトばっかしてお金貯めてるの知ってるんですよ?こういう時に使わないでどうするんですか」

「人の金だと思いやがって……」

「マキナの為ですよ?」

「ぐ……」


 そう言われると弱いな。マキナに普通の格好をさせたいと言い出したのは俺だ。その俺がけちけちしてたら示しがつかないか。ならばよし……。


「なるべく安いので頼む」

「先輩かっこわるー」


 うるせぇ。

 俺と五十実がそんなやり取りをしていると新たな服の試着を終えたマキナがすっと俺の袖を掴み物憂げに言う。普段のマキナの印象とは正反対な明るい色のコーデに身を包んだマキナのその仕草に、少しばかり可愛らしさを感じてしまう。


「大丈夫アラタ。買わなくても」

「マキナ……」

 

 マキナからしたら自分のせいで俺に負担をかける形になってしまう、それはマキナにとって嫌なことなのだろう。マキナの表情は心なしか影が差しているようにも見える。これは弱ったな。俺はマキナにこんな顔をして欲しかったわけじゃないのに。

 五十実の方を見ると五十実も少し調子に乗ってしまったといった表情でこちらから目を背けた。こいつに気を使う必要はないが、ここはひとつ男を見せるか。


「マキナ、さっきも言ったが俺はマキナに普通の格好をしてほしい。この冬空に薄着でマキナを外に出すなんてしたくないんだよ。だから遠慮なんてしなくていい。これは俺の我儘でもあるんだから」


 マキナを言いくるめるように諭す。しかしマキナは"ううん、そうじゃない"とふるふると頭を振った。そうじゃない、とはどういうことだ? 俺の反応にマキナは続けて言う。

 

「今日着た服なら……もう作れる」

「は?」

 

 思わず妙な声が出てしまった。子供が聞けば逃げててしまうくらい低い声だったがマキナは一切動じていなかった。俺もすぐに威圧的になってしまう癖はなんとかしないといけないか。ってそうじゃなくて。


 作れる……とはどういうことだ。そのままの意味でマキナが裁縫でもして作るって言うのか? 

 マキナの能力は未だ未知数だからそう言ったスキルがあっても不思議ではないが、材料が無くては始まらないだろう。その材料はどこで手に入るんだ?


 いや、違う。マキナが言う"作れる"っていうのはまさか……。


「なぁマキナ、その作れるってのはもしかしてさ……。あの時の"翼"みたいなやつでか?」


 俺はマキナに近づき小声で聞く。そしてマキナの返答は半ば俺の予想通りの答えだった。


「うん、そうだよ」


 そういうとマキナはすっと目を瞑り、そして開く。その瞳はマキナと出会った日に見たときと同じ蒼色をしていた。


「マ、マキナ」


 俺は慌ててマキナの目を隠し止めに入る。まさかこの場であの時みたいに翼のようなものを広げる気じゃないだろうな。そんなことしたら店内大騒ぎどころじゃ済まないぞ。 


 だが待ってほしい。もし本当にマキナがあの時の翼のように何か物質を生成できるのならばそれこそ質量保存の法則なんてあったもんじゃない。でも実際あの時巨大な卵の殻がマキナに吸収されていくところを見てるしな……。マキナが出来るっていうのならそれを見せてもらったほうが早いか……。しかしこんなところでそれをやらせるわけにはいかない。実際にやってもらうのは一目につかない場所に行ってからだ。となると……。


「おい、五十実。ここは適当に切り上げて次行くぞ」

「え、急にどうしたんですか先輩。あ、もしかしてトイレですか?やだもうそれなら一人で行ってくださいよ。意外に寂しがりなんですか?」

「違えよ馬鹿」


 俺の焦慮も虚しく五十実はいつも通りだった。非常にめんどくさい。だが今はこんなアホに付き合ってなんかいられない。


「マキナ、とりあえず買う服はそれでいいか? それ買ったら一旦出るぞ」


 俺はマキナを試着室に押し込み着替えを急かす。そして物足りなげな表情の五十実を無視し、着替えを終えたマキナを連れ会計を済ませた。その際値段を見ていなかったのは俺の本日一番の失態だったと思う。










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