エピローグ
俺が通う高校には、天才美少女三姉妹と呼ばれる存在がいる。
一人目は、長女の天王洲一夜。
長く美しい黒髪に、見るものすべてを吸い込んでしまいそうな深い闇色の瞳。胸はやや小ぶりだが、高身長かつ長い肢体はまさにファッションモデルの様。
幼少期からピアノの才能を開花させており、小学校に上がる前から数々のピアノコンクールで好成績を叩き出してきたとか。受験に悩む三年生ではあるが、卒業後の予定は海外でのコンサートですでに数年分埋まっているという噂も聞く。眉唾物だけど、彼女なら有り得てしまえそうだと思ってしまう、生粋の天才ピアニストだ。
二人目は、次女の天王洲二葉。
癖っ毛と眠たげな目つき、そして豊満な胸部が特徴の美少女。
世界級の天才プロゲーマーであり、授業中も休み時間も関係なく常にゲームに勤しんでいる。じゃあ学校の成績は悪いんじゃないかって思うそこのあなた。なんでか知らんが、彼女の成績は学年で堂々の一位である。天才ってすごいね。
そして三人目は、三女の天王洲彩三。
健康的な小麦色の肌と八重歯が特長の、太陽のように明るい少女。
一年生ながらに陸上部のエースとして期待されている天才陸上選手であり、中学時代には全中で全種目優勝を成し遂げたといいスーパーアスリート。メイクや服選びなんかも得意で、同級生から可愛いについて相談されることも多いとか。
それぞれが特定の分野で天才だと持て囃されていて、しかも家はかなりの大金持ちで、世間からも今後を期待されている……そんな注目されっぱなしの圧倒的な勝ち組。
俺みたいな平凡な庶民とは住む世界が違う存在だ――そう思っていたのに。
「理来、あーん」
「はいストップストップ!」
「どうして止めるの?」
「二姉ったら目を話すとすぐにセンパイとイチャイチャしようとするんだから!」
「将来の恋人同士なんだからイチャイチャするのは当然」
「勝手に決めないでもらえますかねえ!?」
「もう、あなたたち。食事の時ぐらい静かにしなさい」
夏休みの途中にあり、数日間の登校日。
まだまだ夏休み気分が抜けるはずのない中途半端な日のお昼時に、俺たちは屋上で昼食を取っていた。
もちろん、みんなで食べているのは俺が丹精込めて作ったお弁当。三姉妹それぞれに必要な栄養素を考え、異なるメニューを用意している。
「だって一姉! 二姉がまた抜け駆けしようとしてるんだもん!」
「抜け駆けじゃない。本妻だから当たり前」
「まだ何も決まってないよね!?」
顔を突き合わせて火花を散らす次女と三女に、長女は呆れの溜息を零す。
「あなたたちねぇ……天王洲家の人間として、食事中のマナーぐらい守りなさい」
「うっ……ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「分かればいいのよ」
妹たちをぴしゃりと叱った一夜さんは弁当箱の中から卵焼きを箸で掴むと、
「そ、それよりも、理来。あなた、卵焼き好きだったわよね?」
「え? はあ、まあ」
「そうよね! ほら、私が食べさせてあげるわ。これ、美味しいから……あ、あーん……」
箸で掴んだ卵焼きを俺の口元に差し出してくる一夜さん。どうでもいいけど、その卵焼きを作ったのは俺なので、俺が誰よりもその美味しさを自覚していたりする。
俺に卵焼きを食べさせようとする一夜さん――だったが、そんな彼女の頭をスパーンとどこからともなく取り出した巨大ハリセンで勢いよく叩く者がいた。
さっきからツッコんでばかりいる三女の彩三だ。
「いたぁっ!? ……いたぁ?」
「こぉらぁっ一姉ぇっ! あたしたちを叱っておいてどうして一姉が抜け駆けしようとするの!? あたしたちに偉そうに言えないじゃん!」
「い、いいでしょこれぐらい! 学校だと昼休みぐらいしか理来と一緒にいられないんだから!」
「それはあたしも同じなんですけど!?」
やいのやいのと言い争う長女と三女。
そんな争いの隙を突き、二葉がそそそ……っと静かに俺の隣に移動してきた。
「理来。私の春巻きをあげる。はい、あーん」
「あ、ありがとう。あーん……」
「どう? 美味しい」
「あ、ああ。美味しいよ」
「フフッ。よかった」
満足げに微笑む二葉。
だけど、そんな彼女を長女と三女が見逃すはずがなく。
「あーっ! また二姉が抜け駆けしてるーっ!」
「本当に油断も隙もないわねこの子は……!」
「二人とも、あんまり騒ぐと理来の迷惑になる」
「「元はといえば二葉(二姉)が抜け駆けするからでしょーがっっ!!!!」
ああ、本当に賑やかな昼食だなぁ。
「落ち着いてほしい。私にいい案がある」
「どうせあたしたちを出し抜こうとする案なんじゃないの?」
「一先ず聞きましょう。受け入れるかどうかは後で判断するわ」
「三人で一緒に理来にあーんすれば問題ない。みんなハッピー」
「なるほど。それはいい考えね」
「二姉って天才?」
「よく言われる」
なんだか嫌な予感がしてきたぞ。
三人には悪いけど、ここはこっそり教室に戻らせてもらって――
「理来!」
「あ、はい。なんでしょうか」
「センパイ、ちょっと動かないでくださいね」
「えっと、あんまり乱暴な真似はちょっと……」
「大丈夫。ご飯を食べさせるだけ」
めちゃくちゃ逃げたいんだけど、ここから逃げる方法が俺には全く思いつきません。
「理来」
「理来」
「センパイ」
「「「はい、あーん」」」
「え、えっと……俺、今超幸せ過ぎてお腹いっぱいなので大丈夫っす」
「そんな玉虫色の答えはいらないのよ!」
「誤魔化さないでくださいセンパイ! そういうところ、本当に治した方がいいですよ!?」
「理来は私のことだけを見ていて」
「あ、あはは、あはははは……」
三人の美少女に詰め寄られながら、俺は渇いた笑いを絞り出す。
そういえば、言い忘れていたことがある。
これから紡がれていくのは、俺が天才美少女三姉妹と結ばれていく物語。
魅力的でちょろ可愛い天才三姉妹と幸せな人生を作り上げていく――そんな賑やかで楽しい物語だ。




