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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第92話 大輪の華の下で


 主要通路から少しだけ逸れた草むらの中を進んでいくこと約十五分。

 俺はようやく目的地である小さな神社へと到着した。


「理来、重くなかった?」

「全然。軽すぎて背負ってることも途中で忘れてたよ」

「私のことを忘れてたってこと?」

「いやそういう意味じゃなくてね!?」

「フフッ。冗談。二葉ジョーク」

「ジョークの割に声のトーンがちょっとマジ寄りじゃなかったですかね……?」


 耳元でささやかれたから軽く命の危機すら覚えたんですけど。

 でもまあ、彼女が冗談だというのなら冗談なのだろう。こういう時は相手の言うことを素直に信じておくべきだってとある漫画に出てくる金髪の料理人が言っていた気がする。

 二葉がずり落ちないように軽くジャンプして位置を調整しつつ、神社の境内を軽く見渡す。


「分かっちゃいたけど、ここも結構人多いな」

「周りの木のせいで花火は見にくいけど、まったく見えない訳じゃないから」


 ベストスポットである広場は今頃大勢の人でごった返しているに違いない。もはや身動きすら取れないほどの人が集まっているんじゃないだろうか。そう考えると、人が多くはあるけど歩き回る余裕のあるここは違う意味でベストスポットなのかもしれない。たどり着くまでにかなり歩かされるけど。


「さて、それじゃあ一夜さんたちを探すか」

「その必要はなさそう」

「え? どうしてだ?」

「あそこにいる」


 背中の上の二葉がとある方向を指で指し示す。そちらを見てみると、とてつもなく見覚えのある美少女集団の姿があった。本当に華やかですねあの人たち。あまりの華やかさに色んな意味で浮きまくってるじゃん。


「いやぁ、凄く目立ってるなぁ」

「そう?」

「まあ、いろんな意味でね……」


 普通だったらナンパのひとつやふたつされててもおかしくないだろうに、オーラがあまりにも強すぎるせいか、その場にいる全員が遠巻きながらに彼女たちを眺める謎の光景が広がっていた。俺、今からあそこに合流するってマジ? 恐れ多すぎて心臓が爆発しそうなんですけど。

 でも、こんな遠くからいつまでも様子見しているわけにもいかないので、俺は覚悟を決めて彼女たちと合流することにした。


「お待たせでーす」

「あ、センパイたちだ。お帰りなさい!」

「どうして二葉ちゃんを背負っているの?」

「下駄の鼻緒が切れちゃったのと、足首を捻っちゃったみたいで」

「理来のおかげでここまで来られた。ぶい」

「どうして理来じゃなくてあなたが得意げなのよ……」


 相変わらずマイペースな二葉に呆れる一夜さん。

 少々トラブルはあったものの、これでようやく全員と合流することが出来た。花火が上がるまではまだ時間はあるし、少しぐらいは休憩を取れそうだ。

 俺はすぐ近くにあったベンチに二葉を降ろす。


「とりあえずここに座っててくれ」

「ん、ありがとう。理来も隣、座る?」

「え? 俺はいいよ――」

「いいから座っておきなさい」

「ぐえ」


 一夜さんから背中を押された勢いでベンチに腰を下ろしてしまった。体勢を崩しそうになるも、二葉が俺に抱き着く形で支えてくれたので事なきを得た。

 俺は一夜さんに抗議の視線を向ける。


「な、なにするんですか」

「ここまでずっと二葉を背負っていたんでしょう? 少しぐらい体を休めておきなさい」

「大丈夫ですよ。身体は鍛えてますから」

「言い方を変えるわ。あなたが疲れているだろうと私はすごーく心配しているのでベンチで休んでください。これでいいかしら?」

「い、イエス、マム」


 凄まじい圧だった。これが異能力バトルだったら吹雪か何かが発生していたかもしれない程に。

 ベンチに座った俺と二葉を囲うようにして立ちながら、一夜さんたちは談笑を始める。


「花火が上がるまでどれぐらいなんだろ。もう時間過ぎてるよね」

「こういうのってちょっと遅れるもんやしねー。混雑もしとるし、気長に待てばよかろうもん」

「花火を待つ時間もある意味青春よね」

「先生、流石にそれはお年寄りみたいです……」

「べ、別にいいでしょう!? 青春真っ盛りの子供を見ていると、大人はついつい感傷に浸りたくなってしまう生き物なの!」


 日比野さんは青春に対して何か思い入れでもあるんだろうか。子どもが青春を謳歌できているのかどうかを結構気にするよな、この人。


「青春かぁ……それならあたし、プールに行きたいかも」

「プールって……昨日さんざん海で泳いでたじゃない……」

「海とプールは全然違うじゃん!」

「どっちも泳ぐことに変わりないでしょう?」

「はぁ、これだからインドアは……海で泳ぐのとプールで泳ぐのとじゃ全然違うんだよー」

「分からないわ……そもそも、そんなに高頻度で泳いでも体力が持たないでしょうに」

「運動部であるあたしからしてみれば、海水浴なんて運動にすらならないよ?」

「体力バカ……」

「えっへっへ」

「アミアミ、多分それ褒められてなかよ」


 誉め言葉として受け入れるハードルの低い彩三にふくちゃんが鋭いツッコミをぶつける。今回の旅行では彼女にもたくさんお世話になってしまった。今度何かの形でお礼をさせてもらわないとな。

 休憩によって体の疲れが癒されていくのを感じつつ、美少女たちの会話に静かに耳を澄ませていると――大輪の華が夜空を彩った。


「おおー!」

「び、びっくりしたったい。最初っから激しい花火が上がっとるんね」

「木でちょっと隠れてるのが残念だけれど、全然問題なく楽しめるわね」

「運転手でさえなければお酒の肴に出来たのになー」


 ドンドンドン、と連続して打ちあがる花火を見上げながら、思い思いの感想を口にする女性陣。

 それは俺の隣の二葉も同じだったようで、前髪で隠れていない方の目の中には虹色の華がこれでもかと言うほどに広がっていた。


「綺麗……」


 花火に沸く一夜さんたちと、隣で感嘆の呟きを漏らす二葉。

 そんな彼女たちを見ていると、ふと今までの生活が頭をよぎった。


(思ってみれば、激動の数ヶ月だったよな)


 突然の火事で家を失い、路頭に迷った高校二年生の春。

 寒空の下、公園で野宿するかと葛藤していたところで、同じクラスの天王洲二葉に声をかけられた。

 学校だけじゃなく日本中、下手すりゃ世界からも注目されている、雲の上のような存在である天王洲三姉妹。そんな彼女たちの一つ屋根の下で一夜を過ごし、そして紆余曲折あってサポーターとして一緒に生活することになった。

 自他ともに認める凡人で(彼女達は何故か否定するけれど)、漫画みたいな人生になんて縁などないと思っていない。

 でも、今こうして一緒に旅行に行って、一緒に海で遊んで、一緒にお祭りを楽しんで……誰がどう見ても幸せで賑やかな人生を、俺は送ることが出来ている。

 こんなに幸せなのはまず間違いなく、あの時あの公園で、二葉が俺に声をかけてくれたおかげだ。


「なあ、二葉。今更だけど、ありがとな」

「なにが?」


 突然のことで理解できていないのか、二葉は不思議そうに首を傾げる。

 もちろん、自分の言葉が足りていないことを自覚している俺は、疑問の答えをすぐに返した。


「二葉があの時、公園で俺に声をかけてくれたから……俺は今こんなに幸せだ。そのお礼を、ずっと言えてなかったなって思ってさ」

「むしろお礼を言いたいのはこっち。理来のおかげで、私は今、凄く楽しくて、凄く幸せ」

「あはは。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 誰の役にも立たない俺が、彼女にお礼を言われるような存在になることができた。

 何度も絶望した人生だったけど、今はもう何も悲しくない。

 彼女たちと一緒にいられるこの人生は、割とかなり気に入っている。


「さっき彩三も言ってたけど、夏休みの間に他にも楽しいこととかしたいよな」

「うん。たくさん思い出作りたい」

「あはは。じゃあプールに行く予定とかも立てるか」

「ウォータースライダーに乗ってみたい。あと、流れるプールも」

「プール、行ったことないのか?」

「(こくり)。特に用事はなかったから」

「そっか。じゃあプールでの楽しみ方を俺が今度教えてあげるよ」

「フフッ。楽しみ」


 これでまた、俺の人生に新しい楽しみが生まれた。

 今まさに夜空を照らしている、終わりのない花火のように。


「座ってるままじゃ見づらいな……立ってみないか?」

「うん。歩かないなら下駄でも大丈夫だから。でも、ちょっとだけ、支えてもらってもいい?」

「もちろん。好きに使ってくれ」

「ありがとう」


 二葉が転ばないように肩を貸しつつ、一緒にベンチの前に立ち上がる。

 その直後――


「っ」

「おおっ」


 俺たちの会話を遮るように、鋭い光が視界を覆う。

 少し遅れて鳴り響いた轟音が鼓膜をびりびりと震わせた。

 その痛みに顔をしかめながらも、俺は二葉の方を見る。


「今の見たか!? あんなに大きい花火、と書いじゃ絶対に見れねえよ――」


 言葉は、最後まで紡がれなかった。

 花火も、すぐに見えなくなってしまった。


「んっ……」


 俺の視界が、二葉の可愛らしい顔に埋め尽くされる。

 唇には、今まで経験したことのない柔らかな感触が広がっていた。


「……ぷはっ」


 二葉の顔が、少しだけ離れた。

 彼女の唇は、唾液で少しだけ湿っていた。


「……え?」


 真っ白になっていた思考が、ようやく色を取り戻す。

 周りで誰かが慌てているような、叫んでいるような……そんな声が聞こえてきたところで、俺は二葉にキスされたのだと理解した。


「ふ、二葉……さん……?」


 状況を理解するにつれて、心臓の鼓動が激しさを増していく。顔は熱を覚え、手足は小刻みに震えるのが分かった。

 そんな俺を真っ直ぐと見つめる二葉。

 夜空の下でも分かる程に頬を赤く染めながら、彼女は今まで見た中で一番無邪気な笑顔で言った。


「理来。大好き」



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