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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第90話 夏祭り


「いやー、ばり盛り上がっとるったい」

「最近は夏祭りするところも減ってきてるから、みんな集まってくるのかもねー」


 俺が二葉からの相談に乗ってから数時間が経った頃。

 お店の手伝いを終えたふくちゃんが合流した後、俺達は近所で行われている夏祭りの会場を訪れていた。


「結構混んでいるから、はぐれないように注意しないといけないわね」

「幸いにも電波は悪くないようだから、何かあった時はすぐに連絡するようにしましょうね」


 会場に集まった大勢の人たちを見て顔をしかめる一夜さんと、車の鍵を閉めながら対策を口にする日比野さん。この旅行中はずっと日比野さんの運転スキルに頼りきりなので、今度改めてお礼をさせてもらわないといけないな。後で好きな食べ物でも聞いておくとするか。


「ヨーヨー釣りに射的、やりたいことがたくさん」

「せっかくの機会だし余すことなく楽しまなくっちゃな」

「ゲームが当たるくじ引きもあるって聞いた。楽しみ」

「それはやらない方がいいやつだと思うぞ」


 ああいうのって当たりが入っていないものだしな。何故か毎回お祭りの出店として並んでいるけど……。

 俺の言葉の意味が分からないのか、二葉は可愛らしく首を傾げる。さっき俺に人生相談していた時とは雰囲気が違った。でも、やっぱりまだ何か悩んでいるかのような、落ち着きのない素振りが見て取れる。

 さっき二葉がしてきた相談が、本当に恋愛SMGを攻略するためのものだったのか。本当は何か他の、彼女の心を締め付けるような重大な事案を解決するための相談だったのかも……二葉の顔を見ていると、そんな考えが頭の中でぐるぐると巡ってしまう。

 やっぱり二葉に直接訪ねるべきだろうか。何に悩んで、どういう答えを求めているのかを――


「センパイ? さっきから難しい顔してどうしたんですかー?」


 急に声を掛けられ、思考がピタリと止まる。

 俺を答えのない堂々巡りから解放してくれたのは、浴衣に身を包んだ彩三だった。


「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」

「ふーん? もしかして、あたしたちへの誉め言葉でも考えててくれたんですか? いやぁ、そうですよねえ。こんなに美人な五人が一緒にいるんですもんねえ。生半可な誉め言葉じゃ足りないですよねえ」

「自分で言うなよ」


 とはいえ、彼女の言う通りの状況ではある。

 天王洲三姉妹に日比野さん、そしてふくちゃん。全員が全員、俺なんかにはもったいない美人さんばかり。しかもその全員が美麗な浴衣に身を包んでおり、その美しさに拍車がかかっている。

 一方、俺は薄手のシャツの上にパーカーを羽織っただけ。下は着慣れたジーンズというあまりにも普通な服装だ。一応俺も浴衣を着ようとは思っていたんだけど、生憎と持ち合わせがなかった。


『こんなことならセンパイの浴衣も用意しておくんでした!』

『忙しすぎてすっかり忘れていたわ……!』

『一生の不覚』

『まあ、俺なんかが浴衣を着ても誰も喜ばないんで、別にいいんじゃないですか?』

『『『あたしが喜ぶの!』』』

『あ、はい。すいません』


 ――みたいな会話がここに来る前に行われていたのをふと思い出した。

 俺が浴衣を着てどうして三姉妹が喜ぶのか分からないけど、もし次回があったらせっかくだし袖を通してみようと思う。また怒られたくはないし。

 ちなみに、三姉妹に怒られた意味が分からずに必死に理由を考えていた時、ふくちゃんと日比野さんから「「そういうところだぞ」」と言われてしまった。今日は小学生にも呆れられたし、どうやら俺には俺自身が気付けていない欠点と言うものが存在するらしい。


(っと、また考え事しちまってたな)


 彩三にまた心配されてしまう。

 俺は思考を頭の隅に移動させつつ、彩三に微笑みを向ける。


「まあ確かに、そんなに可愛い姿を見せてくれたんだから、褒めないと罰が当たるよな」


 さっきから周りを歩いているお祭り参加者、特にその中の男性陣が『どうしてあんな冴えない男とあんな美少女たちが……?』とでも言いたげな視線を向けてきている。ビジュアル面で俺が彼女たちと釣り合わないのは自明の理だけど、だからこそ態度ぐらいは相応しい男なんだと知らしめておいた方がいいだろう。

 俺は軽く咳払いし、彩三の浴衣を褒め始める。


「その柄はひまわりだよな? 彩三の明るいイメージに合ってて凄く似合っていると思うよ」

「ふふん。そうですそうです。あたしと言えば明るさ、明るさといえばひまわり! まさにあたしのための浴衣と言っても過言じゃありません! ふふん!」


 浴衣に包まれた慎ましい胸をバシバシ叩きながら、得意げに笑う彩三。自分のことを自分で褒めるその姿は人によっては反感ものだけど、彼女が言うと不思議と嫌味な感じはしない。


「確かにな。俺も彩三が世界で一番ひまわりが似合う女の子だと思うよ」

「ふっふっふ! 悪い気はしませんね!」


 完全に鼻が伸びまくっていた。スーパー調子に乗っているけど、まあこういう時ぐらいいいだろう。無礼講と言うやつだ。

 と。


「理来。私の浴衣は、どう?」


 服の裾を引っ張られたのでそちらを見てみると、彩三と同じく浴衣姿の二葉が俺の顔を上目遣いで見つめてきていた。

 俺はそちらに振り返り、二葉を上から下までまじまじと見つめる。

 彼女が身に着けている浴衣は薔薇の柄が所狭しとあしらわれたものだ。落ち着きのある二葉にしては少々派手な柄ではあるけど、全体的な色のバランスと主張の少ない境界線のおかげで完全な調和を保てている。静かな二葉と激しい薔薇という正反対な組み合わせのおかげで、いつもとは少し違った魅力を感じさせる、そんなコーデだった。


「二葉も凄く似合ってるぞ。いつもと印象が違うけど、凄くかわいい」

「えへへ……撫でたいぐらい、かわいい?」


 そう言って、頭をずずいっと出してくる二葉。そのあまりのかわいさにドキッとしつつも、俺は求められるがままに彼女の頭を優しく撫でる。


「わぷっ……」

「撫でたくなるぐらいかわいいよ」

「フフッ。理来に褒めてもらえた……」

「……あなたたち、少しはTPOを弁えなさい」

「あっ……」


 二葉と俺の間に身体を割り込ませながら、軽く叱責したのは一夜さんだ。

 彼女が身に着けている浴衣には水仙の花があしどられており、大人のような落ち着いた美しさを感じさせる。水仙の花には知性美という意味もあるらしいけど、それを含めてもまさに一夜さんのために用意されたかのような素敵な浴衣だった。

 俺は軽く謝罪しつつ、一夜さんの浴衣を褒める。


「すみません。というか、浴衣姿の一夜さんも素敵ですね。まさに和服美人って感じで、目を奪われちまいそうです」

「そ、そう? まあ、私に着こなせない服なんて存在しませんからね」


 フフン、と得意げに微笑む一夜さん。やってることは彩三と同じだけど、こちらからは大人の余裕が感じられる。大人と言っても俺とはひとつしか変わらないんだけどな。

 一夜さんは毛先を軽くいじりながら、


「あなたが女の子を褒めるのはいつものことだからあえて注意しませんけど、過激な行動は見過ごせないわ。私たちは天王洲家の人間として、常に周囲からの見られ方というものを意識しないといけませんもの」

「あはは、すみません」

「……でも」

「でも?」


 ついオウム返ししてしまった俺に、一夜さんは何故か頬を赤らめながら目を逸らしつつ――


「今日はせっかくのお祭りですし? まーあ? 頭を撫でるぐらいは、見逃してあげても……ほ、ほら、理来は女の子の頭を撫でるのが好きなのよね? ここに撫で心地抜群の頭がありますよー……なんて……」


 恥ずかしそうに両手をぎゅっと握りながら、俺の顔をちらちらと横目で見てくる一夜さん。この人は本当に可愛いなあ。プライドが高さと甘えたがりのハーモニーがとてもいいツンデレ具合を生み出している。国は今すぐこの美少女を国宝に認定するべきだと思う。

 彼女の意思を理解した俺は噴き出すのを我慢しつつ、その夜空のような綺麗な黒髪を優しく撫でた。


「んっ……」

「そうですね。俺は頭を撫でるのが好きですから、一夜さんの頭も撫でちゃいます」

「ふ、ぅ……これ、凄い……新感覚だわ……」


 手のひらで頭全体を軽く撫でた後、髪の隙間に指を差し込み、一本一本の肌触りを堪能するかのように梳いていく。その度に一夜さんはびくびくと身体を跳ねさせ、その口からは吐息が零れ――


「ストォオオオオオオオ―――――‐―ップ!!!!」

「おわっ」

「きゃっ!?」


 彩三が凄まじい勢いで体を割り込ませてきた。


「一姉! TPOを弁えてってさっき自分で言ってたよね!? なのに今のは何!? なんでこんな公衆の面前で特殊なプレイを見せつけられなきゃいけないの!?」

「へ、変な言いがかりはやめてちょうだい! 私はただ、理来に頭を撫でてもらっていただけで……あ、理来。次はもうちょっと力を強めでお願いできる?」

「続行しようとするな! 実の姉がセンパイを使って欲求不満を解消しようとする姿を目の前で見せられるとか、どんな拷問!?」


 確かにそう考えるとめちゃくちゃ嫌かもしれない。


「ごめんごめん。俺もちょっと楽しくなって調子に乗り過ぎたよ」

「本当ですよ! センパイにはもうちょっと体裁と言うものを考えてほしいものですね!」

「だからごめんって」

「分かったんならいいんです。では、次はあたしの頭を――」


 流れるように俺に頭を差し出そうとする彩三。しかし、そんな行動を見逃す訳にはいかないとでもいうようなタイミングで、ふくちゃんと日比野さんが彩三の腕を両側からがっしりと掴んだ。


「もー、アミアミ。そんなんしとったらお祭り終わっちゃうばい」

「え!? ま、待って! あたしだけ頭撫でてもらえてない!」

「キリがないからここまでにしておきましょうね」

「いーやーだー! あたしもセンパイに頭撫でてもらいたいー!」

「「うるせえとっとと行くぞ」」

「いやああああ! 助けてセンパイいいいいいいいいいいい!!!」


 悲痛な叫びを上げるも、そんなことなどお構いなしとばかりな二人に引きずられていく彩三。滝のように涙を流して喉が張り裂けんばかりの叫びを上げている彼女は、はたしてTPOを守っていると言えるのだろうか……。

 哀れな後輩に心の中で合掌しつつ、俺は一夜さんと二葉の方を振り返る。


「えっと、それじゃあ俺達も行きましょうか」

「そうね」

「(こくり)」


 二人の返事と笑顔を確認したところで、俺は変に注目されている三人を急ぎ足で追いかけた。

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