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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第89話 恋って何?


「理来って、恋……したことある?」


 それは、あまりにも予想外過ぎるお悩みだった。

 もっと詳しく言い表すならば、『二葉から出てくるとは思ってもみない』お悩みだった。

 だけど、どんな悩みでも相談に乗るといったのは俺だ。ここで動揺する訳にはいかない。彼女の負担を少しでも減らすために、悩みに対して真摯に向き合わなくては。


「恋、か……ちなみに、どうして恋に悩んでるんだ? もしかして好きな人でも――」

「っ!? え、えっと、それは……げ、ゲーム! ゲームで! 今度配信で恋愛シミュレーションゲームをするんだけど、私、ああいうジャンルは苦手だから……」


 二葉にしては珍しく口数が多かった。何か隠しているような――いや、流石にそれはないか。シンプルに悩み相談というものに慣れてなくて慌ててしまっただけだろう。

 二葉の事情を一旦頭の中に置きつつ、俺は顎の下に指を添える。


「なるほどねぇ……うーん、恋かぁ……まぁ、したことあると言えばあるかな」

「っ。そ、それって、どんな感じだったの……?」

「まあよくある話だよ。小学生の時に、クラスのアイドル扱いされてた可愛い子のことが気になってたとか、それぐらいの話だからな」

「そっか……」


 何故か体を震わせながら、二葉は言葉を続ける。


「理来は今も……その子のこと、好きなの?」

「いんや? 何年も前の話だし、その子とはもうずっと会ってないしな」


 その子の顔も朧げにしか覚えていない。恋がどんなものなのかもよく分からない未熟な子供がその場の雰囲気に流されていたとか、そんなしょうもない話でしかない。


「今思い返してみれば、あれが本当に恋だったのかどうかも分からんな」

「……でも、好きだなって思ってた人は、いたんだ」

「まあ、そうだな。幼い時に一瞬の恋ではあったから、もうすっかりどっか行っちまったけど」


 ひと夏の恋のようなものかもしれない。好きだったからと言って別に告白しようと思ったこともなかったし。小学生男子なんて恋よりも遊びの方が楽しい年齢だしなぁ。


「(……好きだった人、いたんだ……)」

「だ、大丈夫か?」

「……うん。大丈夫。ちょっと、驚いちゃっただけ、だから」


 本当にそれだけだろうか。悲しげな彼女の顔を見ていると、他にも何か考えているような気がしなくもない。

 二葉の様子が気になりつつも、俺は話を続ける。


「それで、二葉は恋愛SMGのどういうところが苦手なんだ?」

「……人を好きになるっていうのが、よくわからないの」


 思っていたよりも大きな話が飛び出してきたな。

 密かに困惑する俺に気付いているのかいないのか、二葉は言葉を続ける。


「私、昔から人の気持ちに鈍感で、自分でも感情を上手く表に出せなかったの」

「前にも言ってたよな。コミュニケーション以前に感情を伝えるのが苦手だって」

「うん。だから、なるべく一姉や彩三以外の人間とは直接関わらないようにして生きてきたんだけど……そのせいで、恋とか、よくわからなくなっちゃった」

「他の人とゲームで対戦したりはしてたんだろ? それで相手の感情とかに触れたりはしてなかったのか? ほら、よく言うじゃん。対戦ゲームは相手のことを考えながらプレイする、みたいな」

「ゲームはプレイヤーを見るんじゃなくて、キャラクターの動きを頭に叩き込んで、それの対策を身に着ければいいから。あまり対戦相手のことを考えたこと、ないかな……」


 そのあまりにも天才っぽい返答に、俺は普通に感心してしまった。やっぱり普通のプレイヤーとはゲームへの向き合い方というか、そもそもの考え方が違うらしい。

 二葉は前髪をいじりながら、ぽつりと呟く。


「恋って、なんなんだろ……」


 中々に哲学的な問題だった。というかこれ、本当にゲームの話か? 二葉自身の人生相談なんじゃないのか? ……いや、俺が勝手に深読みするべきじゃあないな。

 俺はあくまでも二葉の負担を減らすために悩み相談をしているんだ。それならば、二葉の求めるがままに話を進めるべきだろう。もちろん、俺の考えをしっかりと示した上で、だけど。

 俺は二葉の目を真っ直ぐ見ながら、


「俺もあんまり恋とかよく分かってないんだけどさ」

「?」

「『多分俺、この人のこと好きなんだろうなあ』って思うのがどういう時なのかぐらいは、なんとなく分かるよ」

「っ、本当?」

「ああ」


 小学生の時の話――いや、今でも当てはまるかもしれない、そんな話を二葉に伝える。


「その人のことで頭がいっぱいになってるなって自覚した時だ」

「頭がいっぱいに……?」

「起きたばっかりの時とか、学校に行ってる時とか、授業受けてる時とか、飯食ってる時とか……どんな時でもその人のことを考えちまって、他のことなんて手につかなくなる……そんな感じかな」

「理来も、そういう時があったの?」

「もちろん。つーか、今まさにそうかもしれないな」

「え?」

「だって俺、二葉たちに出会ってから、ずっと三姉妹のことばっかり考えちまってるもん」


 どうすればみんなを上手くサポートできるか、どうすればみんなの健康状態を維持できるか、どうすればみんなが幸せになれるか――最近はそんなことばっかり考えている。

 それがどういう好きなのかは分からないけど、少なくとも……俺はいつでもどこでも三姉妹のことで頭がいっぱいになってしまっている。


「だからまぁ、『好き』ってのは、その人のことを何よりも優先にしちまう感情のことを指すんだと思うんだよな」

「なるほど……でも、好きにはいろいろ種類があるって、聞いたよ?」

「まあ、それはそうだな」


 家族が好きとかペットが好きとか恋人が好きとか、好きの種類は千差万別だ。どれぐらい細分化されるかと言うと、それこそ歌人がいろんな言葉で『好き』を表現しているぐらいには多種多様なんだと思う。


「どれがどんな好きなのかは俺もいまいち分かってないけど、今回の場合だと恋愛的な好きの話だよな?」

「(こくん)」

「うーん、そうだなぁ……」


 頭を回転させる。

 人が恋愛的な意味で誰かを好きになるのは、いったいどういうことなのかを。

 自分の経験、今まで触れてきた創作物、耳にした恋愛談。俺の中にあるピースをかき集め、二葉の質問に対する回答として正しい形に組み上げていく。


「これが合ってるかは分からないから、あくまで俺の持論になるけどさ」

「大丈夫。むしろ、理来の考えに興味がある」

「なら良かった」


 お前の考えなんていらねえ~、って言われたらどうしようかと思ったわ。まあ、二葉に限ってそんなことを言ってきたりはしないだろうけど。

 俺は今から口にする言葉に対する気恥ずかしさを誤魔化すように後頭部を軽く掻きながら、


「『この人と一緒に幸せな人生を作っていきたい』って思えること。それが、誰かを好きになることなんじゃないかな」


 人によっていろんな考えがあると思う。

 でも、俺にとっての恋愛的な『好き』とは、その人と一緒にいれば人生を楽しく出来るかどうかに比重が置かれている気がする。

 どうしてそう思うのかは自分でもよく分からない。もしかしたら、過去の両親の離婚や、家族と海を挟んで離れて暮らしていることなんかが関係しているのかもしれない。


「一緒に幸せな人生を作っていきたい人……」


 噛み締めるように俺の答えを反芻する二葉。改めて言葉にされるとやっぱり恥ずかしいな。


「ま、まあ、あくまでも俺の考えだから。それが恋愛SMGの攻略に役に立つかどうかは分からないけど、参考にはなるんじゃないか?」

「うん。ありがとう」


 本当にこれで彼女の負担を減らすことが出来たのだろうか。さっき二葉が自分で言っていたけど、彼女は気持ちを表に出すのが苦手な人間だから、俺の答えに納得できたかどうかは一見だと分かりにくい。

 お願いだから正解であってくれ、と心の中で神に祈っていると、二葉はどこか言いづらそうに言葉を紡いできた。


「ねえ、理来。最後に一つだけ、聞いてもいい?」

「おう。俺に答えられる範囲でいいなら」

「さっき言ってた、一緒に幸せな人生を作っていきたいと思える人……理来が恋愛的に好きになれる、そんな人……今の理来に、いたりする……?」


 すぐには答えられなかった。

 表現が苦手な二葉だから分かりにくい問いになっているけど、彼女が聞きたいのはこうだ。


 ――あなたに今、好きな人はいますか?


 瞬間、昨日日比野さんから言われた言葉を思い出した。


『あなた、あの子たちの中で誰が好きなの?』


 まさか昨日の今日で違う人から同じ質問をされるとは思わなかった。

 ……正直に言って、三姉妹のことを異性として意識していない訳じゃない。

 世間から大きく注目されている有名人で、絶世の美少女で、おまけに自分に優しくしてくれる三姉妹。

 みんな魅力的で、自意識過剰かもしれないけど、みんなが俺に好意的に接してくれて……そんな三人とそういう特別な関係になれたらいいなと考えたことがないと言えば嘘になる。

 だけど、それを表に出せるような立場に今の俺は立っていない。

 何故なら、俺は彼女達にとって、家族の一員だと思われているのだから。

 そもそもの話、俺が彼女達の恋人として吊り合う訳がないのである。

 一夜さんはあまり自分を卑下するなと言っていたけれど、それとこれとは話は別。

 俺は彼女達を支える立場にはなれるかもしれないけど、恋人として彼女達を幸せにできる人間じゃない。

 少なくとも、今の俺には――。


「理来?」


 答えに窮していたからか、二葉が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 俺は被りを振りつつ、何とかして言葉を紡ぐ。


「今は……いないかな」


 今の俺は、果たして笑えているだろうか。

 二葉が余計な心配をせずに済むような、誰が見ても問題ない――そんな笑みを浮かべているだろうか。


「今の俺にとっては、みんなとの生活が一番だから」


 自分で選んだ言葉のはずなのに、それを口にした瞬間――胸の奥がチクリと痛んだ。

 まるで、本当の気持ちは違うんだよと心が否定するかのように。

 密かな不安を悟られないように、俺はわざとらしく苦笑する。


「ごめんな、あんまりいい答えを提示できなくて」

「ううん。凄く参考になった。ありがとう」


 二葉はぺこりと可愛らしくお辞儀をし、少しだけ口角を上げる。


「そろそろお祭りに行く準備しなきゃ」

「ああ、そうだな。浴衣も用意してあるし、早めに準備しないとだな」


 その言葉を最後に、俺達は互いに背を向けた。

 言いたいこと、言わなくちゃいけないことがまだあると――心のどこかで自覚しながら。



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