第87話 子供らしさ
オリエンテーションの時間はあっという間に過ぎ、気づけば終了の時間がやってきていた。
「お姉ちゃん! またいろんなコンボ教えてくれよな!」
「つぎはぜってーまけねえぞ!」
「それ無理。勝つのは私」
「言ったな! つぎまでにいっぱいとっくんしとくから、かくごしとけよ!」
「おねーちゃん。どんかんなひとにはとにかくアタックだよ!」
「うん。頑張る」
十人ほどの子供たちに囲まれながら、その全員と仲良さそうに談笑する二葉。オリエンテーションが始まったばかりの時からは考えられない光景だ。俺が二葉とずっと一緒にいなかったら、目の前を光景を見て度肝を抜かれていたに違いない。
――彼女達のように。
「二姉が子供と楽しそうに話している、だと……!?」
「あれは何? 夢? それとも幻覚?」
中々失礼な驚き方をしている長女と三女に思わず苦笑してしまう。でもまあ、事情を知らない側からするとびっくりするのも致し方ないことだと思う。
「理来、あなたいったい何したの……?」
「別に何もしてませんよ。二葉が頑張っただけです」
「そう……あの不器用な二葉が……」
子供たちとじゃれる二葉を見て、柔らかな微笑みを浮かべる一夜さん。長女として最愛の妹の成長を実感しているのだろうか。あくまでも予想だけど、そんなことを考えていそうな表情をしていた。
話したいことは全て話し終えたのか、二葉は子供たちに手を振りながら、俺達の方へと戻って来た。
「お待たせ」
「二姉大人気だったねー」
「みんないい子たちばっかりだった」
「去年とは打って変わって楽しそうに話していたわね。何か心境の変化でもあったの?」
「別に。しいていうなら理来のおかげ」
「って、二葉は言っているけど?」
「さあ、俺は知りませんね。二葉がたくさん頑張った成果だと思いますけど」
「もう、相変わらず素直じゃないんだから」
俺が認める訳がないと分かっていたのか、一夜さんは呆れの溜息を零した。こういうのは当事者の成果と言うことにしておくべきなのだ。実際問題、俺はただ手を貸しただけだしな。子どもたちとの距離を縮めることが出来たのは二葉の頑張り以外の何ものでもない。
疑いの目を向けてくる一夜さんから逃げるように顔を逸らし、俺は車の方へと足を進める。
「みんなお疲れ様。楽しい時間は過ごせた?」
そんな言葉で俺達を出迎えたのは、車のボディに寄りかかりながらスマホをいじる日比野さんだ。オリエンテーションが行われている間、彼女は教師たちと一緒にいたらしい。どんなことを話したりしていたのか気になるところだけど、大人には大人の話があるだろうからわざわざ詮索することはしないでおく。
俺は三姉妹が車にスムーズに乗れるように後部座席期の扉を開きながら、
「みんな楽しそうでしたよ」
「それは良かったわ。で、あなたはちゃんと楽しめた?」
「まあそれなりに。でも、今回の主役は俺じゃなくて一夜さんたちと子供たちの方ですから」
今回のオリエンテーションにおいて、俺はあくまでも雑用に過ぎない。一応それなりに楽しみはしたけど、主役よりも楽しむなんていう出過ぎた真似はしないように心掛けていたつもりだ。
だが、俺の回答が求めていたものとは違ったのか、日比野さんは大きくため息を吐いた。
「はぁ……これは中々に重症ね」
「何ですかその反応」
「いえ、いいわ。わたしが言ってどうにかなる話でもなさそうだし」
それ以上この話題を引っ張るつもりはなかったのか、日比野さんはそそくさーっと運転席に潜っていった。
今のはどういう意図の会話だったんだろうか。もっと楽しめ的な? 一応俺も楽しんではいたんだけどな……。
「センパイ? そろそろ車出すみたいですよ?」
「おう。ごめんごめん」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと考え事をな」
彩三達に急かされるがままに車に乗り込む。
最後に気になることがありはしたけど、特に大きなトラブルもなくオリエンテーションは幕を閉じるのだった。




