第85話 オリエンテーション
ふくちゃんをロッジから送り出した後、俺たちは日比野さんの運転する車で目的地へと向かった。
そこにあったのは、何の変哲もない至って普通な小学校。強いて言うなら、福岡県の中にある小学校の中では少し小さいことぐらいか。
「最近学生数も減っているらしいの。だから生徒数を増やすための施策として、天王洲三姉妹とのオリエンテーションを企画したと聞いているわ」
高校生でありながら施策のひとつとして組み込まれるこの人達はやっぱり凄まじい人達なんだなと改めて実感させられる。俺が代役として現れたところで野良犬すら見向きもしないだろうしな。
車から降りると、校舎の方から初老の男性や数人の女性たちが早足で近づいてきた。おそらくこの学校の教師だろう。
「代表として挨拶をしてくるわ。あなたたちはここで待っててちょうだい」
「任せてしまって大丈夫ですか?」
「フフッ。こういうのは次期当主のお役目だからね」
そう言って片目を瞑る一夜さん。こういう時の一夜さんは本当に頼りになるし魅力的だ。俺もこの人みたいに余裕のある人間になりたい。……まぁ、いじられてる時は世界一余裕が無くなるんだけどね、一夜さんって。
「なにか失礼なこと考えてない?」
「一夜さんが頼りになりすぎて素敵だなと思っていたところです」
「なんか誤魔化された気分だけど、あなたのことだから多分嘘は言ってないんでしょうね……」
もちろん嘘は言ってない。他のことも考えたりはしていたけど。
一夜さんは俺達に軽く手を振りながら、
「それじゃあ、ぱぱっと終わらせてくるから」
「いってらっしゃいませー」
俺達から離れ、教師の方々の方へ歩み寄り、軽く会釈する一夜さん。それから外交用の笑顔で少し談笑した後、俺達に向かって軽く手招きしてきた。
「もう子供たちはそれぞれの教室に集まっているみたい」
「そういえば三人とも会場が違うんでしたっけ」
今回のイベントは三姉妹がそれぞれの得意分野を通じて子供たちと交流するといったものだ。なので、ピアニストの一夜さんは音楽室、プロゲーマーの二葉はパソコン室、陸上選手の彩三は体育館といった風に三人それぞれに適した会場が割り振られているらしい。
一夜さんは教師から渡されたのであろう校内マップを俺達に手渡しながら、
「理来は二葉と一緒にいてもらってもいいかしら?」
「最初からそのつもりでした」
ロッジから出発する前にも軽く触れていたけど、今日俺は二葉のアシスタントとしてイベントに参加する。その理由は至って簡単で、彼女が他人とコミュニケーションを取ることを苦手としているからだ。
「去年のように二葉が淡々とゲームをするだけのイベントになったら問題だからね。最初は様子見しつつ、ここぞという時に手伝ってあげて」
「分かりました」
「センパイがいれば大丈夫でしょー」
「頼りにしてる」
彩三の後に言葉を続けた二葉に対し、一夜さんは少し厳しめな声で言い放つ。
「でも、あまり理来を頼りにし過ぎてはいけないわよ、二葉。あくまでも今回は天王洲三姉妹のイベントなのだから」
「(こくん)。分かってる。出来る限り、自分でやってみる」
そう言う二葉の顔には、どこか不安そうな色が見て取れた。
それに気づいているのかいないのか、一夜さんは小さく微笑むと、
「それじゃあイベント開始ね。各自、子どもたちに思い出を作ってあげられるように頑張りましょう」
いつもの頼りになる長女の態度でイベント開始の宣言をした。




