第84話 不安な朝
みんなでボードゲームで盛り上がった翌朝。
俺達はロッジのリビングで朝食を囲っていた。
今回のメニューは俺とふくちゃんが作ったサンドウィッチ。昨日ふくちゃんからもらった肉と野菜をふんだんに使った特別仕様だ。
「ん~……素材の味がいいのはもちろんだけど、手作りの調味料の味も最高ね。高校生が作ったとは思えないわ」
「ウチは材料を切っただけったい。調味料はセンパイさんが作ったとよ」
「流石ね加賀谷くん。料理もできてイケメンで気遣い上手で……ねえ、わたしと結婚しない?」
「あはは。俺なんかに日比野さんはもったいないですよ」
「キミ、本当に高校生……?」
「センパイはこういう時だけ歴戦のスナイパーの如くハードボイルドなナイスガイになるんです」
横文字多すぎだろ。
「もう、先生。朝から理来をからかわないであげてください。いきなり結婚を迫られても困るだけでしょう」
「フフフ、ごめんなさい。あまりにも彼が魅力的だったからつい、ね」
「センパイさんが旦那さんだったら毎日楽しそうやしねー。ウチとも結婚せん?」
「ぶーっ! ふ、ふくちゃん!」
「あはは、冗談ばい。そんなことしたらアミアミに怒られちゃうもんね」
「べ、別に怒りませんけど!? なにを言ってるのかなふくちゃんは。あははー!」
朝から元気だなこの人たち。昨日あれだけ遊んだっていうのに、まだまだ元気が有り余っている。
……いや、元気が有り余っていない人もいるにはいるか。
俺はテーブルの一番端で黙々とサンドウィッチを食す二葉の方を見る。
「二葉はどうだ? サンドウィッチ美味しいか?」
「……(ぼー)」
「二葉?」
「っ。ご、ごめんなさい。美味しい。絶品」
「あはは。そりゃよかった。お代わりもあるから、好きなだけ食べてくれよ」
「ん、分かった。ありがとう」
一夜明けても二葉は未だに調子が悪そうだった。どこか体調が悪いのかと思って朝食前に体温を測ってもらったけど、至って平穏、特に問題は見られなかった。
(ということは、やっぱり内面的な問題か?)
そうなると、彼女から直接話を聞くぐらいしか解決策は思いつかない。
だけど、俺がいきなり相談に乗ろうとしても彼女が困るだけだ。彼女が話したいと思った時に話を聞く。これが一番ベターな選択だろう。
なので、今の俺に出来るのはただ一つ。いつも通りに過ごす事だけだ。
俺はサンドウィッチを食べながら、その場にいる全員を見渡す。
「今日のスケジュールですが、昼から一夜さんと二葉、彩三の三人はここ、志賀島にある小学校でオリエンテーションイベントに参加することになっています」
「それぞれの得意分野を通じて現地の小学生と触れ合うイベントね」
「場所は違うけど、去年も似たようなことやったっけ。小学生とかけっことかしてたなー」
「私はゲームをしてた……勝ちすぎて泣かれた記憶がある」
ゲームに対して常に真剣に打ち込んでいる二葉がゲームで手加減できないのはあまりにも想像に難くない。でも、一応オリエンテーションなんだから、そこは上手く調整して欲しいものだ。
「小学校でオリエンテーションって……高校生とは思えないイベントばい」
「フフッ。天王洲家の人間として、こういう形での露出も大切なのよ」
「外面は良くしておくに越したことはないもんねー」
「私は別に……一姉と彩三がやるから、仕方なく一緒にやるだけ」
「確かに、二葉ちゃんはこういうのちょっと苦手そうよね」
自宅にいる時の彼女からは想像もつかないが、天王洲二葉という少女は基本的に愛想がないことで有名だ。学校では俺や姉妹以外の人間とほとんど話すことはないし、何なら笑顔なんてほぼ表に出すことはない。
だから正直、二葉がこのイベントを上手くこなせるのかどうか、俺はちょっと不安に思っている。
「去年も注意したけれど、せめて愛想よく接しなさいね。相手は小学生なんだから」
「分かってる、けど……あんまり自信はない」
サンドウィッチを食べる手を止め、うつむきがちになる二葉。
そんな彼女を元気づけるように、俺はやや大げさに声を張った。
「大丈夫だ! 今回は俺も一緒にいるから、可能な範囲でサポートするよ」
「理来……ん、期待してる」
ずっと不安そうだった二葉の顔に、儚げながらも笑顔が浮かぶ。
「それじゃあ、ウチはおじいちゃん家に戻るったい。店番もあるし」
「夜にまた戻ってくるのー?」
「うん。おじいちゃん達から許可は貰っとるし、また遊びに来るばい」
「やったー! またふくちゃんと遊べるね!」
「夜は近くでお祭りもあるけん、一緒に行きたかー」
「そういえばそうだったわね。理来が立ててくれてたスケジュールにもお祭りのことが書いてあったわ」
「ほんま!? じゃあじゃあ一緒にお祭り楽しもー」
わいわいと雑談で盛り上がる女性陣。
そんなこんなで旅行二日目が始まるのだった。




