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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第68話 計画を立てよう


「海に行きたーい!」


 それは夏休みを迎えた直後のことだった。

 終業式の後、三姉妹がその日の部活やレッスン、配信などを終え、みんなで食卓を囲んでいる時。

 味噌汁をグイっと飲み干した天王洲彩三が、いきなりそんな叫びを上げてきた。


「食事中は静かにしなさい」

「それどころじゃないんだよ一姉!」

「それどころよ」


 豚の生姜焼きを箸で綺麗に切り分けながら指摘を飛ばす一夜さんを軽くスルーし、彩三は続ける。


「この前海に行きたいねって話をしたのに、予定が立つ気配が全然しないんだもん! 高校一年生の夏は一度しかないんだから、全力で楽しんでいかないと!」

「そうは言っても忙しいんだから仕方ないじゃない」

「一姉はセンパイに水着を見て貰いたくないの?」

「ど、どうしてそんな話になるのかしら!?」


 急に俺を話の当事者にするのはやめてほしい。

 何故か顔を真っ赤にしたまま、一夜さんは食事中なのも忘れて彩三に叫ぶ。


「だ、大体、誰かに水着を見せるなんて理由で海に行くのは不健全だわ! せめて海で遊びたいからとかそういう理由にしておくべきよ!」

「水着を着たあたしを見たセンパイから可愛いって言われたいし、センパイと一緒に海で遊びたーい」

「強欲ッッッ!」

「ふふふ。強欲で結構! あたしはあたしの目的のために七つの大罪に手を出すだけだからね!」

「くっ……これが我慢することを知らない末っ子のチカラだというの……!?」

「理来、そこの漬物とって」

「君は相変わらずマイペースだな二葉……」


 長女と三女がバチバチと火花を散らす中、黙々とご飯を食べ進めていく次女。まあ、基本的に彼女はインドアなので、海に行く行かないの話にはあまり興味がないのかもしれないけど。

 俺は彼女にきゅうりの浅漬けの入った器を手渡しながら、


「二葉は海に興味ないのか?」

「理来と一緒なら楽しそう、だけど……ゲーム機は水に弱いから」


 海の中にゲーム機を持ち込もうとするんじゃありません。


「流石に海の中でゲームは難しいだろうなあ」

「でも、理来がゲームよりも楽しい気持ちにさせてくれるなら、興味はある」

「そりゃあまあ、一緒に行くことになったら世界一楽しませられるように努力はするよ」


 彼女達の人生をサポートするのが俺の仕事だからな。


「世界一……それなら、海にも興味が出てくる」

「聞いた一姉? これで海に行きたい派は二人になったよ!」

「くっ……まさかこんなところに伏兵がいただなんて……!」

「一姉は理来と一緒に海、行きたくないの?」

「行きたァい!」


 渾身の本音が炸裂していた。流石は二葉。他人の本音を引き出す技術に特化しすぎている。


「行きたいけれど、本当に時間がないのよ……私だって理来に水着姿を褒めて貰いたいし、理来と海でキャッキャウフフしたいし、理来にサンオイルを塗ったりしてほしいのに……」

「想像を遥かに超える量の欲望がダダ洩れてるよ一姉」

「でも! スケジュールが、スケジュールが空かないのよぉ……!」

「センパイに管理してもらえばいいじゃん。前に海に行く約束をした時も、センパイがスケジュール調整の手伝いをするって言ってたんだし」

「それはそうかもしれないけど……りくぅ……」


 小動物のような目でこちらを見てくる一夜さん。いくら日本有数の天才ピアニストとはいえ、彼女はまだ俺と同じ高校生。夏休みには遊びたいし、多忙な日々を送り続けるのにも限界がある。

 そして俺はそんな彼女達に快適な人生を送ってもらうためにここに存在する。

 となれば、俺のやるべきことは一つしかない。


「家族水入らずで海に行くために、スケジュールを調整しましょう。ただ、俺の一存で決められることじゃないですし、一夜さんにも協力してもらいますよ」

「ありがとう、理来! ……こ、こほん。感謝するわ、理来」


 今更格好つけたってもう遅いんだけど、こういうところが一夜さんの魅力でもあるので、俺はあえて聞かなかったフリをした。


「一姉、今更格好つけたってもう遅いよ」


 しかし一秒で三女が俺の気遣いを台無しにするのだった。



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