第67話 夏の始まり
波乱の期末考査を終え、ついに夏休みを迎えた俺たち。
普通の学生だったら「夏休みだー! 何して遊ぶ?」と年頃の計画を立てて胸躍らせるところなんだろうけど、天才美少女三姉妹こと天王洲三姉妹は違う。
「今日は朝からレッスンに行かなくちゃ」
「新作ゲームの案件配信がある」
「ずっと部活ですけど夕飯までには帰ります!」
天才として世間から注目されている彼女達に、高校生らしい夏休みなど存在しない。
「理来、今日は朝ごはんを食べる余裕がないわ。ごめんなさい」
「分かってますよ。なので移動中に食べられるように別で作っておきました。車の中ででも食べてください」
「えっ……しゅき……」
天才美少女三姉妹の長女にして、日本屈指の天才高校生ピアニストである天王洲一夜さんはレッスンだけじゃなくて演奏会やコンクール、イベントのゲストなんかに引っ張りだこで、この間はとあるパーティに招待までされていた。長女という立場もあってか、三姉妹の中で最も忙しいのは紛れもなく彼女だろう。
「案件配信で喋る事が無い。楽しい、とかだけじゃダメかな?」
「そう言うと思って、今回二葉が紹介する商品の特徴を俺なりにまとめておいたよ。何も思いつかなかったらここからちょうどいいポイントを抜き出して紹介するといいんじゃないか?」
「ありがとう。理来がいなかったら、私はただ日本一ゲームが上手なだけの女子高生」
「それはそれで十分じゃないか……?」
天才美少女三姉妹の次女にして、数々の大会で優秀な成績を収めている天才高校生プロゲーマーの天王洲二葉は、ゲームだけではなく配信活動もしているため、普段の練習の他に案件配信などの依頼が引っ切り無しに届いている。喋ることが苦手な彼女にどうしてそんな案件相談が届くのかは非常に謎なんだけど、リスナーの反応を見ている感じだと、お世辞もクソもない彼女の本音配信が界隈では人気なのが理由のひとつらしい。それでいいのか案件配信。
「センパイ! 部活に行ってきますね!」
「待て待て、スポドリ忘れてるぞ!」
「あっ……センパイが後で届けに来てくれてもいいんですよぉ? みんなに彼氏だって紹介するんで」
「全面的にお断りだ馬鹿野郎。ほら、いいから早く受け取れって」
「はーい」
天才美少女三姉妹の三女にして、一年生でありながらインターハイ優勝を期待されている天才陸上選手の天王洲彩三は、早朝から自主トレをしたかと思ったら、帰ってきて軽くシャワーを浴びた後、すぐに部活の練習のために家を飛び出す。最近姉二人へのコンプレックスを解消した彼女だが、それはそれとして優秀な姉に負けたくない一心で毎日部活を頑張っているようだ。
そんな天才美少女三姉妹を今日も今日とてサポートしているのが……普通・平凡・無才の三拍子そろった凡人であるこの俺、加賀谷理来である。
「さて……家事でもやるかな」
天才美少女三姉妹が何の気兼ねもなくそれぞれの活動に集中できる環境を作り出すこと。
それこそが、どこにでもいる普通の男子高校生である俺に与えられた仕事だ。
「そろそろ旅行だし、みんなの荷物とかもまとめとかないとなぁ」
リビングで掃除機をかけながら、俺は窓越しに空を見上げる。
時は七月終盤。
多忙を極める天才美少女三姉妹と共に、俺は今度小旅行に出かけることになっていた。
本日より第三部開始となります
どうぞ三姉妹と理来によるドタバタラブコメ夏の部をお楽しみくださいませ。




