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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第二部

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第63話 予想外の展開


 あたしの熱が下がったのは、期末試験から三日後のことだった。


「もう二度と風邪なんて引きたくない……」


 風邪を引いたのはいつ以来だろう。中学生の時には一度も引いた事が無かったから、小学校低学年以来かな。久しぶりの風邪だったから、本当に死んじゃうかと思ったよ……。


「でも、センパイのおかげで辛くなかったな」


 センパイは昼夜問わず、ずっとあたしの傍に居てくれた。他にやることとか、やりたいこととか、たくさんあったはずなのに……そのすべてを後回しにして、あたしのことを優先してくれた。

 ……ほんと、お人よしだよね。


「とりあえず、ようやく元気になれたし、センパイにお礼言わなくっちゃ」


 部屋を出てリビングへと向かう。

 でも、そこにセンパイの姿はなかった。


「あれ? 買い物にでも行ってるのかな……?」


 家の中を散策してみるけど、センパイの姿はどこにもない。

 玄関にセンパイの靴もないし、やっぱりどこかに出かけてるのかなぁ?

 と。


「ただいま」


 扉が開いたかと思ったら、制服姿の二姉が帰ってきた。


「あ、二姉。おかえりー」

「彩三! もう体調はいいの?」

「うん。すっかり元気になったよ。それより、どこか行ってたの?」

「今日は登校日。学校に行ってた」


 そういえば、今日はただの平日だった。そりゃあみんな学校に行ってるよね。


「理来は休もうとしてたけど、一姉に首根っこを掴まれて学校に連れていかれてた」

「あ、そうなんだ」

「彩三の看病がー、って。でも、彩三はもう熱もすっかり下がってるから、これ以上学校を休むのは許さないわよー、って一姉に」

「そっか……」


 センパイ、あたしのために学校を休んでくれてたんだ。だからずっと傍に……。


「彩三、顔が赤い。まだ熱がある?」

「えっ!? う、ううん、何でもないよ!?」

「病み上がりだから、無理はしちゃダメ」

「うん。分かってる。ちょっとセンパイのことを探してただけだから」

「理来を?」

「看病してくれたお礼を言いたくって」


 それと、試験を受けられなかったことを、改めて謝りたい。

 センパイの時間を奪っちゃったにも関わらず、あたしは挑戦すらできなかった。

 そのせいで今後の大会に出る資格すら失って……本当にダメダメだ。


「……そういえば、彩三に渡すものがある」

「あたしに?」

「はい」

「……プリント?」


 二姉から渡されたのは、何の変哲もないプリント。連絡事項が書かれている、白い紙きれだ。

 もしかして、あたしのクラスの先生から貰ってきてくれたのかな。二姉、周りに興味がないように見えて意外と気遣いとかできるタイプだし。

 えっと、それで、プリントには何が書かれてるんだろうか――


「……え?」

「忘れないようにね。じゃ、私は部屋でゲームしてくるから」

「ちょ、ちょっと……」


 あたしの制止も空しく、二姉は自室へと去っていった。

 残されたあたしは呆然としたまま、改めてプリントを見た。


【期末考査欠席者へのお知らせ】

【今期末試験を欠席し、受験できなかった生徒のために、再試験を行うこととなりました】

【再試験日は以下の通りです】


「……ど、どういうこと?」


 期末試験の再受験なんて、今まで一度もなかったはずなのに。

 い、いったいなにがどうなってるの……?



 訳も分からないまま、期末試験の再受験の日がやってきた。


「……結局、センパイも一姉も二姉も、誰も説明してくれなかったな」


 どうしてこんな前代未聞の事案が起きているのか、あたしはちゃんと質問したんだけど、みんな目を逸らしながら「な、ナンデダロウナー」と誤魔化してきた。絶対に何か知ってる反応だったね、あれは。


「そもそも、みんな朝早くに学校を出ちゃったし……何が起きてるの……?」


 もしかして、落ち込んでいるあたしに気を遣って、顔を合わせないようにしてるのかな。それは……凄く悲しいし、やるせなくなるからやめてほしいんだけど。


「って、ダメダメ。余計なことは考えないようにしなくっちゃ」


 そう。理由は分からないとはいえ、せっかく再受験の機会をもらえたんだ。陸上を続けられるのかどうかは分からないけど、とにかく、今日は試験に集中しないと――


『ふんっ……ぬぐぐ……ぬ、抜けないのだけれど!?』

『一姉、雑草抜くの下手』

『雑草を抜く時は、まず根元を彫ってからの方が楽ですよ』

『そ、そうなのね。草抜きなんてあんまり経験がないから……』


「……って、あれ?」


 通学路を乗り越え、学校の門をくぐった直後。

 凄く聞き覚えのある声が聴こえてきた。


「……まさか」


 ちら、と校庭にそびえたつ時計を見てみる。……時間にはまだ余裕があるね。

 あたしは方向を変え、声のした方へと移動する。

 そこには――


「あっっついわ……これが夏……?」

「夏初見みたいな反応してますけど十七年ぐらい生きてきてますよね?」

「と、得意じゃないのよ、暑いのって。私はいつも屋内にいるし」

「インドア派にとって暑さは大敵」

「はぁ……あーもー、汗で服がべたつくわ……」

「制汗剤とタオルなら持ってきてますよ。必要になったらいつでも言ってくださいね」

「あなたの前世、未来から来た猫型ロボットなんじゃないの?」

「未来なのに前世っておかしくないですか?」


 ――ジャージ姿で草抜きに励む天王洲家メンバーの姿があった。


「さ、三人とも……そこで何してるの!?」

「げ。見つかったか……」

「一姉の声が大きいせい」

「な、何で私のせいになるのかしら!?」


 意味が分からなかった。

 なんでこの人たちは朝から草抜きをしているの?

 他に学生の姿はないから、学校全体で掃除をしているわけでもなさそうだし……。

 困惑するあたしに、一姉たちは居心地の悪そうな顔を向けてくる。


「えーっと……話せば長くなるのだけれど……」

「理来が彩三のために無理をした。私達はそれを手伝ってる」

「あ、こら、二葉!」

「どういうこと……?」

「い、いやぁ、別に大したことはしてないぞ……?」


 絶対に嘘だ。センパイの嘘は一目でわかる。あたしが出会ってきたどの人間よりも、センパイは嘘を吐くのが苦手だから。


「ちゃんと説明してくれないと分かりませんよ!」

「そう言われてもな……」


 謎を解明するべく追求しようとしたところで、予鈴が鳴った。


「あ! ほ、ほら、そろそろ試験始まるんじゃないか? せっかくの再受験が遅刻で受けられませんでした、なんて笑えないだろ?」

「チッ……ちょうどいい言い訳を見つけましたね、センパイ……!」

「すっげえ睨まれてる! 助けて一夜さん!」

「どうしてそこで助けを求めるのが私じゃなくて一姉なの?」

「この流れで私が二葉に睨まれるのおかしくないかしら!?」

「もう、誤魔化さないで!」

「何で私が怒られるのかしらぁ!?」


 一姉が何か叫んでいたけど、そんなのは関係ない。

 何でこんな状況になってるのか説明してもらわないと――。


「彩三、とりあえず今は試験の方に集中してくれ」

「センパイ……」

「せっかく与えられたチャンスを生かさなくてどうする?」

「(それっぽいこと言って誤魔化そうとしてるわ)」

「(理来は往生際が悪い)」

「はいそこうるさい! 話が進まないからね!?」


 ひそひそと耳打ちし合う姉二人をセンパイは叱責すると、


「好きなことを続けるために今まで頑張ってきたんだろう? その成果を出さないと」

「…………」

「頑張れよ、彩三。今までの自分を信じろ!」

「っ」


 話を逸らそうとしてるとしか思えない。

 でも、センパイの言ってることは事実だ。

 今はとにかく、目の前の試験に集中しないと。


「わ、分かりました。でも、ちゃんと後で説明してもらいますからね!?」

「……ああ!」

「何ですか今の間は!? もー、絶対に、約束ですよ!?」


 煮え切らない態度の先輩に約束を押し付けたあたしは、自分に教室へと走り出す。

 言いたいことは山ほどある。

 でも、それはひとまずは後回しにしよう。


「センパイが応援してくれたんだ。絶対に大丈夫……!」


 こんなことで挫折なんてしてられない。

 あたしは、絶対に――陸上を続けるんだ!



「……あの子、本当に大丈夫なのかしら」

「病み上がりだから心配」

「大丈夫だよ。あんなに頑張ってたんだから」

「……後方腕組み先輩面やめなさいよね」

「二人だけで分かり合ってるみたいで、ちょっともやもやする」

「何でこの流れで酷いこと言われるんですか、俺!?」


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