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第52話 一緒にゲーム


 期末試験が近づいてくる中迎えた休日。


「今日はチートデイとします」

「チートデイ……?」

「つまり、今日の勉強は休み。好きなことして過ごしていいぞ」

「……マジですか?」

「大マジだ」

「やったー!!! お休みだー!」


 漫画のキャラのように飛んで跳ねての大喜びを見せる彩三に、思わず苦笑してしまう俺。


「最近勉強漬けだったからな。たまには脳を休めてやらないと」

「じゃあじゃあ、あたしちょっと走ってきますね! 夕飯までには帰ってくるので!」

「まだ朝なんだが……? ま、まあ、好きなことしていいって言ったし、いってこいよ。でも、オーバーワークだけはするなよ? ただでさえ疲れ気味なんだから」

「ふふふ。あたしを誰だと思ってるんですか? 天才アスリートの彩三ちゃんですよ? 自分の体調管理ぐらいおちゃのこさいさいですよ!」

「おちゃのこさいさいって今日日聞かねえな……」


 本当に令和の女子高生か、この子?


「じゃあ、ランニングいってきまーす! ひゃっほう! 陸上三昧だー!」


 勉強から解放されたことが嬉しいのか、異様なテンションで叫びながら外出していく彩三。めちゃくちゃ浮かれているけど、マジで事故とか遭わないよな……? ああいう時の油断こそが一番心配だ。

 まあ、それはそれとして、彩三が勉強をしないということは、俺の家庭教師としての仕事も一旦お休みになるということ。今日はそんなにやることもないから、新しい料理にでも挑戦しようか……。


「理来、いた」

「ん? おお、二葉。おはよう」

「おはよう」


 猫耳フードの部屋着を身にまとった二葉がリビングにやってきた。いつもの制服姿も可愛いけど、部屋着姿の二葉はまた別ベクトルで可愛い。思わず頭を撫でたくなってしまう可愛さだ。

 二葉は俺の方に近づいてくると、下からずずいっと俺の顔を見上げてきた。彼女の大きな目に吸い込まれてしまいそうな感覚に陥り、俺はついドキッとしてしまう。


「ど、どうした?」

「理来、今日は暇?」

「まあ、暇っちゃあ暇だな」


 新しい料理に挑戦しようかと思っていたけど、逆に言えばそれ以外にやることはない。しいて言うなら家事だけど、別に今すぐやらないといけないものはないしな。


「よかった……じゃあ、今から私と一緒に……ゲームしよ?」

「ゲーム?」

「(こくり)。最近、理来とあんまり一緒に遊べてないから……」

「あー……」


 言われてみれば確かにそうかもしれない。最近は彩三に付きっ切りだったから、二葉と遊ぶ暇がなかったんだよな。

 上目遣いで見てきながら、不安そうに瞳孔を揺らす二葉。そんな彼女に笑みを返し、そして安心させるようにフード越しに頭を撫でる。


「んっ……理来?」

「寂しい思いをさせちまってごめんな。今日は一日暇だから、思いっきり遊ぼうぜ」

「……うん! 理来のために、ゲームをピックアップしてきた。きっと楽しい」

「おお、それは楽しみだ」

「画面は大きい方がいいから、ここでやろう。ゲーム持ってくる」


 そう言うと、二葉は光の速さで自室に戻り、そして数秒足らずで戻って来た。


「セッティングするから、ちょっと待ってて」

「お、おう」


 目をキラキラと輝かせながらゲームの準備を進める二葉。俺はそれを後ろから眺めつつ、


「そういえば、一夜さんは今日いないんだっけ」

「ピアノの体験教室に駆り出されてる」

「あの人だけやってることが高校生じゃないんだよな……」


 天才ピアニストと一緒にピアノを体験しよう、みたいな感じの催しだって言ってたっけ。ピアニストとして後進育成は大事だから、とか言って家を出て行っていたけど……発言だけ聞くと引退したピアニストの老後みたいだな。


「準備完了。理来、そこに座って」

「へいへい」


 二葉に促されるがままにソファへと腰かける。そしてそれに続くように二葉が俺の膝の上に座ってってちょっと待て。


「二葉さん!? どこに座っていらっしゃるのでおられますか!?」

「ん? 理来の上」

「そんな『当然ですが?』みたいな顔してもダメだって! せめて隣に座ろう?」

「でも、ここが一番落ち着く」

「俺は落ち着かないんですぅ!」


 二葉の柔らかなお尻が俺の脚……正確には足の付け根当たりの相棒を刺激してとても居心地がよくない。熱暴走を抑え込むので必死である。

 頼むからどいてくれオーラを全力で発する俺に、二葉は可愛らしく首を傾げながら、


「……ダメ?」

「今回ばかりは可愛く言ってもダメ!」

「むぅ……分かった。理来がそう言うなら、隣に座る」


 どこか不服そうな顔で俺の上から降り、隣にちょこんと座る二葉さん。甘えたがりなところは最高に可愛いんだけど、距離が近すぎていろいろと勘違いしそうになるからやめてほしい。

 ゲームの起動画面がモニターに表示される中、二葉は俺にコントローラーを渡す。


「このゲームは協力系のFPS。迫りくるゾンビを一緒に銃殺しながらゴールを目指す」

「なるほど、ゲーセンにもあるタイプのやつか」

「そう、あるタイプのやつ」


 俺の言葉をオウム返ししただけなのに何でこんなに可愛いんだろうか、この子は。


「今からチュートリアルがあるから、そこで操作に慣れるといい」

「お、そのチュートリアルってやつが早速始まったみたいだな」

「的を銃で撃ったり手榴弾を投げたりできる」

「……んー、全然当たんねえ」


 こういう射撃ゲームは昔から苦手なんだよな。


「アナログパッドを動かしすぎかも。もっと小さく、手は添えるぐらいで」

「手は添えるぐらい……こんな感じか?」

「まだ力が入ってる。もっと、こう、優しくするように……」


 そう言って、二葉は横から手を伸ばし、それを俺の手の上に重ねた。一気に距離が密着したせいで、彼女の豊満な胸が俺の肘にこれでもかってぐらいに押し付けられる。人体の奇跡と言っても過言ではない圧倒的な柔らかさの感触に、俺の心臓が激しく脈動し始めた。


「っ……」

「ん、力が入り過ぎ。もっと力を抜いて」

「お、おう」

「ん、そんな感じ。……どうしたの? 顔が赤いけど」

「な、なんでもありませんのことよ!?」


 あなたのおっぱいがとても柔らかいせいです、なんて口が裂けても言えない。


「今の状態で的を撃ってみて」

「えっと……おお、さっきよりも当てやすくなったぞ」

「よかった。リラックスしてないと変な力が入るから」

「教えてくれてありがとな」

「理来にも楽しんでほしいから」


 本当にええ子や……こんなに可愛くて性格が良い美少女と一緒にゲームができるだなんて、もしかしたら俺は前世で世界を救っているのかもしれない。

 二葉は俺と話しながらコントローラーを操作し、ゲームをステージ選択画面へと移行させる。


「そろそろ始める?」

「おう。いつでもいいぞ!」

「それじゃあスタート。一緒に頑張ろう」


 二葉がステージと難易度を選んだところで、ついにゲームが始まった。

 古めかしい洋館が映り、プレイヤーキャラ二人が中へと足を踏み入れる。その直後、大勢のゾンビが物陰から飛び出し、こちらに飛びかかってきた。


「うおおお!? いきなりアクティブ過ぎねえ!? ゾンビって歩くんじゃないのか!?」

「最近のゾンビは動きが激しい。走るし武器を使うし言葉も理解する。変わり種だとサメがゾンビになることもある」

「ゾンビの進化著しいな!?」


 そんなことを叫んでいる間にも、ゾンビはどんどんこちらへの距離を詰めてくる。


「くそっ……うおおおお来るなー!」


 俺は必死にエイムを合わせてゾンビを迎撃していく。しかし、数があまりにも多いせいで全然突破口が開けない。

 このままじゃゲームオーバー……そう思った、まさにその瞬間。


「理来は私が守る」


 ズダダダダ! というマシンガンのような音が隣から聞こえてきた。反射的に横を見ると、二葉が目にも留まらぬ速さでコントローラーを操作していた。目にも留まらぬ、というのは表現でも何でもなく、マジである。彼女の指は俺の動体視力では捉えきれないほどの速度で動き回っている。


「……はい、全滅。奥に進もう」

「二葉さんマジカッケーっす!」


 眉一つ動かさずにゾンビを一掃した二葉さん。これが天才プロゲーマーの実力か。

 しかし、俺も負けてはいられない。サポーターとして、少しは彼女の役に立たなくては。


「次が来た。理来、右の敵をお願い」

「おう、任せとけ!」


 少しは慣れてきているのか、さっきよりもエイムが安定し、ゾンビの殲滅にもスピード感が出てきた。あんまり射撃系のゲームってやってこなかったんだけど、弾が当たり始めるとかなり楽しいなこれ。爽快感が凄まじい。


「こっち終わったぞ!」

「私も倒した。いい調子」

「まあ、二葉がほとんど倒してくれてるからだけどな」

「そんなことない。理来のおかげ」


 お互いを褒め合いながら、迫りくるゾンビを倒していく。二葉という圧倒的な味方がいてくれるおかげで、ゲームはとても順調に進んでいた。


「そろそろボス。銃弾のリロード、忘れないで」

「イエス、マム!」


 洋館の最奥まで進んだ俺たちを待っていたのは、背中から無数の触手を生やしたいかつい巨ゾンビだった。これ、本当に銃ひとつで倒せる敵なのか……?


「触手を撃って数を減らしたら弱点が露出する。そこで一気に銃弾を浴びせて」

「ギミック系の敵なのか。了解!」


 二葉に言われた通り、背中の触手を撃って削っていく。的が小さく、しかもめちゃくちゃ動き回るせいでかなり当てづらかったが、なんとかすべての触手を撃破することに成功した。


「弱点が出た」

「うおおおおお!」


 脈動するやけにグロい心臓みたいなオブジェクトに向かって一気に銃弾を浴びせていく。弾がなくなったらすぐにリロードし、時間の許す限り連射する。

 そしてそろそろ弾丸がなくなりそうになった頃、二葉がオブジェクトに向かって手榴弾を投げると、王ジェクトが爆散。巨ゾンビが雄叫びを上げながら霧となって消えていった。


「……倒した、のか?」

「(こくり)。ステージ1、クリア」

「おお、クリアか! やったな二葉! いえーい!」

「いえーい」


 達成感に包まれながら、二葉とハイタッチをする。


「いやぁ、難しいけどかなり楽しいなこのゲーム」

「一人でも出来るゲームだけど、理来と一緒だからいつもよりも楽しい」

「足手まといになってたらどうしようと思ってたけど、楽しいって思ってもらえてるんなら良かったよ」

「でも、盛り上がってきたから、ちょっと熱い……んしょ……」


 そう言うと、二葉は上着を脱ぎ捨て、薄いシャツ一枚だけになった。そのあまりにも煽情的な姿に、つい目を奪われてしまう……けど、気になることが一つ。

 シャツの中、特に胸元あたりが薄く肌色に透けているように気がするんだけど……もしかしてこれ、下着とかつけてなかったり……いやいや、きっと気のせいだ。流石の二葉でも、異性の前でノーブラでいるはずが――


「ふぅ……暑い……」


 シャツの襟を引っ張り、手で中に風を送る二葉。肩の辺りに見えるべきブラジャーの紐が見えなかった。……これマジでノーブラじゃねえか!


「? 理来? どうしたの?」

「な、何でもないわよ!?」

「そう? じゃあ、続き、やる?」

「お、おう。早くやろう! 俺の理性が崩れる前に!」

「?」


 とにかく二葉の方を見ないようにしよう。シャツ越しに見えてはいけないピンク色の小さく丸い何かが見えてしまった気がするけど、ただの見間違いに決まっている。俺は何も見ていない。見ていないったら。


「分かった。次も頑張ろう」

「全部倒すぜ!」


 俺の邪な気持ちと共に。





  ★★★





 その後、二葉と一緒にゾンビを倒しまくった結果、ついにメインシナリオをクリアすることに成功した。


「ふぅ……めちゃくちゃ面白かったな……」


 ゲーム性はもちろんのこと、シナリオもかなり良かった。途中なんかストーリーに見入ってしまったせいで何度か死にそうになったし。

 テーブルの上にコントローラーを置き、凝り固まった背筋を伸ばす。

 そんな俺の顔を二葉は横から覗き込みながら、


「理来、楽しんでもらえた?」

「ああ。めっちゃ楽しかった。二葉も楽しかったか?」

「うん、楽しかった。でも……ちょっと疲れた」


 そう言いながら、二葉は何故か俺の脚の上にぐでーと倒れてきた。俺がちょうど胡坐をかいていたので、膝の上に頭を置く、俗に言う膝枕の姿勢になっている。

 ……どうでもいいけど、今の動作の中で彼女の胸が大きく揺れていました。どたぷん、という擬音が聞こえてきた気がする。ありがとう、神様。


「……理来、顔が赤い」

「き、気のせいだって」

「ゲーム中も様子がおかしかった」

「そ、それは……ふ、二葉にドキドキしてたんだよ」

「私に? どうして?」


 俺の膝の上で首を傾げる二葉。

 ここは変に誤魔化さず、正直に言った方がいいだろう。


「あの、さっき上着を脱いだだろ? それで……肌とかちらちら見えて、落ち着かなくてさ……」

「私の肌が見えると落ち着かないの?」

「ま、まあな。年頃の男としては、どうしてもドキドキしちまうんだよ」

「……もしかして、私の事、意識しちゃったの?」

「そ、そうだよ。でも、仕方ないだろ! 君は可愛いし、スタイルもいいからさ。意識するなって方が無理だよ」

「そっか……ふふ、そっか、そっかぁ……理来、私にドキドキしてたんだ……♪」

「ふ、二葉さん? ……わっ、と……!」


 二葉は体を起こしたかと思ったら、そのまま俺の首に手を伸ばし、勢い良く抱き着いてきた。むぎゅー、っと体を押し付けられ、俺の理性がアラートを鳴らし始める。


「ふ、二葉!?」

「理来はドキドキしてくれて、嬉しい……もっと、ドキドキして?」

「ど、ドキドキしてって……」

「理来がドキドキしてるのを見ると、私もドキドキする。ほら、私の心臓、ドキドキしてるの……分かる?」


 そう言いながら俺の胸板に胸を押し付けてくる二葉さんですが、残念ながらドキドキしてるのかどうかまでは俺には分かりません。だってそれどころじゃないもん! 理性が、理性がご臨終する!


「と、とりあえず、降りてくれないか? このままだと、えっと……いろいろとまずいからさ……」

「理来は私に抱き着かれるの……イヤ?」

「それずるいってぇ! 嫌なはずないじゃん!」


 俺は自分に正直な男、加賀谷理来。誰か俺を殺してくれ。


「ふふっ♪ 私は理来にくっつくの、好き」

「ああああああああまずいまずいまずい」

「理来の身体大きい……もっと、ぎゅーってしていい……?」

「ぐっ、ガ、ァッ……!」


 もう駄目だ。これ以上は耐えられない。駄目だ、誰か助け――


「あ、あなた達、白昼堂々と何をしているの!?」


 俺の理性が雲散霧消しそうになっていたまさにその時、救世主が現れた。

 ピアノの体験教室に駆り出されていたはずの長女、天王洲一夜サマがご帰還なされていた。


「何って……理来に抱き着いてる」

「そんなの見たら分かるわよ! 家族の共有の場でそ、そんないやらしいことをするなって言っているの!」

「いやらしい? どこが?」

「純粋な瞳でこっちを見るな! ああもう、この天然エロ娘は本当にもう……」

「エロ……? よく分からないけど、一姉がむっつりだから、勘違いしてるだけじゃない?」

「ぷっつーん。あ、あああああ、あなた、言ってはいけないことを言ったわね!? この抜け駆け女! いいから早く理来から離れなさーい!」

「やー」

「やー、じゃない!」


 二葉の腕を掴んで引き剝がそうとする一夜さんと、それに抵抗するべくより強い力で俺に抱き着いてくる二葉。

 美少女達から取り合いをされるこの幸せ空間をもっと堪能したい気持ちはあったけど、これ以上は理性が持たないので、俺は静かに意識を失うことにしたのだった。


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