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第40話 二人きりの室内で


 二人きりの室内で、苦悶の声がぽつりと漏れる。


「センパイ……はぁ……もう無理です。これ以上は、あたし……」

「なに言ってんだ。まだ始めたばかりだろ」


 小麦色の肌とふわふわした茶髪を持つ少女が、苦しそうに吐息を漏らす。

 そんな彼女の目を真っ直ぐと見つめながら、俺は辛らつな言葉を返した。


「だって、あたし、こういうの慣れてなくて……無理……」

「仕方ないな……それなら、少し方向性を変えてみるか……」

「えっ、まだやるんですか? もう、勘弁してください……!」

「駄目だ。途中で終わるなんて、絶対に許さないからな」

「そんな……もう無理です。だって、だって――」


 迫る俺から逃げるように顔を逸らしながら、少女――天王洲彩三は天に向かって叫びを上げる。


「――あたし、勉強嫌いなんですもん!」


 二人きりのリビングで、嫌悪の声が反響する。

 家の外から徐々に虫の声が聞こえ始めた夏目前。

 自他共に認める凡人である俺・加賀谷理来は、天才美少女三姉妹の三女・天王洲彩三に勉強を教えていた。


「いいから口よりも先に手を動かせって。今日はその問題集が終わるまでは外に出さないからな」

「みぃーっ! センパイのいじわる! 陸上バカのあたしから陸上を取ったら、一体なにが残るというんですか!?」

「バカだけが残らないためにも勉強頑張ろうな」

「辛辣! こんなに可愛い後輩にそんなひどい事を言って、心は痛まないんですか!?」

「あ、そこの答え間違ってるぞ。はいやり直し」

「ぴぎぃっ!」


 両目から大粒の涙を、そして口からは嗚咽を垂れ流しながら、天才陸上少女は自分の書いた数式を消しゴムでいそいそと消していく。

 どうして凡人の俺が天才である彼女に勉強を教えることになったのか。


「うっ、うっ……どうしてあたしがこんな目に……あたしは陸上だけを頑張りたいのに……えぅえぅ……」


 ……情けない天才(陸上バカ)の泣き言をBGMに、ここに至るまでの経緯を思い出すこととしよう。


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