第37話 長女の逆襲
邪念に負けたが最期、命を失う可能性が出てきた。
「次こそは私が王様よ!」
「王様はずっと私。誰にも渡さない」
「センパイにどんな罰ゲーム受けさせようかな~」
テーブルに置かれたくじを中心に、三姉妹がテーブルを囲んでやいのやいのとそれぞれの思惑を口にする。今日はハッピー理来デーのはずなのに、何故こんなにも震えが止まらないのだろうか。
そもそも、俺たちは今日、学校をサボってわざわざ何をしているんだろうか。本来であれば授業を受けなければならない普通の平日に、こんなバカみたいなことを……。
「ははっ」
「理来? どうしたの?」
「あーいや、楽しいなって思っただけだよ」
「ん。それはよかった」
そう。
バカみたいなことだけど、めちゃくちゃ楽しい。
才能とか地位とか実績とか関係ない、みんなで同じ立場に立ちながら同じゲームをするというこの状況。
まさに家族で過ごす休日に似たものを感じる。まぁ、俺は親父と妹と、そしてあの人ともそういうことはあまりしてこなかったんだけど。
「じゃあ次のくじを引こっか」
彩三の号令を受け、みんながくじに手を伸ばす。俺も考え事を止め、同じようにくじのひとつを掴む。
「それじゃあいくよ! せぇーっの――」
「「「「――王様だーれだ!」」」」
引き抜かれたくじの先に視線をやる。書かれていたのは数字の「三」。チッ、また外したか。王様の権利はいったい誰の手に渡ったんだ――
「お。次はあたしが王様だー」
「何でよぉおおおおおおおおおお!」
ケラケラと笑いながら喜び彩三と、この世の終わりのような叫びと共にその場に崩れ落ちる一夜さん。
何故か涙を流している一夜さんを見下しながら、彩三は人を小馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「ぷーくすくす。一姉は運が悪いねぇ」
「あ、あなた、細工してるんじゃないでしょうね!?」
「そんなことしないもーん。一姉が運に見放されてるだけだって。よっ、アンラッキーガール!」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎ」
本当に仲いいなこの姉妹。
「彩三。それよりも早く、命令」
「あ、そうだったそうだった」
彩三はぐるりと家族全員を見渡すと、
「それじゃーあ、一番は自分が隠している今最も恥ずかしい秘密を話す、で!」
「彩三ぃいいいいいいいいいいい!」
本日何度目かもわからない一夜さんの絶叫が家中に響き渡った。
「あ、一姉だったんだ。ぐーぜーん」
「あなた、やっぱり細工してるでしょう!? ねえ!?」
「してないよー。一姉の手元のくじが捲れちゃって数字が見えてたとか、そんな理由はないよー」
「それはズルじゃないのかしら!?」
今にも彩三に掴みかかりそうな一夜さんを、俺と二葉は左右それぞれから羽交い絞めにする。
「どうどう、落ち着いてください一夜さん」
「ん、落ち着くべき」
「これが落ち着いていられるもんですか!」
「王様の命令は絶対ですよ。大人しく秘密を話しましょう」
「どんな秘密でも受け止める。だって、私達は家族だから」
「あなたたち、さては私の秘密を聞きたいだけね!?」
当たり前だろ。
「さあ、観念するんだ一姉! 告白が長引けば長引くほどどんどん恥ずかしくなるだけなんだからね!」
「一姉の秘密を肴にコーラを飲む準備は出来てる。さあ、早く」
「いっき! いっき!」
「あなたたち、後で覚えておきなさいよ……!」
これが終わったらちゃんと土下座しておこう。せっかく家族として認められた日に早速命を奪われてしまったらたまったものじゃあない。
一夜さんは顔を真っ赤にしながら、全身を小刻みに震わせる。怒りと羞恥、そしてやるせなさに支配されているであろう彼女は、麦茶を一気飲みして自分を落ち着かせると――声を震わせながらついに口を開いた。
「わ、私は……たまに深夜に起きた時、理来の部屋に行ってこっそり寝顔を見たりしています……」
「「…………うわぁ」」
「なによ、なによ! なによその反応! せめて笑いなさいよ!」
「いや、だって……ねぇ?」
「思っていたよりガチなのが出てきた。ドン引き」
「うわああああああああん!」
ついに一夜さんが顔を両手で覆いながらテーブルに突っ伏してしまった。その激しい動きの最中、バニコスの胸元から見えてはいけないものが見えた気がしたけど、俺はあえて指摘しなかった。こういうのは心の中にしまっておくに限る。
「分かってたけど、やっぱり一姉はムッツリ。ムッツリピアニスト」
「いつもはあんなに清楚可憐な優等生を演じてるくせにねぇ。初心なフリして、実はタブレットにえっちな漫画を何冊もダウンロードしてるみたいだし」
おんおんと泣きわめく長女の新たな秘密が三女によって白日の下に晒されていた。やめたれよ、かわいそうだろ一夜さんが。
流石にこれ以上は見ていられないので、一夜さんを慰めることにしよう。こういう時にサポートができるのが、加賀谷理来という男なのだということをみんなにアピールするいいチャンスだ。
俺は椅子から立ち上がり、一夜さんの傍へと移動し、露出された肩にそっと手を添える。
「理来……?」
「あ、あの、えっと……流石の俺も、寝顔を見られるのは、その……恥ずかしいかな、って……」
「うわあああああああん! もう殺してええええええええ!」
「えぐいですねセンパイ。まさかあそこからトドメを刺しにいくとは」
「理来、恐ろしい人」
いや違うねんて。華麗に励まそうとは思ってたけど、恥ずかしさが勝っちまっただけなんだって。
「まあまあ、秘密のひとつを暴露しただけなんだから、そう落ち込む事ないって」
そんな事を言いながら、次のくじの準備をする彩三。多分こいつには人の心というものがないんだと思う。
彩三が用意したくじをみんなで掴み、掛け声とともに選び引く。
「「「「王様だーれだ!」」」」
俺が引き抜いたくじは「二番」のくじ。マジで全然王様になれないな。
「やったあああああああああああ!」
そして両手を上げて飛び跳ねながら喜ぶのは一夜さん。その手には王様の印がついたくじが握られていた。
「さあ、私の時代が来たわ! 彩三、あなたに引導を渡してあげる!」
「ふふん。そうは言うけど、あたしが何番なのか分からないと意味がな――」
「三番」
「……………………ごめんちょっと急用を思い出し」
「「「逃がすかァッ!」」」
逃亡を図ろうとした愚か者を三人がかりで押さえつけた。
俺と二葉が左右それぞれから彩三を押さえつける中、一夜さんは女帝のような笑みを浮かべながら逃亡者を上から見下ろす。
「さて、どんな命令をしてやろうかしら」
「ご、ごめっ、ごめんなさい! あたしが悪かったから! だからここは平和にいこう!? ラブアンドピース! ラブアンドピース!」
「……そうね。私も鬼じゃあないわ。あなたの姉として、加減ぐらいはしてあげましょう」
「い、一姉……!」
美しい。これが姉妹の絆というものか。
「ところで二葉。あなたのコレクションの中で一番露出が多いものは何かしら?」
「マイクロビキニ」
「なるほどね、ありがとう。じゃあ、三番はマイクロビキニを着るということで」
「一姉! 一姉!? 待って、それはおかしいよ! 恥辱のジャンルが変わってくるから! そ、それに、センパイがいる前でそんなえ、えっちな格好なんて……」
「あら、何を言っているのかしらこの子は。忘れたの? 王様の命令は?」
「……ぜ、絶対、です」
「二葉。そこの愚か者を着替えさせてきなさい」
「分かった。ほら、行くよ彩三」
「い、いやだーっ! このあたしが、そんなバカみたいな恰好……せ、センパイ助けてーっ!」
意外と力が強い二葉に首根っこを掴まれ、ずるずると部屋まで引きずられていく彩三。彼女が着替えたら、この場にバニーガールが二人とマイクロビキニの変態女がひとりという地獄絵図が完成する訳だけど、あえて俺は何も言わなかった。
だって、ほら。目の保養になりますもの。
【あとがき】
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まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!




