第36話 シリアスの後には王様ゲーム
シリアスな話の後、テーブルの上にあった料理をそこそこ食べ終えた頃。
ひとりだけバニーガールコスから逃げている彩三が、椅子からいきなり立ち上がり、こう言った。
「固い話が終わったところで、王様ゲームしよっか!」
「もっとムードとか大事に出来ないのかこの脳内万年陸上女!」
「いそいそ、いそいそ……」
「そして二葉は黙々とクジの準備を進めるんじゃない!」
「王様ゲーム……私が王様になれば、理来と……えへへ、えへへへへ」
「戻ってきてください一夜さん! あなたが壊れちゃったらもう収集つけられないですって!」
おかしいなー。さっきまで凄くイイ雰囲気だったんだけどなー。
バニーガール二人と陸上バカが、料理をテーブルの上から冷蔵庫へと凄まじい速度で運び込んでいく。俺が呆然とするたった三十秒ほどの間に、テーブルの上には四人分のくじと十枚ほどの謎のカードが置かれていた。
「ふっふっふー。こういうこともあろうかと、王様ゲームセットを予め用意しておいたんです!」
「さっきあんだけ慰めてもらった手前すげー言いづらいんだけど言わせてくれ。バカじゃねーの!?」
どういう事態を想定していたら王様ゲームセットなんて用意しようと思うんだ。やっぱり天才の考えることは分からねえ!
「彩三。ルール説明をお願い」
「そして一夜さんは何でそんなにやる気に満ち溢れてるんですか」
「理来。この世にはね、絶対に負けられない戦いというものがあるのよ」
「ピアノより真剣になってません?」
こんなに真面目な一夜さん見たことないんだけど。さっきのシリアスの時より顔怖いんだけど。
「理来とにゃんにゃんするのは私。これは確定事項」
「にゃんにゃんって何だよ。意味不明な擬音使うなよ」
「私は天才ゲーマー。ゲームと名の付く勝負において、私の敗北はありえない」
「これそういうゲームじゃないからな!?」
飲み会とかで酔っ払いが場を盛り上げるためにやる余興みたいなもんだから。こんなものにゲーマーとしてのプライドをかけようとするのやめた方がいいと思うんだよね。
「ふっ……じゃあルールを説明するよ。一度しか言わないから、ちゃんと聞いててね?」
「「(ごくり……)」」
なんか姉妹が固唾を吞んでるけど、もしかしてエスポワールか何かに乗せられてる? これから限定じゃんけんとかやらされたりする?
「王様ゲームのルールはね……くじ引いて王様になった人が他の人に命令を下す、以上!」
「面倒だからって説明端折るな!」
「えー。だって王様ゲームなんてどこもルール同じですよ。王様が数字を指名して命令してそれに従う、ってだけで終わる話ですって」
「それを最初から説明しろよ!」
「え、何なんですかその熱意。もしかして、実は一番やる気あります? いやん、センパイったらえっちなんだから。一姉と二姉のバニコス見て興奮したんですかぁ?」
「決めたわ。俺絶対に王様になって君に痛い目を見せてやる」
「やれるもんならやってみてくださいよ。まあ、センパイ如きが王様になれるとは思いませんけどねぇ!」
やる気は皆無だったけど、目標が生まれたからには本気でやるしかあるまい。
「理来。私怨で王様ゲームに参加するのは良くないわよ? やるからにはえっちなお仕置きを考えておかないと」
「文脈全然繫がってませんけどもしかして酔ってます?」
「大丈夫。理来の分のバニーガールコスもちゃんと用意してる」
「何が大丈夫なんだよ!」
負けられない理由がまた一つ増えてしまった。
「はいはい。みんなくじを選んでねー」
彩三が差し出した四本のくじに、それぞれが指を添えていく。
全員がくじを選び終えたところで、彩三はニィと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「それじゃあいくよ、せーっの――」
「「「「――王様だーれだっ!」」」」
勢いよく引き抜いたくじの先っぽに視線をやる。俺に与えられた役目は――
「ぶい。私が王様」
「「ちっくしょぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
血の涙を流すレベルで悔しがる長女と三女。王様になれなかった悔しさはあるけど、熱量では完全にふたりに負けている。……いや冷静に考えて悔しがりすぎだろ。
二葉は王様の印が書かれたくじを満足げに掲げながら、
「それじゃあ命令。理来は王様にハグをする」
「待て待て待て待て」
あまりの暴君っぷりに思わず中止を呼び掛けてしまった。
「理来。早く」
「なに粛々と進行しようとしてんだ! そもそも名指しで命令するのはルール違反だろうが!」
「誤差だから大丈夫。気にしないで」
「ガッツリ間違えてるからぁ! ゲーマーならちゃんとゲームのルールを守ろう! な!?」
「むぅ……分かった」
ゲーマーというワードを持ち出しただけで、二葉はあっさり納得してくれた。割と便利かもしれないな、このワード。今後も何かあったら積極的に使っていこう。
二葉は「むん……」と可愛らしく数秒唸ると、何か思いついたように再びくじを掲げた。
「それじゃあ、二番が王様にハグをする」
「あ、二番あたしだ」
「…………じゃあ一番が私に」
「虱潰しにしようとするな!」
数字を片っ端から潰していくのは横暴が過ぎるだろ。
「二葉。自分で命令したんだから大人しく彩三とハグしなさい」
「くっ……不覚……!」
「その態度されるとあたしが傷つくんだけど!」
歯噛みする二葉と不服そうな彩三が同時に席を立ち、テーブルの横へと歩いていく。
「……いつでもどうぞ」
「二姉のおっぱいにくっつけるなんて役得だなぁ」
二人は互いの背中に手を回し、ぎゅーっと密着した。彩三の薄っぺらい胸板に二葉の巨乳が押し付けられ、とても卑猥な形に歪んでいく。
「…………」
「理来。二葉の巨乳を少しでも羨ましいと思ったら蹴り飛ばすわよ」
「そのような邪念は一切抱いておりません」
命の危機まで発生し始めた王様ゲーム。
俺は果たして、この余興は終わるまで生き残ることができるのか。
次回へ続く!!!
【あとがき】
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まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!