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第33話 姉妹たちは手を取り合う


 理来が部屋から出てこなくなった。

 原因は考えなくても分かってる。

 公園で、理来がお母さんらしき人と出会ってしまったことだ。


「私たちのいない間にそんなことがあったのね……」

「センパイ、確かに母親がいないみたいなことをサラッと零していた記憶はあるね……」


 レッスンと部活を終えて帰ってきた一姉と彩三に、理来が部屋にこもるまでの経緯を説明したら、そんな反応が返ってきた。

 私を含めた三人は今、ダイニングテーブルを挟んで顔を突き合わせている。いつも四人でご飯を食べている場所だけど、今は理来の席だけ空いていた。


「私が別の道で帰るように促していれば、あんなことは起きずに済んだかもしれない」

「そんなタラレバ話をしても仕方がないわ。運が悪かった。それだけの話よ」


 一姉はそう慰めてくれるけど、私は後悔しかしていない。理来に寄り道を提案していれば、もう少し教室でお話ししてから学校を出ていれば……考えれば考えるほど、こうしておけばよかったが次々に出てきてしまう。


 これがゲームだったら、すぐに攻略できるのに。

 現実だと、どうすればよかったのか……正しい答えが見つからない。


「センパイを元気づけてあげたいけど……どうしたらいいんだろう?」

「生半可な言葉じゃあ、送ったところで逆効果でしょうね」


 理来がどれだけ苦しんでいるのかなんて、私たちには分からない。そんな状態で「元気出して」なんて言っても、逆に苛立たせてしまうだけ。


「……理来は、いつも私を元気にしてくれる」


 ふと、そんなことを口走っていた。

 そのまま、私は言葉を続ける。


「私が教室でひとりだった時に、理来は私の友達でいようとしてくれた。理来は自分で迷惑だったかもって言ってたけど、そんなことない。理来が話しかけてくれたから、私は学校が楽しく思えた」

「二葉……」

「私は、理来を元気にしてあげたい」


 そう。それが私の本音。

 だって、理来は、私の友達で、クラスメイトで、そして――


「――理来は大切な家族だから」


 血は繋がっていないけど、そんなこと関係ない。

 一緒の家で暮らして、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にゲームをして……本当の家族みたいに、ここ数日過ごしてきた。

 家族が落ち込んでいるなら、私にできることをしてあげたい。


「……ふふっ。二葉に先に言われてしまったわね」

「本当だよ。あたしから言い出そうと思ってたのになー」


 私の言葉を聞いた二人が、やれやれといった様子で肩をすくめる。


「理来が私にしてくれたことは両手じゃ数えきれないわ。いい機会だし、この辺りで恩返しをしておくのも悪くないわ」

「あー、また素直じゃない言い方してー。最近はセンパイにデレデレなくせにー」

「なっ……そ、そんな事実は確認されていないでしょう!?」

「確認されてますー。そこまで言うならバラしちゃおうか? センパイがお風呂に入ってる時、一姉が脱衣所で――」

「わーわー! な、なんで知ってるのよ!? 誰にも見られていないと思ってたのに!」

「あたしもお風呂に入ろうとしてたタイミングだったからに決まってるじゃん。あーあ。清楚で完璧な天才美人として通ってる一姉が、まさかあんな変態みたいなことをするとはねー。妹としてがっかりだなー」

「くっ……言わせておけば……! あなただって、理来の使用済みのシャツを夜な夜な部屋に持ち込んでるくせに!」

「ぶーっ!? な、ななななな……何故それを!?」

「ふっ……私の耳の良さを甘く見ないことね!」


 さっきまでの静寂はどこへやら。姦しい言い争いを繰り広げる一姉と彩三。

 事の成り行きを見守っていると、一姉が強制的に喧嘩を終わらせ、話を強引に戻してきた。


「と、とにかく! 理来を元気づけるための作戦をまずは考えましょう。こういうのは無計画でやると痛い目を見るものなんだから」

「そうだね。じゃあ今からみんなで意見でも出しいこっか。あたし議事録とるよ、議事録」

「……二人とも、ありがとう」

「なに言ってるのよ。私たちもそうしたいって思ったから、やってるだけなんだから」

「そうそう。二姉に言われなくても、結局こうしてたって」


 私は本当に、いい姉妹を持ったと思う。

 それぞれの道が違うから、疎遠になった時もあったけど。

 今こうして、私たちの家族の絆を深めてくれた男の子を救うために、手を取り合うことが出来ている。

 私は、天王洲家の次女として生まれて、本当に良かった。


「みんなで、理来を元気にしてあげよう」

「もちろんよ」

「あたしたちの本気を見せてやろー!」


 私たちは拳をぶつけ合い、お互いに笑みを浮かべる。

 家族のことで落ち込んでいる理来を励ますための戦いが、こうして始まった――


 ――それはそれとして。


「一姉、彩三。さっきの話について、後でお説教」

「うっ。そ、その話は一旦聞かなかったことにしない?」

「そ、そうだよ。今は姉妹仲良く協力する流れだから、ね?」

「後でお説教。――分かった?」

「「……はい」」

【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


もし「話が面白い!」「ヒロイン可愛い!」と思っていただけましたら

作品のフォロー、評価などしていただけるととても嬉しいです。


モチベーションが爆上がりになります!


まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!

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