第30話 自覚する長女
本日より、三姉妹の名前を以下のように変更させていただきます。
変更と言っても、カクヨム版の時と同じ名前に戻す形となります。
よろしくお願いいたします。
長女:天王洲真弥→天王洲一夜
次女:天王洲双葉→天王洲二葉
三女:天王洲愛美→天王洲彩三
「今日は私の都合に付き合わせちゃってごめんなさいね?」
一夜さんのピアノの演奏を聴いて、その後に少し二人で談笑した後。
俺達は店を後にし、自宅への帰路についていた。
「いえいえ。俺なんかが一夜さんの役に立てたんなら満足ですよ。それに、俺個人としても、今日のデートはかなり楽しかったですし!」
「ふふっ。それはよかったわ」
一夜さんのような美人とデートできるだけでもかなり幸運なのに、彼女のピアノの演奏をタダで聴ける機会まで与えられてしまった。もしかしたら明日、俺の部屋に隕石でも降ってくるのかもしれない。
夕陽はすっかり沈み、辺りはすでに漆黒色。一夜さんが「帰り着くまでがデートだから」と言うので、先刻と同様に俺達は手を繋いだまま歩を進めている。
「そういえば、どうだったかしら。私の演奏」
「いやもうすげえよかったです! 聴いててほわほわするというか、なんだか心臓がドキドキする感じがして……ショパンもあんな気持ちだったのかなって、いろいろと想像しちまいましたよ!」
「あなたみたいな子がそう素直に感動できるなら、コンクールでもちゃんといい結果を出せそうで安心するわ」
「ですね! ……え、もしかして今馬鹿にされました?」
「さあ。どうでしょう?」
「馬鹿にしましたよねぇ!?」
「あははははっ!」
思わずツッコむと、一夜さんは口元を押さえながら子供みたいに笑った。年上のお姉さん然とした一夜さんからは想像できない無邪気な笑い方に、俺は思わず見惚れてしまう。
一夜さんはひとしきり笑った後、目尻に浮かんだ涙を指で拭うと、
「は~……あなたと一緒にいると本当に退屈しないわね」
「素直に喜んでいいのか判断がつかない……!」
「喜んでいいに決まっているでしょう? なんといったって、天王洲家の長女にして天才ピアニスト、この天王洲一夜に褒められたのだからね」
「ほなそういうことにしておきますか……」
釈然としないところではあるけど、一夜さんがそう言うならここは大人しく引き下がっておくことにしよう。俺は自分の立場を弁えられる男だからな。
「あ、そうだ。これは言い忘れていたのだけれど、今日のデートで何をしたのかとかは、ニ葉たちには内緒にしておいてね」
「別にいいですけど……どうしてですか?」
「決まっているじゃない」
一夜さんはやや頬を朱に染めながら、空に浮かんだ月をバックに、それはもう綺麗で無邪気な笑みを浮かべる。
「――私とあなた、二人だけの思い出にしたいもの」
★★★
理来とのデートから家に帰って、数時間後。
夕飯もお風呂も何もかも終えた私は、リビングのソファでスマホの画面を見つめていた。
画面に映し出されているのは、理来と二人で撮った写真。
私と理来がハート形のストローをそれぞれの方向から一緒に咥えている写真だ。
「……楽しかったなぁ」
本当に楽しかった。
男の子とデートをするなんて初めてで、年上として上手く接せられていたかも分からないけれど、今日は本当の本当に楽しかった。
二人で一緒に楽器に触ったり、私の蘊蓄を理来が聞いていちいちオーバーリアクションしてくれたり、そして――一緒にジュースを飲んだり。
極めつけは、理来のためにピアノを演奏したり……私の人生のノートには今まで書かれてこなかったいろんな初体験を今日、たくさん書き綴ることができた。
理来がウチに居候として住むようになってから、私の人生は大きく変わった気がする。
初体験の連続で、あんなに退屈だった毎日が最近は色づいて見えている。
『あなたのおかげで、恋心がどういうものなのか――ちゃんと、理解できたから』
私はあの時、理来にそう言った。
無意識のままに口にしたし、口にした後はかなり恥ずかしかったけれど。
デートを終えて、家に帰って、改めてこの写真を見つめて……私はようやく自覚した。
そう。
自覚してしまった。
この気持ちが知られてしまったら、うるさい妹達からなんと言われるだろう。ニ葉からは圧をかけられそうだし、彩三からはきっとからかわれる。
理来には……知られるわけにはいかない。
私が今まで一度も抱くことのなかった、この――
「……何で顔が熱いのよ、馬鹿」
――淡く儚い恋心は。
【あとがき】
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まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!