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第2話 意外なところに天才

「うん……ちょっと固いけど、寝られないほどじゃないな……」


 放課後。

 みんなが部活や寄り道に向かう中、俺は学校近くの公園で、ベンチの寝心地を確かめていた。


「よし、決めた。今日はこのベンチが俺のベッドだ!」


 ベンチの上に学ランをかけ、疑似的なベッドを作り出す。見栄えは悪いが、まあ悪くはない。


「いっくしゅ! ずずっ……寒くなってきたな……」


 夏が目の前まで迫ってきているとはいえ、まだまだ夜はかなり冷える。午後六時なのにもう辺りは薄暗いし、こんなところで野宿をすれば高確率で凍死してしまうかもしれない。 

 友人の家に泊まることも考えたが、こんなことで迷惑なんてかけられない。火事で家を失っただけでも悪目立ちするのに、友人の家を転々とする遊び人なんて尾ひれがついてしまったら残りの学生生活がパーになりかねない。


「今日一日でいいんだ。今日を耐えれば、親父が家を見つけてきてくれる……!」


 そう。今日を乗り越えさえすればいいんだ。どれだけ寒かろうが、まあ一日ぐらいなら耐えられるはず。

 学ランを敷いたベンチの上に腰を下ろし、緋から黒へと染まりゆく空を眺める。気が抜けてしまったからか、腹の虫が切なそうに鳴った。


「……そういえば、昼からなんにも食ってねえんだったわ」


 通帳もカードも焼けてしまったから仕方がない。手続き関係も親父に一任しているから、今がどんな状況なのかもわからない。こんなことならもっと行政の手続きについて詳しくなっておくべきだった。親父は海外にいるし、母さんはとっくの昔に他人だし。


「はぁ……」


 ベンチに寝転がり、空の見上げを続行。このまま眠くなるまでぼーっとしていようか――と。


「そこで何してるの?」


 濁った色の空が、綺麗な美少女に移り変わった。


「おわぁっ!? ――あだっ!」


 予想もしなかった展開に驚いてしまい、そのままベンチから落下する俺。地面に後頭部をぶつけてしまい、その場で悶絶するおまけつきだ。


「いっつぅ~~~~……!」

「ごめん。驚かせるつもりはなかった」

「い、いや、いいよ。俺が勝手に驚いただけだから」


 後頭部をさすりながら、ゆっくりと立ち上がり――俺に話しかけてきた美少女を見る。


「えっと……こんなところで何してるんだ、天王洲さん?」


 天王洲二葉。

 高校生でありながら日本中のプロゲーマーたちをばったばったとなぎ倒す、若き天才プロゲーマー。

 同じクラスであること以外、俺とは共通点の欠片もない天上人が、何故か俺の前に立っている。しかも、人気のない公園で。

 天王洲さんは俺を下から見上げながら、


「ゲームセンターで格ゲーの練習をしてた。今は、その帰り」

「へぇ。お金持ちの天王洲さんもゲーセンとか行ったりするんだ」

「特訓の一環でよく行く。野良のゲーマーも多いから、いい特訓になる。ちなみに、今日は100人抜きしてきた。ぶい」


 表情を変えないまま、指を二本立てる天王洲さん。無表情なのにやけに可愛いなこの子。


「そんなことより、加賀谷くんはここで何をしてるの?」

「あ、俺の名前知ってるんだ」


 同じクラスとはいえ、俺とは住む世界の違う天才美少女である。まさか凡人一直線の俺の名前を憶えてくれているとは思わなかった。


「当たり前。だって、いつも話しかけてくるから」

「あー……ごめん。迷惑だったかな」

「? 迷惑なんかじゃない。何でそう思うの?」

「いや、だって天王洲さん、いつもゲームしてるからさ。邪魔になってたら申し訳ないなーって」


 俺は浅く広くの交友関係を意識しているので、たとえ相手が天才サマであろうとも一応話しかけるようにはしている。

 まあ、だからといって全員が全員、挨拶を返してくれる訳じゃない。天王洲さんもその一人。だから迷惑になってるんじゃないかなって思っていたんだけど……。


「ううん。迷惑じゃない。むしろ、嬉しい」

「え、嬉しい? いつも無視してるのに!?」

「……なんて返せばいいか、分からなくて」

「え?」


 予想外過ぎる言葉が聞こえてきたので、思わず彼女の顔を覗き込んでしまう。

 天王洲さんは頬を赤く染めながら、俺から逃げるように目を逸らす。


「私、人とどう接すればいいのか、あんまり分からないから……」


 勉強とゲームの申し子が、信じられない言葉を口にした。

 ……いいや、考えてみれば、そうおかしくはないのかもしれない。


 天王洲二葉は天才だ。

 授業中にゲーム三昧だが、学年一位の成績を誇る大天才サマだ。

 それに加え、彼女は学校ではほとんど喋らない。彼女の姉妹以外の人と話している姿なんて、一度も見たことがない。

 だから、彼女が他人とどう接したらいいのか分からないと主張するのは、よくよく考えてみると納得感しかなかったりする。


「加賀谷くんは、こんな私に唯一話しかけてくれる。だから、名前は憶えてる」

「こんな、って……」


 天才サマでも自虐ネタを言ったりするんだな。


「いつも返事できなくてごめんなさい。そして……いつも話しかけてくれてありがとう」


 そう言う天王洲さんの顔は、どこか笑っているように見えた。

 いや、もしかしたら気のせいかもしれない。よく見たら表情全く変わってないし。俺の願望か? 童貞拗らせすぎだろ。


「ま、まあ、俺が好きで話しかけてただけだし。お礼を言われるようなことじゃないよ」

「そんなことない。加賀谷くんのおかげで、退屈な学校が少しだけマシに思える」

「楽しいとまではいかないんすね……」


 天才サマのご機嫌を取るのはかなりの難易度らしい。


「ところで、加賀谷くんはここで何をしてるの?」

「野宿の準備」

「……どうして?」


 こくん、と可愛らしく首を傾げる天王洲さん。


「昨日、アパートが火事で焼けちまってさ。親父が今、俺の新しい家を用意しようとしてくれてるんだけど、今日には間に合わないみたいなんだ。だから、今日だけは公園で野宿でもしようかなと」

「……今日の最低気温は10℃以下。死んじゃう」

「大丈夫大丈夫。頑丈さには自信があるから」


 割と昔から不幸体質なところがあり、いろんな不幸を乗り越えてきた結果、無駄に耐久値だけが上がってしまった。ジャガイモの芽ぐらいなら、食っても軽い胃痛ぐらいで抑えられる。


「まぁ、そういう訳だからさ、今日は公園でのんびり空でも見上げながら一夜を過ごすよ」

「……どこかに泊まらないの?」

「金がない。通帳もカードも焼けちまって、金も下せないしな」

「……貸す?」

「クラスメイトから金なんて借りられないよ」


 やけに食い下がってくるなこの子。凡人が野宿することぐらい、気にも留めるようなことでもないだろうに。


「むー……」


 しばし考え込んでいた天王洲さんだが、ポンと手を打ち、俺の目を真っ直ぐ見つめると――


「それじゃあ……私の家に、来る?」

「……はい?」


【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


もし「話が面白い!」「ヒロイン可愛い!」と思っていただけましたら

作品のフォロー、評価などしていただけるととても嬉しいです。


モチベーションが爆上がりになります!


まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!

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