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第26話 デートと考え事

 一夜さんと手を繋いで目的地に着くまでの間、異常なまでの緊張感が俺を襲っていた。


「なにか疲れてない?」

「いえ……漫画とかでよく美人の彼女と比べられる一般人の彼氏の話とかよく見るんですけど、まさか自分がその立場に立つことになるとは思ってなくて……」

「よく分からないけれど、あなたはもっと自分に自信を持つべきだと思うわよ?」

「あはは。お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」

「お世辞じゃないのだけれど……」


 どこか呆れたように溜息を漏らす一夜さん。


 幸い、ここに来るまで同じ学校の生徒とは出会わなかったけど、道行く人から「微笑ましいカップルだねえ」的な生暖かい視線を向けられる回数は両手の指では数え切れないほど。それだけならまだしも、人によっては「あのカップル釣り合ってなくね?」みたいな陰口を言ってきたり……一夜さんみたいな美少女と凡人の俺が釣り合わない事なんて最初から分かっているんだから、どうか放っておいて欲しい。


 さてさて、そんなこんなの艱難辛苦を乗り越えやって来たのは、大通りから少し外れたところにある楽器専門店だ。


「一夜さんってピアノ以外の楽器も弾くんですよね? なので、今回のデートコースは一夜さんの趣味に合わせてみました」

「どうしてそれを知ってるの……? 私、一度もあなたにピアノ以外の話はしたことなんてないわよね……?」

「一夜さんが過去に受けてたインタビュー記事に載っていたので」

「わざわざ読んだの? 昨日の今日で?」

「はい。せっかくのデートですから、一夜さんのことを知っておくに越したことはないかなって」

「……はぁ。本当、あなたの勤勉さには呆れを通り越して感心するわ」


 言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな顔をする一夜さん。インタビュー記事まで読み込むのは流石にキモいかなと思っていたけど、ひとまずは安心だ。

 褒めてもらえたのでとりあえず頭を掻いて照れていると、一夜さんが俺の手を自分の方へとぐいっと引っ張り、顔を近づけてきた。端正な顔が至近距離まで迫り、思わずドキッとしてしまう。


「私も、今日のデートであなたのことをもっと知られるように頑張るわね」

「ヒュッ……ち、近い、近いです一夜さん……」

「っ……ふ、ふふ。この程度で怯むなんて、あなたもまだまだね」

「一夜さんみたいな美人に詰められたら誰だってこうなりますって」

「びじっ……そ、そう? ま、まあ、誉め言葉として受け取っておくわ」


 普通にド直球で誉め言葉だろ、というツッコミをギリギリのところで飲み込んだ。

 やけに嬉しそうな一夜さんから一歩分距離を話し、深呼吸して息を整える。


「じゃあ入りましょうか」

「ええ。そうしましょう」


 一夜さんの手を引き、店内へと足を踏み入れる。外観は小さく見えたけど、店内はかなり広かった。ヴァイオリンにチェロ、フルートにオーボエ、そしてピアノ。他にもオーケストラで使われそうな楽器が所狭しと並べられていた。


「一夜さんはここ来たことあります?」

「ないわね。私の楽器は基本的に、ウチの子会社で買ってるから」

「高校生の口からナチュラルに出てきていいワードじゃなさすぎる……」


 この人たちは天才というだけじゃなく、日本有数のお金持ちなんだよなぁ。才能もなくて一般家庭の出である俺がこうして一緒にデートをしていること自体かなりの異常事態としか思えない。

 今の俺を親父と妹が見たら何て言うだろうか。親父はきっとゲラゲラ笑った後に「お前も男になったな」とか言いそうだ。妹は……すげえ怒りそうだな。俺が言うのもなんだけど、アイツ割とブラコンなところあるし……。


「理来。なにぼーっとしているの? 入り口に突っ立っていたら、他のお客さんに迷惑になるでしょう?」

「あ、すいません。ちょっと考え事をしてて」

「……もしかして、私とのデート中に他の女の事を考えてた?」


 ぷくー、と頬を膨らませる一夜さん。今日は一夜さんのいろんな表情が見れてなんだか役得の気分だなぁ。


「あーいや、あはは……すいません」

「否定しなさいよ……むぅ」


 一夜さんは口を尖らせながら、俺の手を力いっぱい握ってきた。可愛らしい行動だけど、彼女の握力が強くてめちゃくちゃ痛かった。俺が長男じゃなかったら耐えられなかったかもしれない。

 俺はペコペコ頭を下げながら、


「すいません。今からは一夜さんのことだけ考えますから許してください」

「……二言はないわね?」

「はい」

「……ふふっ。じゃあ、許してあげる」


 微笑む一夜さんに、つい視線が釘付けになってしまう。かっこいい美人の先輩というイメージとは違う、可愛らしい年ごろの女の子然とした表情。そのギャップに、俺の心臓がとくんと跳ねる。


 一夜さんは俺の手を引きながら、


「とりあえず、店内を隈なく見ていきましょ? 私があなたに音楽にもっと興味を持たせてあげるんだから」

「ふっ……カスタネットすらまともに演奏出来ない俺は手強いですよ?」

「自信満々に言うことじゃないわよそれ」


 おっしゃる通りです。



【あとがき】

読んでいただきありがとうございます!


もし「話が面白い!」「ヒロイン可愛い!」と思っていただけましたら

作品のフォロー、評価などしていただけるととても嬉しいです。


モチベーションが爆上がりになります!


まだまだ続きますので、引き続き本作をどうぞよろしくお願いします!

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